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0001・プロローグ




 「さーて、そろそろ正式サービス開始の時間だけど、緊張してきたな。ちょっとトイレに行っとこう」



 僕は高校一年生の男子、名前は宝珠。この字を見せると9割以上の人が「えっ!?」て言うけど、読み方は「たから・たま」という。何故こんな名前なのかは親に文句を言ったが、別にキラキラネームという訳じゃない。


 父の名前は源だし、母の名前は姫だ。ついでに双子の姉の名は静という、名前に似合わず猛烈に騒がしいけど。とにかく落ち着く為に水でも飲みにキッチンに行こう。



 「あれ? タマ、あんた何しに来た……って、もしかして緊張してるの? これから正式サービスが始まって、スタートダッシュして名前を轟かせようとか思ってる? あんたじゃ、無理無理」


 「しないよ、そんな事。それよりシズは準備できてるの? いっつも慌ててそそっかしいんだから、最初ぐらいちゃんとしたら?」


 「あんたと違って問題なし! 私って出来る女だからね!」



 どこが? って言いたくなるけど、相変わらず何か間違ってる気がするよ。目の前の186センチでスタイル抜群なのが、双子の姉である静だ。僕の身長が159しかないのは絶対シズに取られたからだと思ってる。


 そもそも家族の中で一番背が低いっておかしいんだよ、母さんでさえ172だっていうのに、何で僕だけ159しかないのさ。おかしいでしょ! 挙句の果てには運動センスも碌にないし……。


 まあ、シズや友人に羨ましがられる記憶力と模倣力はあるんだけどね。……模倣力? 僕は他人の真似が得意なんだよ、代わりに自分で何かするのは下手なんだけどさ。おかげで模倣は出来ても、それ以上は無理という情けない結果しか残らない。


 まあ、僕の使えそうで使いにくい特技はいいや、それよりそろそろ時間だ。早く部屋に戻って準備しないと。


 部屋に戻った僕は、HMDとグローブにソックスを装着してベッドに横になり、開始時間を待つ。昔はカプセル型の物に入らないとVRゲームは出来なかったらしいけど、いまはHMDとグローブとソックスだけで済む。


 グローブの先とソックスの先に配線があり、それがVRシステムに繋がっている。当然HMDにも大量に繋がってるけど、父さんが子供の頃にはカプセル型しかなく数百万円もしたそうだ。


 それから比べれば随分と値段は低くなったけど、最近は性能が頭打ちらしい。これ以上の性能引き上げは難しいだろうってニュースが流れてた。その所為で関連各社の株は少し値が落ちたそうだ。僕にはどうでもいいけど。


 おっと待機状態が終わってオープニングムービーが始まった。風が流れる草原からカメラが引いていき舞台となる2つの惑星が左右に映って<レトロワールド>のロゴ……ベータ版と変わってないじゃん! 露骨な手抜きじゃん! しかも英語でもないカタカナ表記も変わってない。


 運営はやる気が無いのかな? このゲーム前評判は良いのに……。ゲーム業界のトレンドとしては、<原点回帰>なんだそうだ。何でもリアルを追求しすぎた所為で、一部のゲーマーからはずっと不評が来ていたらしく、昔ながらのゲームを作りたいクリエイターは多かったらしい。


 そして生まれたのが、この<レトロワールド>。光と闇、白と黒。そういうものがぶつかり合う単純なゲーム、そして面白い。そういうコンセプトの下に作られたゲームであり、僕とシズはベータプレイヤーだ。


 中学3年の冬休みにベータ版をプレイし、この夏休みから始まるゲームライフに期待してたって訳。昔からやってる<BUSHIDO>と<ナイトロード>で暇を潰すのも苦労したよ。


 2つのゲーム? この2つは超リアルなゲームで、現実での刀の振り方とか槍の叩き方とが学べて、実際の合戦で一人の足軽として戦えるゲームだよ。今までにいったい何千回殺されたか分からないゲームだ。


 <ナイトロード>は騎士のゲームで、馬の乗り方とかランスの突き方とかが習える。模倣力の高い僕としては、他のゲームの為にこんなマニアックなゲームをお年玉で買ったんだけど、まさかここまでゲーム自体を楽しめるとは思ってなかった。もちろん限度はあるんだけど。


 おっと、楽しくも悲しくなる事は横に置いといてゲームを始めなくちゃ。スタートして、っと。うん、ベータ版と変わらない真っ白な場所だ。



 「この世界には、天使の治める星と悪魔の治める星があった……」



 あ、すみません。それ知ってます。簡単に言うと、古い時代に何かで争った天使と悪魔は、それ以降幾度となくお互いの治める星を攻め合っているという話。2つの惑星の各所にはゲートというものがあり、そこで天使の治める星と悪魔の治める星は繋がっている。


 このゲームでは相手の星を全て支配するか、<とある条件>を満たした側が勝者となる。相手の星を支配するのは殆ど不可能なので、<とある条件>が重要になってくるというゲームだ。それを探すのがプレイヤーとなる。


 そう、このゲームは天使と悪魔のどちらの星から始めるかによって、種族や職業が変わってくるゲームなのだ。という事で悪魔の星をポチっと。


 実はベータ版では天使の星しか選べなかったんだけど、正直にいって普通過ぎて面白くなかった。いや、ゲームとしてはいいんだけど、せっかくなら悪魔の星からプレイしたい。ゲームなんだから多少現実とは違うことをね。



 「アナタノアバターヲキメタアト、オナマエヲニュウリョクシテクダサイ」



 うわぁ……このAIもベータと変わってない。レトロ感を出したいのかもしれないけど、合成音声がキツ過ぎる……。まあ、気を取り直してコトブキ……入った。まあ、誰もこんな名前使わないよね。


 ちなみに本名の珠→じゅ→寿→ことぶき、という風に変換していっただけの名前だ。それでも重複する事は少ないので使っている。えーっと次に種族を選ぶんだけど……やっぱり。ベータの時にダークエルフがないなと思ってたけど、こっちにあったのか。


 他にもウルフマンとかあるんだ。完全に狼の二足歩行だけど、ケモナーの人が猛烈に喜びそうだなー。それは、そうと……あった、魔人。これが悪魔の星の人間だ。とにかく平均的な奴で良いんだよ。尖った能力なんて使いにくいだけだし。



 「マジンガセンタクサレマシタ。ツギハショクギョウヲセンタクシテクダサイ」



 メイン職業は<ネクロマンサー・見習い>で、サブは<錬金術師・見習い>だ。僕は習った動きは出来るけど、それ以外は碌に出来ない。つまりアドリブとして埋める役目の奴がいる。攻略組になる気はないけど、錬金術師を生かすにはマンパワーが沢山必要だ。


 元々やりたいのは錬金術師なんだけど、このゲームのメインとサブは経験値の入り方の違いぐらいで、サブだから極められないという事は無い。メイン職業は戦闘で、サブは生産などの行動でレベルアップする。


 つまり錬金術師はサブにしか入れられないんだ。中にはメインにもサブにも入れられる職業はあるらしいが、ネクロマンサーはメインにしか入れられない。ちなみに天使の星では<サモナー>が対をなす職業だ。



 「コレデヨロシイデスカ? ………YESガセンタクサレマシタノデ、ソレデハイッテラッシャイマセ。貴方の行く先が幸福であらん事を」



 ……ビックリしたー。あんなサプライズ要らないよ。突然合成音声じゃなくなるとかさー、勘弁して。それにしても悪魔の星って何処から始まるんだろう。ちょっとワクワクするのと、緊張とで半々ぐらいかな?。


 ゲームの紹介ページには、悪魔の星は<常夜の星>と書かれていた。だから最初から薄暗い筈なんだけど、このゲーム始まる場所は幾つかの候補からランダムで決まるんだよなー。


 場合によっては詰みかねない事をユーザーに強要するのはどうかと思う。まあ、おそらく大丈夫だろう。


 ベータの時におかしな所から始まった人は、サブ職業が<大道芸人>だったらしいし。僕はそんな変な職業じゃないから問題ない。


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>>何でもリアルを追求しすぎた所為で、一部のゲーマーからはずっと不評が来ていたらしく 現実では出来ないことをやるためのゲームなのにその路線ばかりやるのはやっぱり悪手よね、ゲームとして売り出す必要性が…
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