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第82話 学祭の思わぬ余波

「はい。これ御土産ね」


 昼休み。


 学園のいつもの魂装研究会の部室で、食後のデザートとして、軍の幼年学校の学祭で買ってきたお土産を皆に披露する。


「幼年学校サブレに、幼年学校せんべい、幼年学校チーズケーキ……色々作ってるんだな」


 最近、進路変更して、学園卒業後は士官学校に進みたいと言っていた周防先輩が興味深そうに見ていた。


「周防先輩も軍志望に鞍替えしたなら来ればよかったのに」

「俺は、来月の士官学校の開校祭に遊びに行く予定だ。進路相談コーナーも開設されるらしいから、そっちには行く」


「お兄ちゃん、ワクワクしてるね」

「ああ。今まで民間のフロント企業で荒事専門の対処をする人生が精々だろうと思っていたからな。他の軍志望より遅れを取っている分、頑張らないとな」


 周防先輩が目を輝かせている横で、お兄ちゃんの様子を真凛ちゃんが嬉しそうに見ている。


 真凛ちゃんは、きっとお兄ちゃんを追いかけて士官学校も一緒に行くんだろうな……

 既に、少佐だけど。


「そう言えば、琴美も学園卒業後は軍に入るために士官学校に行きたいって言ってたよね」


「ふわぁ……うん、そうだよ」


 琴美は、慣れぬ任務のせいだろう。

 大分、寝不足なようだ。


「大分、活躍してるみたいだな」


 俺はチラリと部室の畳の新聞に目を落としながら琴美に笑いかける。


「うん疲れた。けど、大体一掃したから一段落かな」


 琴美は、話をボカしながら俺に返答する。


 新聞の一面には、先日沖縄で領海を侵した国の艦艇と航空戦力の技術水準が、コンピュータ制御を用いない80年前の水準に落ちたことにより、四方八方の国から侵攻を受ける羽目になっているとの記事が載っていた。


 桐ケ谷ドクターと琴美のタッグはかなり凶悪だったようで、沖縄侵攻をした国の通信インフラやコンピュータ制御のシステムも根こそぎ葬り去ったというニュースは、世界に衝撃を与えた。


「『同時飽和爆撃攻撃以来の戦術史への衝撃です』って、見知った人が社会面の記事でコメントしてて朝からコーヒー吹きそうになったわ」


 ミーナが何やら面白いことを教えてくれたので、こちらも新聞の一面からページをめくると、確かにそこには見知った顔が……


「まぁ、世界的な魂装電子戦の権威ですからね、桐ケ谷ドクターは」

「いや、これ捏造記事でしょ。語尾が『ですぞ~』じゃないし、ちゃんとした綺麗な服装でシャナリと座ってるし」


 記事に載っているドクター桐ケ谷の写真は、日頃はボサボサの髪はきちんと後ろで綺麗に結われ、レースのついた清潔なブラウス着せられてループタイで知的さをアピールしつつも、メガネじゃなくてコンタクトにすることで柔らかな雰囲気を醸し出す装いとなっている。


「あの人、顔のパーツ自体は悪くないから」

「女はこれくらい化けるわよユウ君」


 ミーナと琴美が当たり前みたいに言うが、女の人って皆そうなの?

 っていうか、桐ケ谷ドクターは、自分がしでかした事なのに、まるで他人事みたいに記者にコメントしていた。


 そういうの、ちゃんと演技できるんだね。


「化けると言えば、虎咆先輩、先日のステージではいつもと違って大人しかったですね」


「…………はい?」


 突然、真凛ちゃんから水を向けられて、ミーナが何のことだ? と惚ける。


「軍の幼年学校のミスコンに出場して、優勝をかっさらって行ったじゃないですか」

「珍しく着物と袴姿だったな」


「なんで知ってるの⁉」


 真凛ちゃんと周防先輩に言われて、今度こそミーナが慌てだす。


「今は、学祭のライブ配信する所も多いですしね。昨日の夜の内で、虎咆先輩の部分だけ切り取ったショート動画がいくつもアップされてて、それも大人気みたいですよ。私はそっちで見かけましたから」


 琴美が、スマホで動画サイト内検索した画面を見せてくれる。


 見てみると確かに、公式以外にもたくさんのユーザーがアップした動画が並んでいた。

 そして再生回数がたった1日でとんでもないことになっている。


「なになに……『銀髪和服美人って新しい』、『ちょっと照れながらステージに出てくるのが初々しくて可愛い』、『才能の原石って感じで最高』、コメント欄も盛り上がってるね」


「ちょっとユウ君……恥ずかしいから読み上げないで……」


 ミーナは恥ずかしそうに、スマホを取り上げて琴美に返す。


「てっきり、ノリノリで出場したのかと思ってましたが違うんですね」

「あの時は、本来の出場者の人がドタキャンしちゃって、幼年学校の人たちが困ってたから、仕方なくよ……ね? ユウ君」


「うん、そうだよ。屋台でカエル食べた後に、合同演習の時にお世話になった兵長さんに頼まれたんだ」


「お前ら、幼年学校くんだりまで行って何喰って来てるんだ」

「いや、だからカエル美味しいんだって!」


「仕ご……用事があって、幼年学校の学祭に一緒に行けない時にはほぞを噛んだけど、色々と行かなくて正解だったのかも」


 たしかに琴美もあの場に居たら、琴美もミスコンのステージに上げられてただろうな。

 カエルは、今度機会があったら、新鮮なのを食わせてやるから楽しみにしていてくれよ琴美。


「今日クラス内で、スマホを見つつ私の方をチラチラ見てる男子が多かったのは、これが理由だったんだ」


 ミーナは迷惑そうにため息をつく。

 学年筆頭という目立つ立場にあるが、容姿で注目されるのは本意ではないようだ。


「そう言えば、ミスコンって優勝したら賞金は出たんですか?」

「いいえ。あの着物をスポンサー企業さんから貰っただけよ」


「それなら、特別職国家公務員の兼業禁止規定にも抵触はしませんね。賞金でも、あまりに高額で無ければ、確か兼業許可申請自体も不要だったと思いますし」


 琴美が、生徒会っぽくルールについての見解を述べた。


「あ~、一応公務員だしね俺達。副業となるとちょっと面倒なことになるしね。琴美はよく気付くな~」


「別に、持ち上げても何も出ないよ」


 照れくさそうに琴美がソッポを向く。


 と、同時に魂装研究会の部室の引き戸がガラッ! と少々、乱暴に開けられる。


「ちょっと年増。ノックか声掛けくらいしなさいよ。入室要領を士官学校で習わなかったの?」


 ミーナが、突然入って来た速水先生に厭味ったらしく苦言を呈す。

 が、速水さんは、そんな事はお構いなしに、俺たちが昼食を食べている小上がりの畳の方にツカツカと近づく。


「虎咆さん、あとユウ様。至急来てください」


 そうニッコリと笑う速水さんは俺とミーナに、自分について来るよう言った。


 いつもの小娘呼びではなく、虎咆さんと速水さんが呼んだことに、俺たちは顔を見合わせた。


 何だか嫌な予感がする。


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