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第62話 私のお兄ちゃんは最高

【周防真凛視点】


「それで神谷の奴、何て言ったと思う? 先輩の俺に向かって、動物園のゴリラだとか言うんだぞ? まったく、本当に無礼な奴だったよ」


「お兄ちゃんは、最近は神谷先輩、神谷先輩ばっかりね。ホント好きね」


 ショッピングの休憩で入った国際通りから1本裏に入ったカフェで一休みしている時のお兄ちゃんの話題は、神谷先輩のことが8割だった。

頼まれてた御土産も、随分時間をかけて吟味してたし……


「いやいや、神谷はただの厄介な後輩で上官なだけだ」


 そう言って、お兄ちゃんは誤魔化すように、アイスコーヒーに口をつける。


 まったく……私にそんな誤魔化しが通用すると、お兄ちゃんは本気で思っているのかしら?


 お兄ちゃんの事なら、魂装エスピオの力を使って、私は何だって知っているし、理解しているし、味わっているというのに。


「それでな真凛。大事な話があるんだ。俺たちの将来に関わる大事な事だ」


「ブフッ!」


 私は思わず飲んでいた、パイナップルソーダを吹き出す所だった。


どんな権謀術数も可能にしてくれる、エスピオの情報収集能力と私の分析力、脚本力をもってしても、時にお兄ちゃんは私の予想を超えてくることがある。


 これだから、お兄ちゃんライフは止められない。


「え……将来って、私たちの家族計画」


「家族計画? まぁ、ある意味そうかもな」


 私はワクワクしながら、凄く真剣な顔をしたお兄ちゃんの次の言葉を待った。


 ついに……ついにこの時が……!


「お兄ちゃんな。本格的に軍志望に転向しようと思うんだ」


 はいはいは~い。

 解ってましたけどね。


 “まだ”今のお兄ちゃんが、実の兄と妹の垣根を越えるような決断をする訳がないって。


 こういう時に、自身の魂装能力と情報分析能力の高さが恨めしい……。


 自身の色恋に関して、正確に事実を把握してしまえるという事は、大いなる武器にもなる代わりに、お兄ちゃんが“まだ”、妹の私とそういう関係になることを望んでいる訳ではないという事実を、否応なく突きつけられるという諸刃の剣でもあった。


「軍志望に転向することが、どう家族計画に関係してくるの?」


 故に、お兄ちゃんに対しての私の声が、ちょっとだけトゲを帯びているのは仕方がないことだと思う。


「民間と比べて、軍に入ると行動の制限がよりキツクなるからな」


「お兄ちゃん、軍の魂装士官になるの?」


「ああ。来年度から、一般の士官学校で魂装能力者が入学できるコースがスタートする。俺は、自身の魂装能力の向上と共に、指揮官としての力をつけたい」


 通常、魂装学園の生徒は卒業後、多くは軍や民間へ進み、研究志望で進学する場合は、その多くが魂装科学技術大学校へ進学する。


 かつては、軍の士官学校に魂装能力者コースが設けられていた。

 ちょうど速水先生がこの世代になる。


しかし、民間人材も育てるためという名目で、軍学校からは切り離されて今の魂装学園の形になった。


 そんな経緯があったにも関わらず、軍の士官学校への魂装コースの復活。


 これは、明確な軍の民間派閥への意思表示だ。

 お前たちに、最早気を使う必要は無いと。


「うん。私は応援するよ。お兄ちゃん♪」


 そんな裏話について頭を巡らせている事はおくびにも出さずに、私は健気で素直な理想の妹を、お兄ちゃんの前で演じて見せる。


「軍のましてや士官であれば、勤務地は日本全国、果ては海外の戦地もありえる。真凛には寂しい思いをさせるかと思うが……」


「御勤めなんだもん。そこは私の事は気にしなくて大丈夫だよ」


「そうか……真凛は大人になったな。いつまでも、お兄ちゃんの後をついてくる小さな妹じゃないんだよな」


 そう言うと、お兄ちゃんは頼もしいと思う反面、少し寂しそうに笑った。


 やだな~ お兄ちゃんったら。


 私がお兄ちゃん離れ?


アハハ! 無理無理無理無理。


 そんなの、軍の人事局に全力介入して、私といつまでもお兄ちゃんが一緒にいられるようにするに決まってるでしょ?


 私にとって世の中の大概の事は、自分の思うがままに動かせるし、予期できる。


 そう……だから、これから起こることも、全て想定内だ。


「周防大樹だな」


 真夏の沖縄の裏路地の落ち着いたカフェの場にそぐわない、トレンチコートを着込んだ男たち3人の一団が、入店と同時にこちらの卓にまっすぐ向かって来て、一団の先頭にいた男が唐突に、お兄ちゃんにすいした。


 この季節と場にそぐわない格好であることを、この男たち自身も解っているはずだ。


 事実、この男たちの一団がカフェに入って来た時点で、店員はもちろん、何人かのカフェの客も、その異様さから目線をトレンチコートの男たちに注いでいる。


 そんな、隠形や隠密を犠牲にしてでも男たちには、優先しなくてはならない事項がある事を意味する。


 そして、その答えはすぐに目の前の男たちの行動で示された。



「「「裏切り者に死を‼」」」



 そう言うと、男たちは一斉に背中に後ろ手を回すと、ミチミチとトレンチコートを引き裂きながら抜き身の日本刀が現出する。


 大戦が始まるまでは、愛好家が飾るための美術品的な価値しかなかった日本刀。


日本刀が再び脚光を浴びることとなった切っ掛けは、皮肉にもその本質であるいくさだった。


魂装刀剣能力は、術者の運動能力の向上と、いくら獲物を斬っても斬れ味を衰えさせぬコーティング術、そして割と低いレベルの魂装能力者でも発現可能であるというのが特性だ。

そのため、現代戦において市街地戦兵力の主力として猛威を奮う事となった。


 故に、今の民衆は……


「刀だ! 逃げろ!」


 その恐ろしさを知るカフェの店員と客が、一斉に席を立って店の出口へ逃げまどうように殺到する。


 こういった騒ぎになることを見越して、この男たちも季節外れのトレンチコートを着込んで日本刀を隠していたのだ。


おぼろり」


 高速で踊りかかってくる男たちに、一早く反応したお兄ちゃんが魂装術式を発動させる。


 お兄ちゃんが何故、時に「雑兵」、「使い捨て」と陰口をたたかれる刀剣魂装能力者であるにもかかわらず、特務魂装学園で民間派閥の急先鋒としての地位を学内で得られていたのか。


「ぐっ! 3人がかりの奇襲でも対応してくるか!」


 攻めかかった男達だったが、お兄ちゃんの発動した飛ぶ斬撃 朧切りにより防御に徹さざるを得なくなる。

 得物を持たずに、先日魂装研究所でもらったリストバンドの魂装補助デバイスで発動させているため、一振り一振りは致命傷になるような斬撃ではないが、そこは手数で補われている。


 この、お兄ちゃんの圧倒的な術式発動スピードは、他の刀剣魂装能力者の追随を許さないトップクラスに位置する。


 故に、3人程度の刀剣魂装能力者が相手でも、お兄ちゃんは落ち着いて対処をしてみせる。



(はふぁ~~カッコいいよお兄ちゃ~ん 好き)



「真凛」


「お、お兄ちゃん……」


 私は心の中でお兄ちゃんを尊んでいるのを慌てて心の奥に引っ込めて、少し不安そうな顔でお兄ちゃんを見上げる。


「逃げるぞ。俺の手を離すな」


「はい♪」


 いつまでも……そう、いつまでもこの手は離さないよ。


 世界の破滅が、私たちを引き裂く最期の時まで……


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