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第94話 大バズり

「観た? 虎咆先輩の動画」

「観た観た。やっぱり、あの人って美人だよね」


 座学の授業の合間の10分休み。


 生徒会役員になっても、相変わらず怖がられているせいか、絶賛クラスではボッチの俺なので、10分休みの時には、机に突っ伏して仮眠を取っている振りをしている。


 そんな俺の耳にクラスメイトの雑談が耳に入って来た。


「軍の幼年学校のミスコン動画では詩吟だけだったけど、やっぱり歌も上手かったんだな」

「式服でオーケストラバックでも声量が負けてなかったもんね」


はぇ~、結構あの動画観てる人が多いんだ。


まぁ、この学園は軍志望の生徒も多いし、軍のそういった動画チャンネルを登録して、士官学校の面接試験のネタになるからと、日頃からアンテナを張っているのだろう。


 まだ1学年なのに意識高いな。


「ねぇ! SNSのトレンドワードなんだけど、虎咆先輩の名前と音楽隊動画が1、2位だよ」

「マジか⁉ でも動画のコメント欄とかそんな盛り上が……ああ、軍の公式チャンネルだから動画サイトのコメント欄は閉じてるんだ」

「感想を言い合いたいファンが、SNSで呟きまくってるのか」

「ってか、再生数エグゥ!」


 トレンドワード……

 なんだか話が思ったよりも大事になってるな。


 でも、確かに軍の幼年学校のミスコンの動画もバズって、芸能事務所からスカウトが来てたんだよな。


 てっきり、銀髪ハーフ娘の着物と袴姿が物珍しかったから一発ネタでしかないと思ってたんだけど……。


「ちょっと、今のうちにサインとか貰いに行こうか」

「無理無理。すっごい美人の先輩で、前期まで2学年筆頭だった人だぜ。おいそれと声かけられねぇよ」


「あ、そう言えば虎咆先輩ってたしか、アイツと……」

「ああ……たしか虎咆先輩はアイツにベッタリだったよな……」


 クラスメイト達が言葉を途切れさせる。


 見える……見えるぞ!


 机に突っ伏していても、俺には雑談をしていたクラスメイトの様子が手に取るように見える。


 俺に、ミーナの仲立ちを頼もうと、俺に声を掛けようとしているな?

 ちゃんとミーナに確認した後になるけど、仲立ちくらいはお安い御用だぞ。


「「「うーーーん……」」」



 何やら、クラスメイト達は逡巡している様子だ。

 中々、声をかけられないな。


 あ! そうか!



「ふわぁー-、次の授業は何だったかな」



 俺はわざとらしい独り言を漏らしながら大きく伸びをして、机の引き出しの中をガサゴソとする。


 ほら、昼寝から起きたぞ。

 寝てる奴に声かけるのは、ちょっとハードル高かったよな?

ゴメンなすぐに気付かなくて。


 相手がちゃんと飛び越えられる高さのハードルを用意してやるのも、できる上官の務めだ。


 だから、安心して話しかけるが良いぞ。


「別のやり方を考えようか」


「そうだな」


 そう言ってクラスメイト達は解散し、無情にも次の授業の開始のチャイムが鳴った。




◇◇◇◆◇◇◇




「シンプルに死にたい……」


 昼休み。


 俺は、先ほどのショックから立ち直れず、魂装研究会の部室の畳の上で丸くなっていた。


「おい邪魔だぞ神谷。お前が畳に寝っ転がってると、昼食が食べられないだろ」


 周防先輩に足蹴にされたダンゴムシは、畳の小上がりの隅に丸まる。


「で、何をいじけてるんだお前は?」

「口では悪態をつきつつ、俺を気遣ってくれるの、ホント周防先輩ってツンデレ」


「気色の悪いことを言うな。話すならメシを食いながらだ」


 ツンデレ先輩に言われて、俺も大人しく座卓の前に座って、お弁当を広げる。


「休み時間にクラスでミーナの話題になって、俺に話しかけようという流れだったのに、結局話しかけられなかった」


 イジイジしながら、俺がポツポツと事の顛末を語る。


「ユウって、相変わらずクラスで浮いてるんだね。風紀委員になったり、生徒会役員になったり目立ってはいるんだけど」

「所謂、悪目立ちという奴ですわね」


 琴美がフォローになっていないフォローをした後に、真凛ちゃんが一刀両断する。


「それもこれも、入学早々に誰かさんが絡んできて、決闘騒ぎになったからだよ。俺の青春の第一歩は、あれで滅茶苦茶になったんだ……」


「それはお互い様だろうが」


 周防先輩が苦い顔で茶をすする。

 妹の粗相を、俺は兄の方を巻きこみ自爆をして、憂さを晴らす。


「そう言えば、虎咆先輩は流石にいらっしゃいませんね」


「あー、虎咆は早退していった」

「早退⁉ ミーナに何かあったの? 周防先輩」


 今朝は、元気に速水さんと朝食と弁当をどちらが作るかバトルしてたから、体調不良では無かったと思うんだけど。


「兼務している音楽隊から非常呼集が掛かったようだ」

「音楽隊に非常呼集がかかるなんて、今日は軍の本土総員玉砕命令でも発令されたのかな?」


 音楽隊という性質上、非常呼集なんて緊急時連絡訓練くらいしか無いし、そういう訓練は、あくまで学生の身分のミーナは免除されているはずだ。


「まぁ、原因はあれだろうな」

「ですね」

「速水先生もここにいらしていないという事は、学園にもかなりの数の取材陣が問い合わせて来ているのでしょう」


 え? え? なに?

 俺だけ話について行けてない。


「神谷、お前も軍の音楽隊の公式チャンネルの動画の話は聞いたんだろ?」

「うん。ミーナに今朝、観せてもらったよ」


「再生数見てないのか? えらいことになってるぞ」


 あ、そう言えばクラスメイトが、再生数がエグイとか言ってたな。

 俺は慌ててスマホで動画を開いた。


「再生回数が……8000万⁉ これって凄いの?」

「1日で1億回再生行ったら、世界記録レベルだな」


 はぇ~~


 あ、この間の幼年学校のミスコンの動画まで再生数が爆上がりしてる。


「ネットもSNSこの話題で持ちきりですよ。ほら」


 真凛ちゃんが、スマホの画面でネットニュースサイトのトップ記事を見せてくれた。


「戦場の歌姫ね……」


 ネットニュース記事のタイトルを見て、思わず乾いた笑いが出た。


「前回の幼年学校ミスコンの動画は、特定の年齢層や軍関係者位でのムーブメントだったが、これは海外からも観られているようだな」


「思った以上に大ごとになったね」

「虎咆先輩、今後学校に来れるのかな……」


 今朝は、いつも通りの日常が戻って来たと思っていたのに、またもや周囲が慌ただしくなりそうな予感を、画面の向こう側のミーナの歌っている姿を観ながら、皆ひしひしと感じていた。


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