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第81話 騒ぎを起こしてトシにぃ召喚

「いや~、助かったよトシにぃ」

「まったく……中央広場でトラブルが起きたと呼ばれてきたら、案の定お前か」


 集まり過ぎた人垣を、学祭実行委員の人たちが整理しているのを横目に、俺はトシにぃから小言を受けていた。


「そっか、学祭でトラブルを起こせばトシにぃを召喚出来たのか。これは盲点だった」

「ふざけた事したら、教官権限で学外へ強制退去処分にするぞ」


「俺、一応ここの幼年学校の校長より階級上なんですけど?」


 幼年学校の校長は准将だからな。

 高見学園長と同じだ。


「申し訳ありません、お騒がせしまして小箱中佐」


 ミーナが丁寧に腰を折り、トシにぃに騒動について謝罪する。


「いや、学祭実行委員の警備や人員整理の落ち度だ。お前ら、学祭終わったら武装フル装備で構内外周行軍3周な」


「「「はい……学祭後、武装フル装備での構内外周行軍3周、了解です」」」


 学祭実行委員の人たちが、ただでさえ疲れているのに、更にゲンナリとした声でトシにぃの命令を復唱して、また持ち場へ戻って行った。


「トシにぃ、パワハラ~」

「教育だ。指導者の俺も伴走するから、本音を言えば見て見ぬふりをしたい。面倒くさい」


それは教官として、色々とぶっちゃけすぎでしょトシにぃ。

近くに生徒さんがいないからいいものを。


「しかし、ミスコンで優勝したとはいえ、あそこまで人が集まる騒ぎになるとは正直想定外だったな。審査員は満場一致で決まったブッチギリの優勝だったせいか」


「ミーナ圧勝だったんだ」

「この衣装のおかげだと思いますけどね」


 ミーナが苦笑いしながら謙遜する。


「すまんなデート中に。うちの学祭実行委員が少々強引にお願いをしたみたいで」

「滅相もないです小箱中佐。おかげで、こんなに素敵な着物も頂戴しましたから。どうかお気になさらないでください」


 何だろう……


 ミーナが凄く折り目正しい応対だ。

 着物の格好に引っ張られてるのかな?


「そう言っていただけると助かる。しかし、最後にこんな綺麗な人が出てきたせいか、他の出場者は肩を落としていたな」


「あれ? トシにぃ、ミスコンのステージ観てたの?」

「教官室で学祭のライブ中継配信で観ていた。ステージは固定の全景カメラがあるからな」


「へぇ~、最近の文化祭はハイテクだな。これも、学園で文化祭をやる時には是非やりたいな」


 後で、トシにぃに幼年学校の文化祭実行委員で技術回りの人を紹介してもらおう。

 とは言え、俺はパソコンとかてんで駄目だから、琴美とやる取りしてもらおうかしら。


 って、俺が琴美の仕事を増やしてどうする⁉


 よし。学園の文化祭のために、軍務の方はやはり俺の方で統合幕僚本部に圧力をかけて減らしてもらおう。


「今、何かよからぬことを考えてるな? 祐輔」

「なんでもないよ~トシにぃ」


 付き合いが長いから、相変わらず俺の内心を読んで来るなトシにぃは。


「本当に2人とも仲が良いんですね」


「トシにぃ、やっぱり私達ってそういう関係に周りから見られてるみたい。どうする?」

「こいつが一方的に纏わりついて来てるだけだ」


 俺が、徐々に男の外堀を埋めようとする策略家の女みたいなウザ絡みすると、鬱陶しそうにトシにぃが一刀両断する。


「小箱中佐は祐輔君が小さい頃に戦場で一緒だったんですよね?」


「ああ。その辺の話はここでは何だから、教官室でしよう。また人が集まり出したしな」


「はい。ご配慮ありがとうございます」


 そう言って、トシにぃはチラリと人垣を一瞥する。

 多くの人が、ミーナを撮ろうとカメラやスマホを向けている。


 今は学祭実行委員の人たちが抑えてくれているが、規模が大きくなれば御しきれなくなる可能性がある。


 ちょっと群衆を落ち着けるためにも、一回この場は掃けた方が良さそうだ。


 しかし、トシにぃめ。


 相手がミーナという美少女なせいか、今日は随分ジェントルマンな振る舞いじゃないか。


 色々気に食わないこともあるが、一先ず俺達は、トシにぃにつき従って、校舎の方へ入って行った。




◇◇◇◆◇◇◇




「ん、コーヒーでいいか?」


「うん、ありがと」

「ありがとうございます」


 教官室の応接セットでトシにぃからのコーヒーカップを受け取る。


「それで、祐輔君と小箱中佐の話についてなんですが……」


「ねぇ、ミーナ。今日はやけに丁寧な口調じゃない? 俺の事もユウ君呼びじゃなくて祐輔君とか呼ぶし」


 俺は、ミーナの話を遮る。

 先程から違和感が凄いし、何より会話が窮屈なのだ。


「そんな事ない……ですわよ」


 いや、言い慣れてないから変なお嬢様言葉みたいになってるじゃん。


「トシにぃ。この子、今は淑やかだけど、俺の担任女性教官を、年増って呼ぶ人だからね」

「なんで言うのよユウ君!」


 だって、ミーナがカチコチになってるの見ると、こっちまで窮屈に感じるんだもん。

 頬を膨らませながらポカポカ俺を殴ってくるミーナを、トシにぃも苦笑いしながら見ている。


「さぁ、化けの皮は剥がれたから諦めろミーナ」

「折角、ユウ君の親代わりの人に好印象持ってもらうチャンスだったのに……」


 ああ、姑の前で猫被る嫁みたいな気持ちで臨んでた訳ね。


「アハハッ。確かに、もし俺が結婚式するなら、親族席に父さん母さんの代わりにトシにぃに座ってもらわないとね。無論、新郎方のスピーチもトシにぃで」


「その時に俺が既婚だったらな」


「え~、じゃあ無理じゃん」

「おい祐輔。今は、そういうのもセクハラになるんだから、上に立つ者として気をつけろ」


 トシにぃが仏頂面でコーヒーに口をつけながら苦言を呈する。

 大丈夫。俺だって、セクハラする相手は選んでるから。


「はいはい。それならもう、桐ケ谷ドクターでいいじゃん。あの人も婚活が大変みたいなことボヤいてたし」

「人の結婚を、そんな昼食の店を適当に決めるみたいに言うな。それに、桐ケ谷は沖縄で、もうちょいで年下の恋人が出来そうって、はしゃいだメッセージを送って来てたぞ」


 トシにぃの言葉に、俺とミーナは顔を見合わせる。

 そして、2人で「はぁ~」と大きなため息をつく。


 年下の恋人って、もしかしなくても副官の名取さんの事だよな……

 あの人、桐ケ谷ドクターのこと本気で嫌がってたじゃん。


「可哀想に桐ケ谷ドクター……とうとう、あの人は電脳の世界を飛び越えて妄想の世界に……」

「いや、副官の名取さんを脳内彼氏認定してるから、既に妄想と現実の区別が本人にもつかなくなってるだけじゃないかな」


 俺とミーナは、それぞれ桐ケ谷ドクターの、脳内彼氏の事を同期のトシにぃに自慢するという奇行について考察を述べ合う。


「お前たちはこの間、沖縄に行って桐ケ谷と会ってるんだったな。今ので、アイツの実態が何となく解ったよ」


 俺達の様子を見て、トシにぃも、憐れむような目で、遠い沖縄に居るであろう同期の事を思って、ため息をついた。


「そう言えば、トシにぃ。この間Web通話で話してた琴美の事について……あ、いや何でもない」


 俺は言いかけた言葉を慌てて取り下げた。


 この間、コンから呈された、トシにぃが何故、琴美がこの国の特記戦力に選ばれたという、最新の国家機密を知っているのかという疑問について聞いてみようかと思ったけど、今はミーナがいるんだった。


 うん。

 きっと、桐ケ谷ドクターから聞いたんだよね。

 気心が知れた仲が良い同期だから、それくらい話すよね。


 うん。


「そろそろ、メインイベントの棒倒しが始まるな。こいつは生で観た方がいいから行くか」


「軍の学校の棒倒しって有名だよね。うん行く行く」


 トシにぃから誘われたので、俺は何となくモヤがかかったような思考を止めて、いそいそと教官室の応接ソファから腰を上げて外へ出かける準備をした。


 トシにぃからわざわざ誘い水をかけてくれるなんで珍しいなと思いながら。


今年の防大の棒倒しは第2大隊の連覇でしたね。おめでとう。


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