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第74話 生徒会は最早こちらの手の内

「おはようミーナ。迎えに来たよ」


 今日から2学期が始まる。

 夏休みの宿題をほぼほぼ終わらせた(全部とは言ってない)俺は、晴れやかな気持ちだ。


 しかし、今日は珍しくミーナがいつも自宅を出る時間になっても我が家に来なかったので、俺の方から虎咆家に迎えに行く。


 ミーナも昨夜遅くまで、俺の勉強に付き合ってくれたので寝坊してしまったのだろうか?


「あらおはようユウちゃん。ミーナ、ユウちゃんが来てくれたわよ」


 出迎えてくれたお母さんのミリアさんが、玄関からミーナへ呼びかけると、ミーナがおずおずと出てきた。

 珍しく、口元はマスクで覆われている。


「おひゃひょう、ユウ君」

「なんて?」


 まるで入れ歯を失くしてしまったお婆ちゃんのような話し方で、聞き取れなかった。


「昨日、パイナップル何本も食べたんでしょ? 口の周りがパイナップルの酸で炎症が起きてるみたい」


 ああ、昨日の冷やしパイン。


 花火を見ながらはもちろんのこと、花火後の勉強でも夜食代わりにパクパク食べたんだよな。


 パイナップル丸々1個分だから、たっぷりあったから。


「みじゅのんだだけで、ふちびるがヒリヒリすりゅの」


 水を飲んだだけで唇がヒリヒリする、ね。

 俺の方は何ともないから、沖縄旅行での重い日焼けと言い、ミーナはお肌がセンシティブなようだ。


「今日はやふむ」

「新学期初日から波乱の幕開けだね。いってきます」


「行ってらっしゃい。ミーナの事、頼むわねユウちゃん」


 とりあえず、登校には問題ないみたいなので、俺は、今日は休みたいと訴えるミーナの手を引いて駅へ向かった。


 しかし、地味に修羅場なミーナには悪いが、この朝一の波乱は文字通り、序章でしかなかった。




「ユウ! やっと来てくれた! 助けて!」

「おはよう琴美。どうしたの?」


 少し懐かしさをおぼえる学園の玄関に着いた早々、琴美が俺に文字通り泣きついて来た。


 ミーナが早速、いつものように横でどす黒いオーラを飛ばす。

 今日はマスクをしているから、何だかいつも以上に迫力がある。


「会長と副会長を止めて!」

「土門会長と名瀬副会長がどうかしたのか?」


「と、とにかく生徒会室に来て!」


 琴美が今にも泣きだしそうな顔で、必死になって俺の腕を引っ張る様は、とても国家の重要人物になったようには見えなかった。




「だからね、ケン君。火之浦様に如何にして生徒会長の役職をお譲りするかなんだけど」

「ううむ……生徒会規約を確認してみたが、やはり選挙を経ずしての承継は無理なようだな。となると、やはり生徒会長の俺や副会長の京子が不在となった場合に、生徒会役員が代位できるという条項を活用するか」


「そうね。会長、副会長不在時に即座に再選挙をしなくてはならないという条項は無いから、そのままなし崩しに火之浦様が、学園を牛耳」


「はい、そこまでです!」


 生徒会室に、悲痛な琴美の声が響き渡る。


「火之浦様。おはようございます」

「おはようございます」


 土門会長と名瀬副会長が、ビシッと屹立して琴美に挨拶をする。


「だから敬語止めてくださいってば!」


 琴美が新学期早々、泣きそうになっているのはこれが理由か。

 自身の護衛役として名瀬副会長が就いたと琴美から事前に聞いていたが、確かにこれは居心地が悪いなんてもんじゃない。


 というか、さっきも何やら物騒なことを呟いていた。


「琴美が生徒会長代理になって特務魂装学園を牛耳るの?」

「そんなの、やりたくない! なのに、この2人が……」


「ねぇ神谷君。詳しくは機密のために言えないんだけど、最早、火之浦様はこの国に無くてはならぬ人物になられたのよ。だから、火之浦様には敬語使えやコラ」


 俺も特記戦力の第1席だということを知らない名瀬副会長が、俺に笑顔でブチ切れつつプレッシャーを掛けてくる。


「一学期には名瀬副会長、ことっちって呼んでくれてたのに……」

「ええ。あの頃の浅ましい自分が許せないですね。火之浦様が仰るのであれば、剃髪でも断指でも何でもする所存です」


 責任の取り方が重いよ! マフィアかよ!


「この間、沖縄に再度行った時も、2人共ずっとこの調子で……どうしたらいいかな?」


 琴美が困ったように俺に助言を求めてくる。

 特記戦力の立場は、学園では秘匿しなくてはならないんだから、確かにこれはよろしくない。


「ん? 簡単だよ。立場を使って命令すればいいのさ」


「出来ないよ、そんないきなり」


 たじろぐ琴美のために、ここは先任の特記戦力として俺が一肌脱ぎますか。


「じゃあ、俺が見本見せるね。会長、副会長いいですか?」

「は? 何よ。虎咆筆頭の若いツバメの1年生ごときが」


 名瀬副会長から強烈な侮蔑のジャブが飛んでくる。

 そういや、この人は大概、口が悪いんだった。


 若いツバメって1歳しか歳変わらないじゃん……


「ユウに酷い事言わないで!」


 突如、俺の背中に隠れていた琴美が大きな声で名瀬副会長に食って掛かる。


「ひ、火之浦様?」


 琴美の剣幕に、思わず名瀬副会長も驚く。


「良いですか貴方たち? 今後、ユウの事は私と同一の存在と思って接しなさい」

「え? しかし……」


「これは命令です!」


 さっきまで躊躇していたのがウソのように、強権を振るう琴美。


「は……はい。解りました」

「解ったなら、ユウにさっきの失礼な言動を謝る!」


「え……でも私、副会長という立場ですから、一般生徒のしかも1年生君にその……」

「つべこべ言わない!」


 琴美のブレの無い上意下達な様から、名瀬副会長も反論は許されないと悟ったようだ。


「も……申し訳ありませんでした神谷様……」


 釈然としていないが、圧倒的な上位の存在である琴美から言われて、仕方なく俺に謝罪する名瀬副会長。


 しかし、身体は正直なようで、屈辱のためかプルプルとわずかに震えている。

 日頃、人を小馬鹿にしたような副会長が敬語で謝ってくる様は、なんだかゾクゾクした。


 その後、勢いそのままに、琴美は学園では今まで通りの関係性に基づいた言動を取るようにと、名瀬副会長と土門会長へ指示した。


 なんだ、俺が助けるまでもなかったなと、役立たずに終わった俺は琴美が上官としての第一歩を歩み始めたのを微笑ましく眺めていた。


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