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第46話 魂装研究会 夏合宿始動!

「2人で沖縄に旅行ってどういうことですか⁉ 虎咆先輩!」

「な、なんの事かな~」


 テスト期間が終わり、また使用できるようになった魂装研究会の部室の小上がりの畳敷きの上で、俺とミーナは正座させられ、畳の上で仁王立ちしている琴美の詰問を受けている所である。


 窓ごしにもセミの声が聞こえる。

 とうとう本格的な夏の到来だな~と、俺は目の前の修羅場から現実逃避していた。


「すでにユウが自供しましたよ」


「ユウ君……」

「ごめん、ミーナ。つい口が滑っちゃって……」


 この間の体調不良で逃げるように帰って以来、ミーナが少ししかったのだが、今はそんな細事にかまけている余裕はなかった。


 今、琴美を説得できなかったら、俺たちの沖縄旅行はポシャッてしまう。


 というのも……


「虎咆先輩って2学年筆頭という重責に就いてらっしゃいますよね?」

「はい……」


「ユウは風紀委員だよね?」

「あれは、土門会長に半ば強引に押し付けられて……」


「だまらっしゃい!」

「はい……」


 被告人に発言権は無いのだ。


「知ってますよね? 長距離の移動を伴う旅行については、生徒会を通して学園に事前に届け出が必要だって」


 そうなのだ。


 有事の際を鑑み、軍では旅行でも詳らかに行動計画書を提出し、所在不明にならないようにする必要があるのだ。


 まぁ、学園の生徒はまだ正規軍人という訳でもないから、そこら辺のルールは緩いようなのだが、俺は少将の立場として、統合本部の主計担当へちゃんと申請を出した。


 嫌そうな顔されたけど、こっちだって数年ぶりの夏休みなんだから譲れない。


「とは言え、ルールはルール。重責に就く者が、ルールを蔑ろにしては示しが付きません」


 腕を組みながら正論をぶつけてくる、ツンツン優等生で生徒会役員の琴美さん。


 最近は縫いぐるみのチュウスケを四六時中愛でる地雷系女子になっていたから、優等生然としていた琴美が懐かしいが、できれば俺とは関係ない機会に発揮してほしかった。


「それでは、旅行の行動計画表を提出していただきましょうか」

「え?」


 ミーナがアワアワと目に見えて狼狽しだす。


「ミーナ、テスト期間中も夜なべして旅のしおり作ってたんでしょ?」

「あるにはあるんだけどその、まだ未完成で……」


 歯切れ悪くモジモジするミーナ。

 そういえば、旅のしおりはまだ俺もミーナから貰ってないんだよな。


 古典のテスト勉強や体調不良に任務にとバタバタしていて、完全にミーナ任せにしてしまっていた。


「あるなら、見せてください。生徒会の受領印が無いと、教官方へ提出できませんよ」

「うう……はい……」


 ミーナが震える手で、スクールバッグから旅のしおりを差し出す。


「ふむふむ、なるほどね……」


 琴美が、ミーナの作った旅のしおりを熟読し、時にスマホで何やら調べながら、じっくりと見ていく。


「ツッコミどころは色々あるんですが、まず、なんで1日目も2日目も3日目も、終わりに夜景スポットを入れてるんですか?」


「え! その……夕焼けや夜景って綺麗じゃない!」


 ミーナが汗だくになりながら琴美の問いに答える。

 部室の中は、夏になって空調設備がきちんと働いているはずなんだけど。


「3日連続で行くと飽きると思うんですけど。なんでですか?」

「う……その……」



「さては、虎咆先輩……あわよくば夜景の綺麗な所でチュ」

「わぁー! わぁー-‼ わぁー――‼」


 琴美の追及をミーナは手を伸ばして大声を出しながら制す。


 琴美の手の中にある旅のしおりの表紙にある、ミーナ手書きの下手うまなイラストのトラが、心なしか萎れた老猫顔のように感じられた。


「まったく……これでは学園側の許可が出ないですよ。というか、移動距離的に結構無理があるスケジュールじゃないですか、これ? 沖縄はこっちみたいに電車の路線があまり無いし、バスの乗り換えも大変なんですよ」


 琴美が旅のしおりの行動計画を見て、スマホのマップアプリで確認しつつ、ミーナの計画にダメ出しをする。


「うう……そこはタクシーを使って解決しようかと……」

「それ、とんでもなくお金がかかりますよ」


「タクシー代は、私が出そうかと思ってた……先輩だし……」


 ミーナが、か細く鳴くように答える。


「給料を貰ってる身分だからって、私たちはあくまで学生なんですよ。ちゃんと節度を護ったお金の使い方があるんじゃないですか」


「いや、琴美も昨日、ゲームセンターで結構な散財してたじゃない……」

「あれ位なら、可愛いもんです!」


 俺の指摘に、琴美は堂々と開き直る。


 そう言われると、ぬいぐるみをプレゼントされた側としては弱いので、それ以上の追撃はできない。


 確かにタクシー代の方が高額になりそうだけど、この裁判官、自分に少々甘くないだろうか?


「このままでは申請がはじかれるのは必至です」


「「そ、そんなー――!」」


 俺とミーナが悲痛な声を上げる。


 せっかく夏期休暇を取得したのに、どこも行けずに終わるなんて嫌だ。

 この旅行をご褒美に、テスト勉強や任務にも耐えてきたというのに。


「ここで一つ、私に妙案があります」

「え、なになに?」


 絶望していた俺とミーナは一転、琴美の意味深な発言に身を乗り出す。

 それは、まるで天から垂らされた細い蜘蛛の糸を罪人が必死で掴むかのように藻掻くのと似ていた。


「それでは、2人共入ってきてください」


 琴美が部室の扉の方に声を掛けると、それを合図に人が2人入ってくる。


「はいはい、琴美さんお疲れ様」

「テスト後なんだから早く終われよ。真凛との用事があるんだから。」


「速水先生と周防先輩!」


 ウキウキな速水先生と、面倒臭そうな周防先輩が入室してきた。

 魂装研究会の顧問と部員勢ぞろいである。


 なお、正確に言えば琴美は正式な部員ではなく、提携している生徒会の窓口担当というだけで、の入部届は俺が勝手に出しておいた。


「魂装研究会の関係者が集まったって事は……」

「そうです。『魂装研究会 夏の沖縄合宿』を企画します!」


 琴美が、ミーナの作った旅のしおりをポイッとして、企画書を配り出す。


「ちょっと! なんで私とユウ君の婚前旅行が、部の合宿になっちゃうのよ!」


 部の合宿と言われて、ミーナが琴美に食って掛かる。

 いや、婚前旅行っていうのは初耳なんだが?


「その点も、許可が出ない一因だと思うんですが。それに、部の合宿という形にすれば、色々と虎咆先輩としてもメリットがありますよ」


「メリットって何よ?」


 ミーナが、ぶすくれ顔で琴美をジト目で睨む。


「まず、顧問の速水先生が同行してくれるならば、レンタカーで移動が出来ます。それならば、虎咆先輩の組んだスケジュールも実現可能です」


「そうですね。人数的にもワンボックスカーを借りれば1台で行けますね」

「うぐぅ……」


 頑なだったミーナが揺らぐ。


「しかし、合宿と言うが、こんな夏休みが始まる直前のハイシーズンの沖縄で、宿が追加で取れるか?」

「そ、そうよ! 宿が取れなきゃしょうがないわ。アンタも偶には良い事言うじゃないの!」


 懸念を示した周防先輩に、ミーナがここぞとばかりに強めに同意する。

バンバンッ! と背中を強めにミーナに叩かれて、周防先輩は痛そうに顔を顰める。


「そこは心配いりませんよ周防先輩。虎咆先輩が予約してる宿は、ペンションタイプの宿です。ネットで調べてみましたが、部屋数的にも男女別れて寝室を確保出来ます」

「ペンションに駐車場もあるし。あ、庭でバーベキューも出来そうですね」


「うぐぅ……対お父さんお母さんへ旅行に行く説得のために、寝室が男女別に確保できるていのペンションタイプの宿にしたのが仇に……」


 ミーナが、ガックリと肩を落とす。


 寝室が男女別に確保できる『てい』って何さ?

 ちゃんと、そこは2人きりの旅行の時でも分けるつもりだったよ。


「悪いが、俺は参加を見送ろうかな。3泊4日で長期間、妹の真凛を1人にするのは心配だ」


 ここで、周防先輩のシスコンムーブが、またもや火を噴く。


「その点は大丈夫だと思うよ周防先輩」

「何をもって大丈夫と言ってるんだ神谷。まだ真凛は中学生だぞ。防犯的にも、家で1人でいさせるのは」


「いや、俺が言ってるのはそういう意味じゃなくて……」


 俺が言っているのは、真凛ちゃんが、お兄ちゃんと一緒に沖縄旅行なんていうイベントを前に、ただ指を咥えていることなんてあり得ないという意味で……


「む、真凛から電話だ」


 どう説明したもんかなと俺が悩んでいると、まるで計ったかのようなタイミングで、真凛ちゃんからの電話が周防先輩のスマホにかかってきた」


「ああ、お兄ちゃんだ。ああ大丈夫……え? 沖縄行きの航空チケット? 日にちは? ああ、一緒だ……その日は、魂装予備校の夏期講習もちょうど休み……なるほど、それなら……ああ、じゃあ詳細は家に帰った時に話す。じゃあな」


 周防先輩が電話を切る。


「よく解らないが、真凛が偶然、夏合宿の日程と偶然一致した沖縄行きの航空チケットを譲ってもらったらしい。スケジュール的にも問題ないらしい。悪いが、真凛も合宿に同行させてもらって良いか?」


「うん、いいんじゃないかな。車も宿も、1人増えても問題ないし」


 流石の真凛ちゃんのエスピオによる諜報能力だ。


 この短い時間の間に、事態の把握と、チケットまで確保する実行力は流石としか言いようがない。


 そして、ここまで沖縄にお兄ちゃんと行く気満々な真凛ちゃんの参加を断るのは、恐ろしくて俺には出来ない。


 彼女には俺の秘密は握られ放題なのだから……


「それでは、魂装研究会 夏合宿担当、虎咆副部長、一言お願いします」


 琴美が、もはや詰みとなった局面で、ようやく話の主導権がミーナに引き渡される。


「あ~、もうっ! どうしてこうなっちゃうのよ~!」


「はい。それでは虎咆副部長より一言もいただけたので、魂装研究会 夏の沖縄合宿に向けて、各自準備を開始せよ!」


 ミーナの悲痛な声が部室に響くのを気にも止めず、琴美の指示が飛ぶ。


 結局、俺は部長なのに、すっかり蚊帳の外であった。


本作がジャンル別年間ランキング10位になりました。

応援してくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。


ちなみに9位が今度書籍化する前作、U-15サッカーです。

年間ランキングで同一作者が並んでるのは珍しいですね。


引き続きお付き合いいただける方は、

ブックマーク、☆評価よろしくお願いいたします。

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