第57話 刺激的な水着とナンパ野郎への対応策
今、俺は真っ白い世界にいる。
膝を抱え込んで、まるで母の胎内にいるような感覚。
このまま、赤ん坊の様に何も考えない、悩みなんて無い存在でありたい……
「いい加減機嫌直せ、神谷。ウザったい」
俺が胎内回帰願望に浸っていると、乱暴に白い世界は終わりを告げる。
頭から被っていた大きめの白いバスタオルを周防先輩に剥ぎ取られ、厳しい現実世界へ戻される。
「何するのさ周防先輩……俺は、まだ胎内にいたいんだ」
俺は体育座りで顔を膝にうずめて、現実を直視しないようにする。
女性陣に、子供の頃とは言え、フル開陳写真を見られたんだ。
もう生きていけない……
「訳の分からんことを言うな。お前が凹んでると、女性陣のテンションがダダ下がりになるんだよ。まぁ、真凛だけは元気に紅芋マンゴージェラートを食べてるが」
ミーナを挑発して、事を起こした諸悪の根源は、どうやらピーチパラソルの下で優雅にジェラートを食べているようだ。
お兄ちゃんに買ってもらったのかな?
「なんで俺が我儘言ってるみたいになってるのさ! これは男の尊厳の問題だよ! 周防先輩は男なんだから解ってくれるよね⁉」
俺は膝に顔を埋めたまま、仲間内唯一の男子である周防先輩に同意を求める。
「はいはい。確かに、さっきのは暴走した虎咆と、それに乗っかった火之浦と速水先生に全面的に非があるな」
そうだよね。うんうん、そうでしょ。
俺は悪くないよね?
「だったら……」
「だからと言って、対話を止めてしまっていいのか? お前の将官という地位で、それは許されることなのか? 部下の失敗を前に、自分の殻に閉じこもって無視を決め込むのか?」
「う……」
階級や人事マネジメントのことを持ち出されると、こちらの立場としては弱いが……
「いや、部下が上官の開陳写真を公開するってどんな失敗なのさ。そんなヒヤリハット事象報告聞いた事ないよ」
俺は丸め込まれないぞ!
上官だからって、何でもかんでも部下の事を許せば良いってもんじゃないんだい!
「……いいから、謝罪は受けてやれ!」
そう言って、背後から周防先輩に雑に抱きかかえられるように、俺は強制的に体育座りから立たされた。
「ユウ君、ゴメンなさい……」
目の前に、目を潤ませて今にも泣きそうなミーナが砂浜の上に膝をついて、謝罪の言葉を口にする。
のだが、俺の方は聴力よりも視力がフル回転していた。
ミーナの銀髪に白い肌に、白いビキニ。
シンプルなデザインにランジェリーブランドで有名なブランドロゴの黒文字だけが浮き上がり、それがミーナの白さをより際立たせる。
「ユウ嫌がってたのに……許して……」
思わずミーナを直視できずに視線をさまよわせた先にいたのは、これまた跪いて上目遣いで俺に許しを乞うてくる琴美がいた。
ピンクのワンピースタイプの水着で裾にはフリルがあしらわれた、一見すると露出は少なめで、実年齢より幼く見える琴美にピッタリな水着と思いきや、背中はざっくりと開いていて、露わになったしなやかな背中がピンク色の細めの紐で交互に締め上げたバックレースアップだった。
跪いているから、前面の清楚然とした部分と背面の露出のエロさが奇妙な円満同居を遂げていた。
「申し訳ありませんユウ様。つい我を忘れてしまって……どんな罰でもお受けいたします」
まるで首を差し出すように正座して項を垂れる速水さんの水着は、ハリウッド女優が授賞式の時に着るような、V字に背中の布地が無いバックレスドレスを彷彿とさせるようなハイレグワンピースだが、色は黒を基調として白色が混じったバイカラーでセクシーさと大人の落ち着きを際立させていた。
……3人共、戦闘力が高すぎる。
さきほどは、ラッシュガードを羽織っていてもナンパされたのだ。
それだけ素材のレベルが高い3人が、それぞれが個性をより際立たせる水着を衆目にさらしているせいで、ビーチにいる誰しもがこちらにチラチラと視線を送っている所であった。
いや、周りの人がチラチラ見ているのは、美人さんの水着姿というインパクトにプラスして、そんな水着美人たちが揃って、1人の男の前で土下座せんばかりに砂浜の上で跪いているせいだろう。
「え……ご主人様系? それとも監禁王子系?」
「銀髪ハーフにロリ系に綺麗目お姉さん系とか欲張りセット過ぎでしょ」
「くっそ!くっそ!くっそ!……なんであんな男にばっかり……」
何やら周囲から不穏なヒソヒソ話が聞こえてくる。
とは言え、俺が野次馬の側だったら「一体、何事⁉」と興味深い事この上なくガン見している状況だろう。
なんだこの公開プレイは。
これは恥ずかし過ぎる!
「あ~、もう解ったよ! じゃあ、夕飯おごってくれたら許す!」
これ以上、あらぬプレイの疑いをかけられたくないので、俺は色々と諦めて適当に今思いついた妥協案を提示する。
「「「御意!」」」
3人が泣き笑いのような顔ですぐさま返答する。
何だか、ご主人様系の噂話を更に助長させそうな返答だなと思いつつ、取り敢えず俺もこれ以上はいじけるのは止めることにした。
「ホント、男って単純なんだから」
我関せずで、ビーチチェアに座りながらジェラートを食べていた真凛ちゃんの俺への揶揄の言葉は聞こえなかったふりをした。
◇◇◇◆◇◇◇
「それじゃ、いきますよ~。そ~れ!」
「ホッ!」
「ユウ君!」
「よっしゃ!」
「させませんっ!」
「ナイスレシーブ! 速水先生!」
真夏の炎天下のビーチで、俺とミーナのペアと、琴美と速水さんペアでビーチバレーで汗を流す。
砂の上でダッシュしたり跳んだりするので、結構な運動量だ。
「お~い、スポドリ買って来たぞ。一人当たり1リットル以上買って来たから、遠慮せず飲め!」
「「「「しゃっす! いただきます!」」」
「なんだか、本当に部活の合宿の差し入れに来たOBみたいだな……」
ビーチバレーは2対2なので、今は周防兄妹がお休み組で、買い出しに行ってもらっていたのだ。
海の家のトロピカルなお洒落ドリンクだけでは、とても水分補給が追いつかない。
なお、周防兄妹で買い出しに行ってもらったのは、男連れじゃないと、またナンパされるのがオチだからだ。
「私たち、沖縄に旅行にバカンスに来てるはずよね……なんで、沖縄まで来てこんなシンドイことしてるのよ……」
ミーナがゼェゼェ言いながら、最もなことを言う。
「ンゴクッ! ンゴクッ! ぷはっ! だから、バカンスじゃなくて研究会の合宿旅行ですってば。それに、仕方ないじゃないですか……ビーチで寝そべってたらナンパされるし、泳いでたらナンパされるし」
スポーツドリンクをゴクンゴクンと喉を鳴らしながら、一気に飲み干した琴美が口元を拭いながら答える。
なお、縫いぐるみのチュウスケは砂まみれになるので、さすがにビーチパラソルの下でお留守番だ。
帽子を被らせて、日焼け対策も万全だ。
「何かをやってる人には声を掛けづらいですからね……とは言え、炎天下で高校生と一緒にビーチバレーはきつ過ぎます……私、もうすぐアラサーなんですよ」
日頃、速水さんも軍人として鍛えているから、その辺の日頃運動不足なOLよりは遥かに動けるんだろうけど、流石にキツそうだ。
「はぁ……はぁ……速水先生は歳なんですから、無理なさらず、その辺のハイエナみたいに徘徊してる男共と、よろしくやってればどうです?」
汗だくのミーナが速水さんを挑発すると、
「……見くびらないでもらいたいですね虎咆さん。これ位の暑さでへばっていては、軍人は務まりませんよ」
喘ぎつつも、すかさず速水さんが応戦する。
ホント、仲良いよなこの2人。
「言うじゃない……よし、水分補給は済んだわね。第2ラウンドよユウ君!」
「「まだやるの~?」」
俺と琴美がウンザリという感じで、ヘバッていると、
「お姉さんたち、良ければ俺らと一緒に試あ」
「よしやろう! すぐやろう!」
ったく、隙を見せるとすぐにナンパ野郎どもが湧いて来やがる。
しかし、沖縄くんだりまで来て、ビーチバレーで体力錬成とは……
こんなんじゃ、本当に部活の夏合宿じゃんと思いつつ、ふと、これもまた今しかできない青春かと思い直した俺は、再びコートの上に立ったのであった。
部活の夏合宿懐かしい……胃酸が込み上げてくる……
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