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第9話 担任はあの人

「新入生入場! 総員起立! 拍手でお迎えください!」


 教頭先生と思しき人の司会進行により、式次第の通り、入学式が始まった。

 パチパチと拍手が鳴る中、緊張した面持ちで新入生の列の先頭が、入学式の会場であるホールへ足を踏み入れる。


 俺も列にならって入場する。

 在校生の席の中でも、ミーナの銀髪は目立つので、そちらに目線を向けると、ミーナは


「オ・メ・デ・ト!」


 と大きな口パクで祝福してくれた後、弾けるような笑顔を見せてくれる。


 しかし、こんなに大人数の同年代に囲まれるのは数年ぶりなので、俺にとって学校はなんだか新鮮な場所だ。


横にいる緊張した面持ちの新入生たちに、同年齢にもかかわらず、初々しいなという気持ちが芽生える。


 その後、国歌斉唱と来賓祝辞の後、学園長の祝辞と式は滞りなく進行していった。


 高見さんの話は、部隊長の時から長くて眠いんだよな。




「以上で、入学式を終わります。続いて始業式を執り行います」


 長かった入学式が終わり、次の式に切り替える司会の声で一気に締まる。

 ここら辺の統率がとれているのは、さすが軍の学校であるが故か。


 続いての始業式もつつがなく進んだ。

 この学園は色々と特殊な学校だが、入学式や始業式は割と普通だ。


 あ、式次第の次のはちょっと特殊か。


「続いて、学年筆頭の発表としょうの授与にうつります」


 司会進行の言葉に、今までどこか緩んでいた在校生席の方が、急激に活気づいた。


「2学年筆頭 虎咆ミーナ 前へ!」


「は、はい!」


 筆頭はミーナになったか。


 周防先輩は残念でしたね~。

 この間は、あんな自信と残忍さに溢れたドヤ顔で去って行ったのに。


 2学年の席から、いくつか嫉妬と怨嗟のこもった視線がミーナに纏わりついてるのが、俺にでも解った。


 そういった悪意の視線を向けられていることに、張本人なら気付かぬはずはないが、ミーナはそんな目線の存在をまるで無視したように、壇上に上がり高見学園長から、2学年筆頭の証である徽章を受け取った。


 降壇して、在校生席へ戻る際に、ちょうど俺の席の前をミーナが通っていく。


「おめでとミーナ」


 俺の前を通り過ぎる瞬間に、俺は拍手の手を止めて、ミーナにだけ聞こえるようにお祝いの言葉をかけると、ミーナの口元がわずかに緩んだ。




◇◇◇◆◇◇◇




 式典が終わりホールを後にすると、三々五々に自分たちの教室に戻った。

 朝、玄関前にクラス分けの掲示板が出ていて、俺はAクラスだった。


 自分の席に着き、今日の予定が書かれた紙を見る。

 この後は、クラスでホームルームをやって終わりか。


なんてことを考えていると、教室のドアが勢いよく開いた。


「はい、みんな席について~」


 教室に入って来た人物は、教壇の前に機敏な所作で立つ。



(んん⁉)



 俺は、思わず驚愕の言葉を発しそうになったが、辛うじて声が漏れだすのを寸前のところで抑えた。



「みんな初めまして。この1年間、君たちの担任を務める、速水まどかです。よろしくね」



 速水少尉、なにしてんの⁉


 担任⁉ はぁぁぁああ⁉


 俺、こんな話聞いてないんですけど⁉


 軍の上層部は、この人の性癖を把握してないのか?

 未成年のいる学校に、最も配置しちゃいけない人材だろうが!


 色んなことが目まぐるしく頭の中をグルグルしていると、教室内の皆を見渡すように視線を動かす速水さんと目が合うと、嬉しそうに速水さんは微笑んだ。




 その後、ホームルームで何やら速水さんが教壇から話していたが、ちっとも話の内容は頭に入ってこなかった。


 ホームルームが終わると、俺は帰り支度をして教室を出つつ、目で速水さんに合図を送った。


 速水さんは喜び勇んで、俺の後をついて来る。


 最初は高見学園長に文句を言おうかと思ったのだが、今は人目につきそうなので、本人を問いただすことにした。


 人目のない校舎裏に着いた所で、速水さんがパッ!と振り返る。


「お久しぶりです、神谷少将」


「学園で少将は止めてくれ」

「失礼しましたユウ様。つい、再会できた喜びで」


 ユウ様は余計にアカンでしょ。


「学校では神谷くんで。外向きには教官と生徒の関係なんだから」

「承知しました」


「それで、どうやって学園に潜り込んだの? 警察に自首するなら、元上官のよしみで付き合うよ」

「学園に不当に侵入したんじゃありません! ちゃんと正式な辞令が出ています!」


 速水さんが胸元の内ポケットから人事局交付の辞令文を見せてくる。


『速水まどか少尉 特務魂装学園の教官職と神谷少将の秘書官の兼務配備を任ずる』と書かれていた


 そんな身に着けるような文書じゃないので、速水さん本人も俺に疑われることは解ってたんだな。


「くそ……人事局は何を考えてんだ。よりによって、一番未成年者から遠ざけておきたい人が来ちゃったよ……」


 俺は頭を抱えた。

 ホント、人事局は何考えてるの?


 これはあれか?


 速水さんが何か学園で未成年に手を出す不祥事を仕出かしたら、監督責任を問うて俺を失脚させるための敵派閥の罠か?


「超長距離リモート飽和爆撃作戦での名バディぶりが上層部より評価されたものと愚考いたします」


「まだ学園側では作戦行動用の準備は整ってないでしょ」

「怪しまれないように、年度初めからの配属にしたのでしょう」


 どちらにせよ、配属されてしまった物はしょうがないか。


 速水さんの性癖はまだ人事局にはバレていないのか、承知の上で、俺と組ませるメリットの方を大と考えたのか。おそらく後者だろう。


 そうすると、学園側で俺の正体を知っているのは、高見学園長と速水さんだけか。

 ミーナは、俺が軍人をやっていたのは知っているが、少将の位にいることについては知らないし。


「それにしても、よりによってクラス担任とは」

「神谷しょ……神谷くんと一緒にいるところを周りから不審がられないための配置でしょう」


「まぁ、それもそうか。取り敢えず、上から指示があるまではただの教官と生徒をやってますか。よろしく、速水先生」


「ああ……先生呼び、良いですね」

「あと、生徒に敬語使うのは不自然すぎるから、もっと気安い感じでね」


「は……はい! 承知し……わかったわ」


 とにかく、速水さんとは色んな意味で、教官と生徒の関係で行きたい。

 親密になって、赤ちゃんプレイの強要とかされたくないし。


 そんな事を考えていると、ふと校舎裏の角の向こう側から何やら諍いをしているような声が聞こえて来た。


 俺と速水さんは顔を見合わせて、声のする方へ向かった。


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首こり肩こりが最近エグイですが、パソコンにしがみ付いております。

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