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第68話 NGだって言ったじゃん‼

しばらくぶりの主人公目線。

「んあ……ああ、やばい寝ちゃってたか」


 ベッドサイドにある椅子でガクンッ! と頭が揺れ落ちた衝撃で、意識を取り戻した俺は、頭を振りながら、ミーナの方を見る。


「スースー」


 ミーナは静かに寝息を立てていたので、一安心する。


「肌の熱も、少し和らいだかな」


 ミーナを起こさないように頬にそっと触れると、ミーナは少しくすぐったそうに首をすぼめる。


 よく寝ているようだ。

 これなら、熱も下がってそうだな。


 ここで壁掛け時計を見ると、時刻は正午過ぎを指していた。


「そう言えば、昼ご飯食べてなかったな。何かあったかな?」


 俺はペンションのキッチンへ赴き何かないかと漁るが、昨日のバーベキューと焚火前の夜食でほとんど食材も残ってはいなかった。


 残っているのは少量の米と、ペンション備え付けの調味料くらいだ。


「う~ん。ミーナが起きた時に食べれるように、炊飯器でお粥でも作っておくか」


 メニューを決めたら、ささっと米を研いで、塩や中華だしで適当に味付けをして、炊飯器をお粥モードにして炊飯スイッチを押す。


「これで良し。昨晩は夜更かしして夜食も食べたから、軽めの昼食でいいな。夕飯は、何かご当地料理の総菜でも買ってきてもらおうかな」


 真凛ちゃんとショッピングをしているであろう周防先輩にでも買い物を頼むかと、俺はスマホを取り出すと。


(ピピピッ‼)


 と、最大音量の着信音がスマホから鳴り響いた。

 俺は、ミーナを起こさないように、慌てて受領確認ボタンをタッチする。


ミーナの寝室にいる時じゃなくて良かったと、胸を撫でおろしながらメッセージの内容を確認する。



「これは……」



 件名に非常呼集と書かれたメッセージの内容を読んで、俺は思わず顔を顰めた。


「はぁ……沖縄に来てまで仕事かよ……」


 俺が独り言をボヤきつつ、こめかみを抑える。

すると、間髪入れずに


「お疲れ様です。神谷少将」

「うん、速水さんもお疲れ。休暇中にお互いしんどいね……」


 背後に突如人の気配が発生した。


 振り返らずとも、こんな事が出来るのは一人しかいないのは解り切っているので、副官である速水さんにそのまま話しかける。


「ええっと……知念分屯地へ向かえってメッセージに書いてあったね」


「ええ。即応部隊の第二空挺団と参ります。私の同期の友人のいるエリート部隊です」

「ああ、速水さんが訪ねるって言ってた、同期の人がいる部隊なんだ。それは安心……あれ? 空挺団ってことはさ……もしかして……」


「詳細については分屯地に着いてから話しましょう。行きますよ」


「ちょっ! 待っ!」


 非常呼集なので速水さんの言う事は正しいのだが、結局ミーナへ書置きも出来ずに出発する羽目になってしまった。


 何としても、ミーナが起きる前に事を終わらせる!


 俺は、そう心に誓った。




◇◇◇◆◇◇◇




「第二空挺団 本部中隊所属 的井伊緒少尉であります! 本日は、神谷少将閣下のアテンドを務めさせていただきます!」


 戦闘服に着替えた俺が更衣室から出てくると待ち構えていたのが、的井少尉だった。

 事前に聞いていた、速水さんの同期の友人の女性士官だというのはすぐに解った。

 空挺団で女性士官ってすごく珍しいし。


「君が、速水少尉の同期の友人さんか。よろしくね。早速なんだけど、質問いい?」


「ハッ! なんでありましょうか?」

「その手に持っている、拘束具みたいなのは何?」


 的井少尉が手に持っている物の正体について、俺は質問した。


 いや、既にバッチリ装備している的井さんが目の前にいるので、何なのかは解り切っているのだが、信じたくない気持ちの方が強かったのだ。


「ハッ! これはタンデムスカイダイビング用のハーネスであります!」

「やっぱりスカイダイビング! 俺、スカイダイビングNGって統合幕僚本部に言ってたのに!」


 俺はその場に頭を抱えてしゃがみこんだ。

 あれだけは……あれだけは、もう二度とやりたくなかったのに!


「命をこれに預けるため、タンデムダイビングの際には有資格者が必ず着用を手助けすることになっております! 僭越ながら、自分が着用を補助させていただきます!」


「ああ……はい。よろしくお願いします……」


 テンションがダダ下がりの俺だったが、さすがに少将の身空で「高い所が怖いから」ということで作戦行動に支障を来す訳にはいかないという、やせ我慢精神が発動して、覇気は無いが辛うじて承諾の返事をする。


「失礼します!」


 俺から承諾の言葉を得て、的井少尉が手際よくハーネスを俺の身体を通していく。

 流石、命を預けるためという事なので、かなりキツ目に締め付けられる。


「締めすぎて擦れて痛いところとかありませんか?」

「大丈夫です……」


 はぁ……気が重い……

 いや、今回の作戦には、パラシュート降下が必須なんだろうけどさ……


 でも苦手なもんは苦手だ……


「お待たせしました。久しぶりの支度なので手間取りました……それでは、神谷少将。私がタンデムハーネスを……」


「あ、速水さん」



(ガチャガチャ!)



 女性更衣室から出てきた速水さんが、俺の姿を見て、手に持っていたハーネスを床に音を立てて滑り落してしまう。


「伊緒……どういう事か説明してくれますか?」


「任務中は的井少尉でしょ? 公私の別はキチンとしましょう、速水少尉」


 殺気を込めた目を向ける速水さんの視線を受けながら、的井少尉は微かに笑いながら建前を盾にしてはぐらかす。


「そんな綱紀保持なんて今はどうでもいいです! ま、まさか貴女……ユウ様の身体に触れて……」


「そういう邪念があるからダメだって言ってるの。アンタ、久しぶりの降下なんでしょ? 空挺団でハーネスの着用が日常の私に、練度で敵うわけないでしょ。神谷少将の御身の安全が第一。違う?」


「うぐ……ユウ様のタンデムハーネス着用にかこつけて、デリケートゾーンの締め付けをお姉さんに気にされちゃうドキドキワクワクイベントが……」


 的井少尉のぐうの音も出ない正論返しに、速水さんはガックリと膝をついた。


 本音がダダ洩れになる速水さんだったが、俺の方は俺の方でこれからのスカイダイビングへの恐怖と不安で脳内の大半が占有されていたので、その辺はサラッと流した。


「神谷少将。この子、今はこんなですけど、ダイビングの腕は士官学校のダイビング部で鍛えられてるんで、空挺団員の隊員と遜色ありませんからご安心を。いざとなったら私が急速降下で2人共助けますんで」


 速水さんの醜態に、より不安になっていた俺に、的井さんがコソッと俺の耳元で元気づけてくれる。


 ボーイッシュな姉御肌で格好良いし、男前なことを言ってくれる。

 俺が女の子なら、不安な精神状態もあって惚れちゃいそう。


「伊緒……あなた、さっきから親友の私を堕として、ユウ様への株を上げようとしてませんか?」


 何故か俺に関することについては地獄耳な速水さんが、ユラリと立ち上がり血走った眼を的井少尉へ向ける。


 間違いなく、親友に向けるような眼差しではなかった。


「ほら、ふざけてるから纏めた髪が乱れちゃってるじゃない速水少尉。ちゃんと結ってあげるから、こっちへ頭向けなさい」


「そうやって、いつも伊緒は話を逸らす……」

「はいはい。ちゃんと憧れの君の前で、格好良い所見せたいんでしょ? なら、シャンとしなさい」

「はい……」


 さすがは長年一緒に生活していた同期の友人だ。

 速水さんの操縦も心得たものという様子だ。


 手櫛で速水さんの髪をといてあげる的井少尉の仲睦まじい姿を見て、俺は同期って良いなと思いました。











(バタバタバタッ!)



 輸送機の後部ハッチが開くと、勢いよく風が流れ込んでくる。


 なんで⁉ なんで⁉

 今、何か同期の友情っていい感じだねって感想で締めて、終わる感じだったじゃん‼


 なんで、もう高度4000メートル上空にいるのさ⁉


「キャメル、コース良好、そのまま進入よろし!」


降下口にいる的井少尉がハンドサインで合図を送る。


「キャメル、コース良し、用意、用意、降下、降下!」


 赤ちゃんを前抱きするような形で俺とタンデムハーネスで繋がった速水さんが、目の前の空へ勢いよく走り出す。


 よくバラエティ番組でやるスカイダイビングって、もっと勿体ぶったりするじゃん!


 まだ、心の準備がぁぁぁあああ!


 白い雲が眼下に見えた瞬間に、足元に何も無くなって、あのジェットコースターで味わう浮遊感がヒュッ! と俺の身体を襲う。



「いやぁぁぁぁぁあぁああああああ‼」



 俺の悲鳴は、バタバタとうるさい風の音で、速水さんにも聞こえていなかったと思う。


 多分……


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