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第70話 バイバイ! 沖縄

「今、何時ですか神谷少将!」

「16時50分。安全運転で飛ばして速水さん!」


「矛盾した命令をしないでください!」


 俺とは速水さんは、海上戦闘の報告やら事後処理やらの諸々の後処理を、嫌そうな顔をしている空挺団長に丸投げして、知念分屯地へ空間移動で飛び、レンタカーで急いで集合場所の国際通りのシーサー像の前へ急いで向かっていた。


 今朝の解散時に、集合時刻の17時00分に集合と魂装同好会部長命令を出したのに、当の部長が遅刻では示しがつかない。


 士官以上は、時間厳守について訓示や説教をしなくてはならない立場なので、自分が遅刻しないことへの強迫観念が強いのだ。


「17時00分! 見えた! あそこだ!」


 モノレールの駅前広場に大きなシーサー像が鎮座していた。


「私は車を駐車できそうなスペースに停めてきますから、神谷少将は先に集合場所へ」

「よろしく速水さん!」


 これで、ギリギリ何とか面目が保てるかと、俺は助手席から降りてシーサー像の元へ駆け足で向かう。


「あれ? 時間ギリかちょいアウトなのに、誰もいない……」


 意外な事に、定刻にもかかわらず集合場所には誰もいなかった。


 あれ? 集合場所間違えたか?

 でも、こんな大きいシーサー像なんて他には無いよな。


 俺が辺りをキョロキョロ見回していると、



(キキ~ッ‼)



 目の前の車道に、軍の小型トラック、いわゆるジープタイプの軍用車両が駐停車した。


「遅れた! ごめんね、ユウ!」


 ジープの後部座席から、琴美が勢いよく飛び出してくる。


「いや、正直、俺も今来たところ……って、周防先輩と真凛ちゃんも一緒だったの?」


「ああ。訳あって合流になってな」

「名取さん、送っていただき、ありがとうございました」


 ペコリと真凛ちゃんが運転席にいる名取さんへ礼を述べる。


「ムフフッ。キッズが降車したので、これからはアダルトだけの時間ですぞ。吾輩、これから夕暮れの海を眺めながら、名取氏とドライブを」


「先ほどの、サイバー攻撃の戦果報告書の作成がまだですから早く研究所へ帰りますよ桐ケ谷所長」


「名取氏のいけずぅ~! それじゃあ、火之浦氏。また近々、会いましょうぞ~!」

「は、はい。それでは……」


 助手席から箱乗りのように身を乗り出して、手をブンブン振るりながら去っていく桐ケ谷所長を、琴美が苦笑いしながら小さく手を振り返す。


「桐ケ谷ドクターと随分と仲良くなったんだね琴美」


「え、ええ……まぁね……」


 琴美が少し歯切れ悪く回答する。

 何かあったのだろうか?


「あれ? 軍のジープで来たって事は、結局ショッピングは?」


「はっ! そうだった! 結局、私、何も買い物できてない!」


 ガビーン! と、今日一日が終わってしまったことに今気が付いたという感じの琴美を見て、思わず苦笑してしまう。


 最終日の空港の土産物屋で色々買い物するしかないね。


「一方、周防兄妹は色々、買い物したみたいだね」

「こちらもショッピングの後に色々トラブルがあったのですが、無事にショッピングバッグたちが手元に戻って来て良かったです。名取さんの手筈のおかげです」


「トラブルって何? 周防先輩が迷子にでもなったの?」


「だから、お前は先輩の俺への扱いが雑すぎるだろ……そんな奴には、買ってきたお土産渡さんぞ」


「ごめんって~ 周防せんぱ~い。お土産、忘れずに買ってきてくれてアリガト」


 俺は尻尾をふりふり御礼の言葉を述べる。


「ったく……現金な奴め……」


 ボヤキながら、何気に俺には最近甘い周防先輩がお土産の袋を渡してくれる。


「お、何かずっしり重い。何買ってくれたのかな~って……何これ?」


「それは琉球焼きのシーサーの置物だ」


 赤茶けた素焼きのペアのシーサーの置物だった。

 高さが20センチくらいあって、かなり大きいシーサー像が2体。


 え~、ぶっちゃけ貰うと迷惑なタイプのお土産だ……


 周防先輩、俺への日頃の雑な扱いへの報復で、これ買ったのかな? ツッコミ待ちかな?と思ってチラッと周防先輩の方へ視線を向けると、


「いいだろ? 窯元の職人手造りの琉球焼きで、魔除けの効果があるんだぞ。本当に良い買い物をした」


 周防先輩が、一切の邪念の無い満面の笑みで解説する。

 あ……これガチの奴だわ。


『そのシーサーの置物のお値段、数万円しますから。私は、止めたんですけどね……』


 エスピオで俺の内心にこっそり語りかけてきた。

 真凛ちゃんの方を見ると、周防先輩の後ろで、釈然としないという顔でため息をついていた。


 重い……色んな意味で……


「あ……ありがと周防先輩。家で飾るよ」

「おう、そうか」


 素っ気ない風を装っているが、周防先輩は嬉しそうだ。


 だから、真凛ちゃん。

 先輩の背後からジェラった刺すような目線を俺に寄越すのは止めてね。


「皆、集合出来ているようですね」


 上手いタイミングで、速水さんが車を駐停車してこちらへ来てくれた。


「速水さんありがと。ミーナが心配だから早く帰ろう」


 そう言って、俺はレンタカーが止まっている方へ歩いて行くと、皆大人しく俺の後をついて来てくれた。


 あれ? そう言えば、俺は本来、ペンションでミーナを看病しているはずで、この集合場所には現れないはずなのに、琴美も周防先輩も何もその点については疑問を呈さなかったな……


 なんでだろう? と思いつつも、1人にしているミーナが心配なのは本当なので、その疑問はとりあえず棚上げすることにした。




◇◇◇◆◇◇◇




「おかえりなさい」

「ただいまー。あ、起きてたんだ。ミーナ大丈夫?」


 俺たちがペンションに帰ってくると、ミーナがカーディガンを羽織って玄関へ出迎えてくれた。


「うん。もう大丈夫そう」

「ごめんね、寝てる間に抜けちゃって」


「ううん。私もついさっき起きた所だから。なんだか、私が寝てる間に大変なことになってたみたいだね」


「「「え⁉」」」


 俺と周防先輩と琴美が、ビクッと身体を震わせる。


「ほら、沖縄近くの領海線ギリギリの海域で小規模な交戦があったって、テレビのニュースでやってたから。敵艦隊は我が国の艦隊の威容に恐れをなして投降したって」


「ああ、テレビの話か」


 お馴染みの大本営発表。

 海軍へ手柄を譲る見返りに、拿捕された敵艦や捕虜の事後の処理は海軍側へお任せだ。


「そういえば、夕ご飯はどうしましょうか?」


「あ……しまった。ゴタゴタしてたから、周防先輩に総菜の買い出しを頼もうとしてたの忘れてた」


 真凛ちゃんの指摘に、俺は思わず頭を抱える。


 周防先輩に連絡しようとした所で、非常呼集がかかったから連絡せずじまいだった。


「どちらにせよ、俺たちもゴタゴタしてて、買い物は無理だったな」

「私に至っては今日、沖縄魂装研究所から、ほぼ出てない……」


 俺もそうだったが、周防先輩たちも琴美も、3日目は色々とあったようで、夕飯について気に掛けられる者はいなかったようだ。


 とは言え、今から買い出しに出るのは、皆色々あったみたいで疲れてるし、外食に出ようにも病み上がりのミーナを連れ歩くのは気が引ける。


「あ、そうだ。そう言えば、出がけに炊飯器で、ミーナのためにお粥作っておいたんだった」


 炊飯器を開けると、思ったより水分で膨らんでいて、何とか全員分に分けられそうな量だ。


「いいんじゃないか? 旅行で連日、色々と美味しい料理を食べて胃腸も疲れてるし」

「そうだね。お兄ちゃんの言う通り」

「私も、今日もお昼に桐ケ谷所長に研究所の食堂で色々食べさせられたし、お粥が凄く魅力的です。ユウの手作りだし……」


 皆も賛同してくれた。


 そんな中、


「皆、私の病み上がりに気を使って……ごめ」

「違うよ、ミーナ」


 申し訳なさそうにするミーナが、謝罪の言葉を口にしようとした所を、俺が言葉を被せて制す。


「皆、揃って沖縄旅行の最後の夜を楽しみたいんだよ。ほら、夜はゲーム大会でしょ? 旅行で美味しい物を食べるのも大事だけど、きっとこれも楽しい旅の想い出になるからさ」


 そう俺が言うと、皆が大きく頷いて見せる。


 正直、今日の戦闘の事後処理をかなり無茶を言って、丸投げしてきちゃったから、後で、色々とフォローしないとだからしんどい。


どうやら大なり小なり琴美や周防先輩たちも、本来はやらなくてはならない事があったようだ。


それでも、皆がミーナの旅のしおりの予定を最優先にしてくれたようだ。


「みんな……」


「さて、じゃあササッとお粥食べて、ゲーム大会だ」


「というか、皆、胃腸が疲れてるのは、昨日の深夜に私のカップソーキそば等を食べたりしていたからではないですか?」


「「「「「あ……」」」」」


 朝のミーナの体調不良やらのバタバタで誤魔化せてたと思ってたけど、速水さん覚えてたのか。


「まぁまぁ速水さん。お粥の最初の一口は俺がフーフーしてあげるから」

「離乳食にフーフーは、大人の虫歯菌が移るからやっちゃダメなんですが、致し方ないですね」


 いや、お粥イコール離乳食じゃないから。


 速水さんはホント、隙を見せたら何でも赤ちゃん、赤ちゃんだな。

 しかし、この人は買収されやすいというかチョロくて助かる。


「じゃあ、食器の準備をしますね。真凛ちゃん手伝って」

「はい、琴美先輩」


「ほら、小娘。まだ、日焼けの炎症が治まってないでしょ。これ、私の同期の友人でマリンスポーツやってる子から貰った炎症止めだから、使いなさい」

「ありがと年増……」


「ミーナ、このシーサー像2体あるんだけど、1体いらない?」

「……ユウ君とお揃いなのを加味しても要らない」


「おい神谷。人のお土産を早速、あげた本人の前で他人に譲渡するな。それに、シーサー像は2対じゃないと駄目だぞ」

「え~、ミーナの家と我が家は近所だからセーフじゃない?」


 かしましく、沖縄での最期の夜が始まる。


 その後、俺たちは軽めの夕食をパパッと済ませた後、


「やった青出せる! よし、ラスト1枚」

「はい、琴美『ウノ』って言ってな~い! 2枚ペナルティ~」

「あああああ!」


「ドロー4です虎咆先輩」

「はい、私もドロー4で回避~。真凛ちゃん、大好きなお兄ちゃんが自分のせいで8枚も引かされるの、どんな気持ち~?」


「虎咆。ドロー系のカードを出された後に、更にドロー系のカードを出して次番の人に重ねて押し付けるのは公式ルールにはない。ドロー系カードを出されたら、当該枚数のカードを山札から引いてターンエンドだ。ほら、これ公式サイトのルールブック」


「ウソでしょ⁉ 虎咆家ではずっとこのルールなんだけど!」


 ゲーム大会で盛り上がって、さらにかしましく夜は更けていった。




◇◇◇◆◇◇◇




「んがっ……! ああ……つい、うたた寝してしまいましたか」


 速水少尉が眠い目をこすって伸びをしながら、飛行機の座席モニターを見る。


 映し出された飛行機のフライトマップでは、帰着する空港に大分近づいてきているようだった。


 そう言えば、やけに静かだなと速水少尉は、教え子たちの座っている座席の方を見やった。


「あらあら……昨晩は遅くまでゲーム大会だったから無理もないですね」


 そろそろ着陸なので、安全ベルトを着けるアナウンスの前に皆を起こそうかと思った速水少尉だったが、ふと思いついて手荷物バッグを漁る。


「こうして寝顔を見ると、ユウ様含めて、まだまだ皆、ただの可愛い子供なんですよね」


 速水少尉はそう呟きながら、座席に折り重なるようにして寝てしまっている祐輔たちを手持ちのカメラでパチリと撮影する。


 速水少尉がカメラをバッグに仕舞うと、まもなく空港へ到着する旨の機内アナウンスが流れた。


 機内の窓から見える眼下には、少し懐かしみを感じる街並みが拡がっていた。


これにて沖縄合宿旅行編 完結!


という所で、書きためがとうとう尽きたので、書きため期間に入ります。


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