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第52話 残念美人おねえさん2号

「ここ、沖縄魂装研究は国内トップランナーの魂装学の研究所です。ここでは、官民一体となって魂装の研究が進められています」


 事務官の名取さんが説明をしながら、研究所内を案内してくれる。


「知っての通り、魂装研究はそのまま国家運営や軍事バランスに直結するため、他の学問のように国際的な学術会議等による意見交換などはほぼ行われていないため、その国々独自の進歩や学術体系を構築しています」


 今は研究所のメイン廊下に掲示されている魂装学の歴史を記したパネルを見ながら、名取さんが説明してくれている所だ。


「日本は、初期の頃は経済活動重視の研究だったんですよね」

「エネルギー問題を解決する明るい未来を魂装学で、が当時のスローガンでしたっけ?」


「それが、今はガッツリ軍事利用に舵を切りましたからね」

「何かあると、極端から極端を選びがちなんだよな、この国は」


「お前ら、ここは国の機関なんだから、役人の名取さんがリアクションしづらい話題で盛り上がるな」


 俺たちがパネルを見ながら忌憚なき意見を述べていると、真面目な周防先輩から注意が飛んでくる。


「そうそう。この時代は、贈収賄もヤバかったんですぞ~。男性の研究員なんかは、美人なお姉さんがあてがわれて、ほとんど裸みたいな恰好で、個室カラオケのついたお店で毎夜のようにエグい」


「所長……未成年者の前で、不適切な発言は慎んでくださいね」

「はい……」


 所長なのに、俺たちと同じようにハシャいで、桐ケ谷ドクターが、険しいオーラを纏った名取さんから注意を受けてシュン……とする。


 つい、自分の知ってる話題だとはしゃいじゃって言いすぎるのは、オタク特有だよな。


「ここは、魂装能力者の能力の発動を補助するためのデバイスの研究がなされているラボです」


「刀剣タイプもあるんですか?」


 魂装補助デバイスと聞いて、仲間内で唯一刀剣武具を装備して戦う周防先輩が強い興味を示す。


「もちろん。刀剣タイプは直接装備型で武具に魂装能力を乗せやすい性質上、特に研究は日進月歩で進んでますですぞ~。試し振りしてみるかねボーイ?」


「いいんですか? 是非!」


 周防先輩が嬉しそうに、並んだ刀剣タイプの補助デバイスが収められた棚の前で、キラキラした目で、どれを試し振りしようかと悩んでいると、


「あれ? チンマイお嬢さんは、随分と変わった魂装補助デバイスを使っているのですな」


 そう言うと、桐ケ谷ドクターは琴美が背負ったチュウスケの縫いぐるみをむんずと掴んでしげしげと観察しだした。


「え? え? なんです?」


琴美が当惑した声をあげるが、チュースケに顔を至近まで近づけて観察している桐ケ谷ドクターの耳には届いていないようだ。


「憑き物型……いや、それにしては魂魄の主要部分が縫いぐるみから感じられない……」


 チュウスケを掴みながらブツブツと呟く桐ケ谷ドクターは、完全に自身の思考の海に沈んでいるようだ。


「あ~、ドクターのこの感じ懐かしいな」

「ご存知でしたか。所長がこのモードに入ると、戻ってくるまで時間がかかります。このせいで、何度大事な用事をドタキャンしているか……代わりに、謝罪の連絡をする私の身にもなってもらいたいです」


 俺が懐かしむように、過集中している桐ケ谷ドクターを見て懐かしんでいると、現在進行形で桐ケ谷ドクターに迷惑をかけられているであろう名取さんがボヤく。


「ユウ……これ、どうしたら……」


 背中にいるチュースケごと抱え込まれてジロジロと観察されて、琴美は恥ずかしそうに頬を赤らめつつ、俺に助けてくれと暗に頼んでくる。


「こうなった桐ケ谷ドクターは俺でも止められない。悪いけど、そのまましばらく我慢してて。大丈夫、変な人だけど害のある人じゃないから。変な人だけど」


「ユウ君がわざわざ2回も言うって事は、変な人ではある訳ね」


「変な人にクンクン匂いを嗅がれるの嫌なんですけど……」


 琴美は匂いを嗅ぐのは好きなのに、自分がクンカクンカされるのは苦手なようだ。


 俺がユーロ第3首都陥落作戦で初めて桐ケ谷ドクターに会った直後も、こんな感じだったな。

 直ぐに引っぺがしたかったが、桐ケ谷ドクターはユーロ第3首都陥落作戦における重要な役割を担っていて、ドクターの身を護ることも俺の任務に入っていたため、今の琴美のように俺もされるがままでいるしかなかった。


「それ位にしてください桐ケ谷所長。最近は、同性でもセクハラ認定されますからね」


 見かねた名取さんが、桐ケ谷ドクターを引っぺがすと、解放された琴美が俺の背中の後ろにサッと隠れた。


「いいですな~、実にいいですな~」

「助けてユウ!」


 フンスフンスと鼻息の荒い桐ケ谷ドクターが、両手をワキワキしながらこちらに近づいてくるのを怖がって、琴美が絶叫する。


 ちゃんと化粧や髪型を整えれば美人な桐ケ谷ドクターだからギリギリ許容される絵面だが、これがただのオッサン研究員だったら、即時に憲兵へ通報して引き渡している所だ。


「琴美が怖がってるんで近づかないでくださいドクター」

「そんな、いけずですぞ神谷殿~! これ程、興味深い事例は神谷殿以来なのですから~ぞな、もし~~~!」


「ん? そうなんですか?」


「本当ですたい~! だから、ね? もうちょっとだけ、先っちょだけ、ね?」


 桐ケ谷ドクターはヤバい奴だが、こと魂装研究に関しては、オタクの性質上、お世辞とかは全く言えない。


 その桐ケ谷ドクターが強く興味を惹かれたということは、琴美の魂装能力には何らかの特殊性を感じ取ったという事だ。


「琴美、生理的嫌悪の感情が湧いてるだろうけど、大人しく桐ケ谷ドクターに見せてあげて」


「ええ⁉ ユウ、私のこと生贄にする気⁉」


 琴美が絶望したような顔を覗かせて抗議するが、


「この人は、これでも世界で5指に入るほどの魂装研究の第一人者だから、琴美にとってもプラスだと思う」


 俺が自信を持って琴美に進言する。


「ファーストコンタクトの衝撃で忘れてましたけど、桐ケ谷ドクターって、電子魂装学の大権威じゃないですか! 軍の広報誌で何度も特集されてましたよ」


「私も魂装の学術雑誌で桐ケ谷ドクターの論文をお見掛けしましたが、執筆者近影のお写真と随分とその……姿形が違うような」


 思い出して驚いている速水さんの横で、真凛ちゃんがスマホで検索してネット記事を見せてくれる。


 なお、研究所内では機密漏洩対策のため、受付時にスマホのカメラレンズ部分にシールが貼られているが、ネットワークには繋がる。


「……ドクター、日頃からこの見た目ならモテモテなんじゃない?」


 真凛からスマホを受け取って見てみると、フリルのついたブラウスに清潔な白衣を羽織ってニッコリ微笑んで椅子に優雅に座っている、美人研究者然とした桐ケ谷ドクターの写真があった。


 実物はこれとか、詐欺じゃん。


「それは、余所行き用に名取さんにヘアメイクや服をコーディネートされて、プロのキャメラマンさんに撮ってもらった写真ですな~名取さんの愛の力ですな~」

「仕事です」


 桐ケ谷ドクターの戯言を、名取さんが笑顔で敏腕ビジネスマンばりのアルカイックスマイルでスッパリと否定する。


 何でこう、俺の周りにいる働くお姉さんは、こう、綺麗なのに残念な人ばかりなんだろう……


 そう思いながら、残念なお姉さん筆頭の速水さんの方へ思わず目線をやってしまう。


「どうしましたユウ様? もしかしてバブみが欲し」


「なんでもないよ。はい、琴美。そんなこんなで、この桐ケ谷ドクターは凄い人だからさ。その点は、仕事を一緒にやった事がある俺が保証するよ」


 俺は速水さんの事は無視して、琴美の説得を続ける。


「本当に大丈夫?」


琴美はまだ不安そうだが、俺の推挙や、速水さんや真凛ちゃんも知っている著名な学者ということで、琴美の警戒レベルが少し下がる。


「うん。琴美にとって、きっと有益な結果になると思うよ」


 俺は大きく頷いて見せて、琴美の不安を払拭しようと試みる。


「う……うん。ユウがそう言うなら、任せてみよう……かな」


「はいっ! 言質取りましたですぞ~! 同意、同意~~!」


 琴美から、消極的ながら是の回答を得た途端に、ヌルリンという音が聞こえてくるような気持ち悪い動きで蛇のように桐ケ谷さんが琴美の身体にまとわりつく。


「わ、わひゃぁ‼ どこ触ってるんですか!」

「ぐふふ、良いではないか、良いではないか~」


「ユウ助けて~!」


 早速ギブアップの琴美が、俺に助けを求めてくる。


「大丈夫、琴美。少しの辛抱だから」

「ユウ、さっき俺が保証するって言ったじゃない!」


「桐ケ谷ドクターはキモいけど、腕は確かな事を保証するって言ったんだよ」


「う、裏切り者ぉぉぉ‼」


 ラボに、琴美の悲痛な声と、桐ケ谷ドクターの下卑た声だけが空しくこだました。


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長編連載継続の原動力になります。

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