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第83話 まさかの兼務辞令

 いつもと何だか雰囲気の違う速水さんを不気味に思いつつ、俺とミーナは大人しく速水さんの後を追うと学園長室に着いた。


速水さんがノックをして入室要領の通りに名乗り、向こうからの「入れ」の声を受けて入室する。


「高見学園長。何なんですか?」


 俺とミーナの2人で学園長室に呼ばれたので、大方の予想はついているが、俺はとぼけたように高見学園長に目的を訊ねる。


「解ってるくせに聞くな。統合幕僚本部から、問い合わせが来てるんだ。虎咆2学年筆頭についてな」


「賞金は貰ってないし、その場限りの褒章なら副業申請は不要ですよね?」


 俺は、先ほど琴美から聞きかじった内務規定を持ち出して、何の問題も無いとの見解を示す。


「ああ、そこは人事側も気にしてない。それよりもな、虎咆2学年筆頭に、特別任務の辞令が下りたんだ」


「は⁉ 辞令⁉」


 軍属とはいえ、特務魂装学園の生徒であるミーナに何の任務があるって言うんだ?


 俺が疑問に思っていると、高見学園長が手に持った辞令交付書を読み上げる。


「虎咆上等兵を本日付で市ヶ谷音楽隊への所属とする。なお特務魂装学園生徒としての地位はそのまま保持され兼務扱いとする」


「音楽隊? 兼務⁉」


 予想外の話について行けないミーナが、思わず高見学園長に聞き返してしまう。

 それは、2学年筆頭という立場とは言え、学園長に対して少々礼を失した行動だったが、高見学園長はその事を気にも止めずに話を続ける。


「突然のことで動揺するのは無理はないが、まずは落ち着きなさい。順を追って説明するから」


 そう言って、高見学園長が応接ソファへミーナと俺を誘う。


「まず、先日の軍幼年学校の学祭で虎咆2学年筆頭が出場したミスコンは軍の内部どころか、外部でも大変な反響だったそうだ」


「ネット動画とか、いっぱい上がってましたもんね」


 北欧銀髪美少女が振袖袴姿で詩吟をするとかいう、設定のごった煮みたいな映像は、新しい物好きのネットの人たちに大いにウケたようだ。


「虎咆2学年筆頭の素性は、すぐに割れたみたいでな。学園と軍の統合幕僚本部あてに、色々な芸能事務所からスカウトが来た」


「昨日の今日で⁉」


 動きが早いな。

 まぁ、話題に上がっている内に、兎に角早く、可能性を感じるから唾を着けておこうという魂胆なのだろうか。


「それで、何で芸能事務所のスカウトと、音楽隊への兼務が繋がるんです?」


「どうやら、かなり大手の芸能事務所が軍の上層部に接触してこようとする気配があったらしくてな。無下に断ると、今後に響くような事務所らしくてな。それなら、先回りして軍で囲い込んでおこうという話になったようだ」


「ああ……動きが早いのは、事態を深刻化させないためですか」


 日頃、手続きがどうたら、決裁ルートが何だと動きが遅い上層部だが、素早く動いたのは上層部の保身のためかよ。


「となると、その芸能事務所さんとやらへのアピールのためにも、ミーナはちょっとは芸能活動っぽいことをしなきゃならないですよね? それこそ人前で歌ったりとかのアイドル活動とか」


「え! 私、別にアイドル志望じゃないんですけど⁉」


 話が突拍子も無かったために、呆けていたミーナだったが、ようやく気を持ち直して抗議の声を上げる。


「理由はどうあれ、正式な業務上の人事異動だから、これは軍属である以上、拒否はできんな」

「そんな……」


 ミーナが絶句しているのを尻目に、


「ププッ……小娘がアイドル……」


 速水さんが口元を抑えて、肩を小刻みに震えさせつつ笑いをこらえる。


 なるほど……速水さんはこの件を先に聞いていたから、俺たちを迎えに来た時に、ミーナに少し優しかったんだな。笑いたいのを堪えるために。


 その様子を見て、ミーナはギロリと速水さんに視線を向けるが、それよりもミーナとしては優先すべきことがあった。


「あの……音楽隊での業務はどのような内容になるのでしょうか?」


「そこら辺は、向こうからの連絡待ちになるな。このスピードでの辞令交付だからな。恐らく、実際の業務内容については後付けで、今、現場が必死に考えてる最中だろう」


 不安そうに高見学園長に聞くミーナだったが、あいにく高見学園長はおろか、当の音楽隊ですら何も知らないと。


 ミーナはもちろんだが、上層部から無茶振りされた音楽隊の人たちも気の毒に。


「一先ずは向こうから連絡があるまで待機だ。何かあれば連絡する。以上だ」


 そう言って、高見学園長から退室を促されたのと同時に、ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったので、俺たちは大人しく一礼して学園長室を後にした。




◇◇◇◆◇◇◇




「マ~オ! マァ~~オ‼」

「あらら、ネコちゃんご機嫌斜めだね」


 俺は、気が立っている鳴き声を上げるミーナ猫の顎の下を撫でてやる。


「ゴロゴロ……♪ ゴロゴロ……♪」


 すぐに喉を鳴らしてご機嫌になるミーナ猫。

 この猫、チョロくない?


 午後の授業が終わって放課後。


 ミーナは無言で校門の前で待っていて、俺の家に押しかけて来た。


 色々あったからね。

 今日は甘えさせてあげようと、俺も何も言わずに家に招き入れた。


 あとは猫じゃらしとボール遊びで身体を動かしてあげたら、完全に気分も持ち直すだろうか?


「ハァ……」


「思わずため息が出ちゃったって感じだねミーナ」


 猫ちゃんプレイでストレスの軽減を図ったようだが、完全にぼつしきれなかったようで、ミーナ猫から、ただのミーナに戻ってしまったようだ。


「私がアイドルとかやれるのかな?」


 ミーナは不安そうに呟く。


「まぁ芸能活動って言っても色々だからね。音楽隊だから、そんな無茶な事はさせないと思うよ。あくまで、軍の慰問でコンサートしたりとかだと思うよ」


「そうなのかな?」


「頭の固い上層部だしね。けど、ミーナのアイドルのフリフリ衣装とか、個人的には観てみたいかな」


「そうやって、年上の女をその気にさせて、ユウ君って悪い男ね……」


 そう言いながら、ミーナも実はまんざらでも無さそうだ。

 本気で嫌がってたら、統合幕僚長にでも話を通そうかと思ったけど、そこまでは今のところ必要なさそうだ。


「芸能界はそういう怖い人が多いみたいだから気を付けてね。何かあったら、俺が後ろ盾で潰すから」


 俺が言ってることの方が、思いっきりケツ持ち反社団体的なノリの気がするが、俺は自分に近しい人間に手を出されて黙っているようないい子ちゃんではないのだ。


 力は使うべきときに振るわなければ、抑止力たりえないのだから。


「うん、よろしくユウ君。あの……ネコちゃん甘え、再開してもいい?」


「どうぞ~」


 まぁ今日は仕方ないかという想いで、俺はその後、ミーナ猫との遊びにたっぷり付き合った。


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