第56話 ナンパ野郎撃退と尊厳破壊
「周防先輩、レジャーシートの片側持って」
「あいよ」
海風でバタバタとはためくレジャーシートを、俺と周防先輩でピンと張って、四隅にペグを埋め込む。
ビーチパラソルも立てて、これでビーチでの拠点が出来たので、荷物をシートの上に置いて、同じく海の家でレンタルしたビーチチェアを組み立てる。
最近の海の家は、昔家族で行った海水浴場と違って、お洒落なアイテムが揃ってるなと思いながら、諸々の設置を終えて一息つく。
「ふぅ~、こんなもんか。って、あれ? 周防先輩どこいった?」
一緒に設営をしていた周防先輩がいつの間にか居ない。
迷子か? とキョロキョロしていると、
「4人共みんな可愛いね~ 俺たちと遊ぼうよ~」
「そんなガキなんて放っておいてさ~」
「ガキは沖まで遠泳でもして腹でも空かせてろよ」
何やら、軽薄な男共の声が向こうから聞こえてくる。
ありゃりゃ……女性更衣室からここまでの僅かな距離の間でナンパされちゃったか。
4人共、水着の上にラッシュガードやTシャツを羽織って、そういった視線には配慮していたにも関わらず、銀髪ハーフ美少女に、スラっとしつつ鍛えられた肉体美を持つお姉さん、小柄な体躯の妹系少女に、あどけなさと怪しい色気が同居するミステリアス少女という、各種取り揃えられた美人の一団はやはり、あっという間に目をつけられてしまったようだ。
「失せろ。うちの真凛に近づくな」
「お兄ちゃん……」
ナンパ野郎どもの下卑た視線と挑発的な言動から、妹の真凛ちゃんを背中にかばう周防先輩が1人立ち向かっている。
あ、真凛ちゃん。
お兄ちゃんの背後で庇われて滅茶苦茶嬉しそう。
これは真凛ちゃん、目の前にいるナンパ野郎3人は完全に人としてではなく、ただの自分たちのプレイの舞台装置として扱ってるな。
そして、残りの3人が羨ましそうにその様子を眺めていると、こちらに近づいてくる俺を3人が同時に見つけて、期待のこもった顔で俺の方をチラチラと見てくる。
君たち、その気になれば幾らでもナンパ野郎共に対処できるでしょ……
「おい、こっちのツレだから遠慮しろ」
俺はわざと苛立ちを隠さない態度で、ミーナたちの前に出てナンパ野郎共の目を見ながらケンカ腰で対峙する。
こういう時に、変に丁寧に対応しても、相手がなめてかかって来て事態を悪化させるだけだ。
ナンパ野郎共も、無用なトラブルは避けたいはずだから、これで引くはず
「あ? 調子こくなよガキが」
「女子の前だからってイキってんのか?」
「ケンカしたことないボクちゃんたちは、数の優位が解んないのかな~?」
あ、思ったより相手が短絡的だったパターンだわこれ。
ミーナたちが滅多にお目にかかれないハイレベルな美人だったから、諦めるに諦めなかったからか、或いは男子高校生のガキを前に芋引くのが、男のプライドに触ったか……
多分、両方だろう。
(バチバチッ)
「あーあーあー」
俺の後ろで、何やら帯電する音と発生練習の音が聞こえる。
後ろを振り向かずともわかる。
琴美がチュウスケでスタンガスを生成する際の前兆現象と、ミーナが音響爆弾 虎咆を発動する前の喉のウォーミングアップだろう。
まずい。
ミーナと琴美が手を出す前に何とかしないと。
しかし、こういう一般人を制圧するのに俺の魂装能力は向いてないし、どうしたもんかな……と俺が悩んでいると、
(ヒュカッ!)
空を斬る音が聞こえた。
「「「ぬおっ⁉」」」
目の前のナンパ野郎の海パンのド真ん前の部分が、縦一文字にスパッと切れて、ペロンッと両側にめくれている。
急に下半身が涼やかになったナンパ野郎3人は、慌てて手で御開帳してしまった海パンの端と端をつかんで隠す。
「な、何しやがんだてめぇ!」
真ん中の男が、咄嗟に目の前にいる俺に蹴りを繰り出してくる。
(俺は何もしてないんだけどな……)
と思いつつ、股間を片手で必死で抑えているので腰が引けている男の右上段回し蹴りを、左前腕でガードしつつ、追撃されないように、蹴り出された相手の右足の膝辺りを掌底で押す。
これにより、相手はバランスを崩し……
と思ったら、腰が引けた変な体勢だったせいか、相手はバランスを崩して砂浜の上に転がり、見事な青天をした。
そして、そうなると当然、転倒の衝撃で股間の中の物がお目見えしてしまう。
「キャーー‼ 性器を露出した変質者がー-‼」
真凛ちゃんが絶妙なタイミングで黄色い声を上げる。
すると、立ちどころに真っ黒に日焼けしたライフガードのお兄さんたちが、砂浜をこちらに疾走して来た。
「どうしましたか!」
「この男たちが、私たちの前で突如脈絡なく性器の露出を……」
股間を抑えているナンパ野郎3人組の方を指差しながら、琴美が冷静にライフガードのお兄さんに状況を説明する。
なお、ミーナと速水さんは、男たちの股間がハラリと見えそうになったシーンの辺りから、顔を両手で覆っている。
ミーナたちの様子や状況を見て、ライフガードさんも色々と悟ったようだ。
「はい。兄さんたち、ちょっと監視所まで来てもらうから」
「ちがっ! 俺たちは、何も!」
「そんな改造した海パンまで履いて何言ってんだ。場合によっては警察呼ぶからな」
「け、警察ぅ~⁉」
「早く歩け!」
「ちょ! 乱暴に歩くと前が開く!」
屈強なライフガードのお兄さんたちに囲まれて、ナンパ野郎共が内股ですごすごと歩いて行った。
「災難だったね。あ、ミーナも速水さんも、もう視界にあいつらは居ないから目を開けて大丈夫だよ」
俺が声をかけると、耳を赤くしたミーナと速水さんが、おずおずと顔を覆っていた手をどかした。
「まったく……アイツら何がしたかったのよ」
「ビーチに出た早々、露出魔に会うなんてついてないです」
口々に文句を言う2人だが、別にあれはナンパ野郎たちが特殊な海パンを着用していたわけではない。
「刀を持たずに辻斬りなんて、腕上げたじゃん周防先輩」
「……やはりお前は解ったか」
そう言いながら、周防先輩は左手首に装着したバンドを見せる。
「そのバンドが魂装補助デバイスなの?」
「ああ、そうだ。これで刀や長物を持ち歩いていなくても、斬撃を放てる。とは言っても、やはり刀剣型の装備品じゃないと、そんなに威力は出ないがな。昨日、桐ケ谷所長から、試作機で使い心地をレポートするのを条件に譲り受けたんだ」
そう言いながら、周防先輩はバンド型の魂装補助デバイスを撫でながらニンマリとする。
先程斬撃音はしたが、斬る動作の気配はなかったのはそういうことか。
「綺麗に股間の真ん中を鮮やかに斬ってたから、たしかに元々そういう海パンなのかなって勘違いしちゃうよね」
「力加減を誤ると、奴らのイチモツごと斬りかねないから、集中した結果だな」
「へぇ、もうそこまで使いこなせるなんて凄いじゃん」
「あれアンタのせいなの⁉ 危うく汚物を視界に入れるところだったじゃない!」
まだ顔の紅潮が取り切れていないミーナが、周防先輩へ抗議の声を上げる。
速水さんも、まだバツが悪いのかソッポを向いて沖の方を眺めている。
「あらあら。年長者お二方は男性のシンボルへの嫌悪が強いようですわね。そんな様では、いざという時が来た時に苦労しますわよ」
真凛ちゃんが揶揄うと、ミーナがキ゚ッ! と真凛ちゃんを睨む。
「べ、別にユウ君のだったら大丈夫だし!」
「ん~? 私は、いざという時としか言っていませんが、何故神谷先輩のお名前が出てくるのでしょう? 神谷先輩と何をすることを想定しているんです? 私、中学生でよく解らないので教えてください」
絶対解っている意地悪な笑顔で、真凛ちゃんがミーナに質問する。
「んみゃ⁉ それは、その……/// 言える訳ないでしょ!」
ミーナ無理だよ……
年下だけど、真凛ちゃんの方が数枚上手だから、レスパで勝てる訳ないって……
「お可愛いですね虎咆先輩は」
クスクスッと真凛ちゃんに笑われて、年下の女子中学生に小バカにされてプライドが傷つけられたのか、ミーナの負けず嫌いの性分がつい顔を覗かせる。
「べ、別に男の子のアソコなんて私、見慣れてるし~ ユウ君のだって何度も見てるし~」
(ピキーンッ!)
と、一瞬、場の時が止まる。
「いや、だからミーナ言い方!」
「ホントだし! 子供の頃、ユウ君と一緒にお風呂やビニールプールに一緒にお互い裸で入ってたし! 何なら写真見せる!」
ミーナがポーチの中からスマホをゴソゴソと取り出す。
「え、ウソ……なんでそんな小さな頃の、俺の恥ずかしい写真がスマホに入ってるのさ⁉ やめてよ見せないでミーナ!」
俺は慌ててミーナを止めようとする。
なんで、真凛ちゃんとミーナのマウント合戦で、俺が尊厳破壊されなきゃならないんだ!
「小さい頃のユウの写真を持ってるアピールという、ありがちな幼馴染マウントをしてきたのは癪ですが、写真を見せてくれるというなら話は別です」
「小娘……その写真データ、言い値で買いますよ」
俺がミーナを止めようとするより早く、琴美と速水さんがミーナを取り囲んでガードする。
小さな男の子大好きな速水さんはともかく、なんで琴美まで興味津々なのさ⁉
そして、速水さんは夏のボーナスの半分以上をドブに捨てた直後なんだから、もっとお金を大切にしようよ!
「うう……こんなのイジメだよ……」
ちゃんとナンパ野郎たちから護ったのに、こんな仕打ちはあんまりだ……と俺はサメザメと泣いた。
いつも、本作をご覧いただきありがとうございます
今週は夏休みでキャンプ旅行のため隔日投稿となりますので、ご承知おきください。
更新の合間に、本日から開幕する甲子園を題材にしたラブコメは如何でしょうか。
【完結】私を甲子園に連れてってで人生変わりました
下記、作者マイページより覗いてみてください。
私の処女作です。
明日でちょうど、なろう作者活動 1周年!
これからも益々頑張って参りますので、よろしくお願いいたします。
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次回はヒロインたちの水着披露回