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第47話 旅行前日ほど急な仕事が入る

「はぁ……本当は、ユウ君との2人きりの旅行だったのに……」


 ミーナはため息をつきながら、空港の国内線の搭乗ロビーで、ついため息まじりに独り言ちた。


「それ何回言ってるんですか虎咆先輩。いい加減、諦めてください。それとも、合宿が楽しみじゃないんですか?」


「いや、何やかんや楽しみではあるんだけどね。結局、学園の旅行の許可審査を突破できたのも、火之浦さんが書類を仕上げてくれたおかげだし」


 ガヤガヤと人々が忙しく行き交う空港の搭乗ロビーで、ミーナと琴美が並び立って、他のメンバーを待つ。


 銀髪の美少女に、小柄でぬいぐるみを背負った少女の並びに、往来中だが思わず視線を向けてしまう男共が相当数いた。


「そういえば、なんでユウと一緒に空港まで来なかったんですか?」


 幼馴染で近所に住んでいるのに、一緒でなかった事を不思議がった琴美が尋ねると、


「もちろん、一緒に行くつもりだったんだけど、当日まで用事があるから、待ち合わせ場所には現地集合でってなってたの。その後、連絡も無くて……」


 ミーナがスマホを覗き込みながら、心配そうにしている。


「となると、何かお仕事関係で……って、あ! 周防先輩! 真凛ちゃん! こっちですよ!」


 雑踏の中、スーツケースを押した兄妹がキョロキョロと待合場所を探しているのを見つけた琴美が、2人に大きな声で呼びかける。


「おはよう」

「おはようございます皆さま。今回はご一緒させていただき、ありがとうございます」


 周防先輩が挨拶するのに合わせて、真凛は丁寧な挨拶と御礼の言葉を返す。


「こちらこそ、ありがとうだよ真凛ちゃん。私と速水先生の分の航空チケットまで用意してくれて」

「いえいえ、火之浦先輩。そんな気にしないでください」


 琴美が、真凛の手を取ってキャッキャとはしゃぐ。


 後輩の立場の真凛が、先輩の琴美をきちんと立てるが、如何せんチュウスケを背負うようになってから、より一層、中学生にしては大人っぽい真凛より琴美の方が幼く見える。


「まったく……何で、沖縄のハイシーズンなのに、都合よく私とユウ君が当初予約していた便の航空チケットの隣り合った席が手に入ったのよ……」

「昔から、真凛はクジや抽選といったものに滅法強かったからな」


 ミーナの不思議だ……というぼやきに、周防先輩が何のことは無いという風に答える。


「アンタは妹のことになると、どうも目が曇りがちよね」

「どういう意味だ?」


「何でもないわよシスコン」

「それで、神谷と速水先生はまだ来ていないのか?」


 周防先輩が腕時計を見ながらミーナに尋ねる。


 そろそろ、飛行機の便の搭乗ゲートが開く時間だった。


「軍では5分前行動が原則だと聞きましたが、部の部長さんの神谷先輩と、顧問の速水先生が遅刻されているのですか?」


 不思議そうな顔で疑問を呈する真凛に、周防先輩とミーナ、琴美は顔を見合わせる。


「神谷はあれで忙しいんだよ」

「そうそう、急用とか誰でもあるし」

「そうだよ真凛ちゃん」


 祐輔の、少将という本当の地位を知っている3人は、なんとなく遅刻の理由はわかっているので、何も知らない真凛を、やんわりと諫める。


(ニャ~ン♪ ニャニャンニャ~ン♪)



「ニャ! そう言ってたら、ユウ君から連絡が!」

「どんな通知メロディだ……」


 ユウ専用のメッセージ通知メロディにすぐさま反応したミーナは、周防先輩の突っ込みは無視して、スマホを取り出して忙しなく画面を操作する。


 そして、解りやすくミーナが意気消沈して肩を落とす。


 まるで、病院に着いた猫が意気消沈するかのように、ネコ耳やしっぽが垂れているのが幻視されるような様であった。


「ユウ君、急用で飛行機、間に合わないって……」


 ミーナがガックリと頭を垂れる。


「虎咆先輩……仕方がありませんよ。ユウは……って、あ! 速水先生からもメッセージが来てるみたいですよ」

「そっちはどうでもいい……」


 夏の合宿担当としては、いささか責任感に欠けるミーナを尻目に、仕方ないなと琴美がミーナのスマホを操作して代わりにメッセージを確認する。


「あ……」

「なに? あの年増も遅れるって? 読む元気ないから読み上げて、火之浦さん」


 琴美がスマホを見て二の句を告げずにいるのを、ショックから少しだけ立ち直ったミーナが訊ねる。


「えっと……あの……」

「良いから読んで、火之浦さん。情報共有は迅速によ」


 逡巡する琴美に、ミーナは先輩っぽくメッセージを読み上げるように促す。


「はい……『小娘へ。ユウ様と私は、明朝、私が予約を取り直したビジネスクラスのペアシートでゆっくり沖縄へ向かいます。それしか便が取れませんでしたから仕方ないですよね~♪(棒) ざまぁ』以上です」


 速水さんからのメッセージを代読し、琴美が恐る恐るミーナの顔色を窺う。



「あんの年増がぁぁああああ‼」



 音響爆弾『虎咆』が発動する一歩手前の大声で、ミーナが地団駄を踏みながら叫ぶ。


「おい、虎咆! 空港で騒ぎを起こすと最悪、飛行機に乗れんぞ!」

「落ち着いて虎咆先輩! 速水先生はどうせヘタレだから、ユウと飛行機の席が一緒でも何も出来やしませんよ!」

「あ、何でもありませ~ん。ツレがお騒がせしました~」


 ミーナの大声に驚いた他の乗客の視線が集中し、周防先輩と琴美が慌ててミーナを落ち着かせようとしているのをよそに、何事かとこちらに近づいてきた空港のグランドスタッフに対し、今回の合宿メンバーの中で一番年下のはずの真凛が、落ち着いてにこやかに対応する。


「しかし、神谷が遅れるのはどうでもいいが、速水先生が翌日の到着というのは痛いな」

「ユウ君がどうでもいいって何よ⁉ あんな年増の何が!」


 周防先輩のボヤキに、ミーナが攻撃的に反応する。


「絡むな虎咆。実際問題、速水先生がいないとレンタカーを借りれないだろ」

「移動手段が変わるとなると、合宿1日目と2日目午前の予定を変更する必要がありますかね」


「あ……」


 魂装能力持ちとは言え、所詮は年齢的にはただの高校生と中学生だ。

 唯一のドライバーである顧問の速水先生がいないと、途端に移動手段は公共交通機関等に頼るしかなくなる。


「っと。バタバタしてる内に搭乗開始時間だ。スケジュールの組みかえ検討は機内でやろう」


「ほら、行きますよ虎咆先輩」

「いやぁぁぁぁあああ! ユウと一緒がいいぃいい!」


 悲痛な叫びをあげるミーナを琴美が、小さな身体でグイグイと引っ張って、搭乗ゲートへ向かう。


 しかし、真凛だけはその場に立ちすくんだまま、虚空を見上げている。


「うんうん、エスピオもそう思うよね。その方が、みんな楽しいしね」


「え、どうやってって? そんなの、速水先生の魂装能力なら一瞬で解決じゃない。後は、神谷先輩が速水先生を説得できるかだけ。フフッ、ここは神谷先輩に頑張ってもらおうか」


 真凛は空港ロビーの虚空を見上げながら、ニコリと笑う。


 水色のワンピースにツバの大きい白い帽子を被った少女の妖しげな色気に、先ほどとは別の意味で他の乗客たちの注目を集める。


「おーい、真凛なにやってるんだ。行くぞ」

「うん、お兄ちゃん。今、行く~。あ、荷物運んでくれてありがとうお兄ちゃん。やさしぃ~♪」


 真凛は、旅行の予定が変更になってしまうアクシデントに、何も心配なんてしていないような軽やかな足取りで、兄の待つ搭乗ゲートへ向かった。


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