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第45話 UFOキャッチャーで沼る

「じゃあ、チュウスケはユウのお亡くなりになったお父さんが取ってくれたんだ」


「チュウスケって?」

「この子の名前」


 琴美は背負っていた縫いぐるみ、もといチュウスケを差し出しながら答えた。


「そのキャラって、そんな名前だっけ? たしかゲームでは……」


「いいの! ユウがくれた私だけの子なんだから、きちんと名前をつけてあげなきゃ」

「ふーん……関係ないけど、チュウスケとユウスケって、字にすると似てるよね」


「なんで普段ニブチンなのに、そういう所には気付くの!」


 琴美が、俺の顔面にチュウスケをムギュッ! と押し付ける。苦しい。


 土門会長と名瀬副会長のラブラブ空間から脱出し、俺と琴美は別のゲームセンターへ場所を移していた。


 主要ターミナル駅なので、他にも大きなゲームセンターがあったのは幸いだった。


「けど、そうするとチュウスケはお父さんの形見だったんじゃ……」

「琴美が大事にしてくれてるから、きっと父さんも本望だよ」


「絶対に幸せにします」


 琴美が、ギュッとチュウスケを抱きしめた。

 何だか、子供が結婚して巣立っていくような感じだな。


「さて、新しい子をお迎えするのが今回、ゲームセンターに来た目的だったな。う~ん、折角ならチュウスケと同じゲームのキャラが良いけど……」


 クレーンゲームの筐体を眺めながらブラブラするが、中々ピンと来る子がいない。


 チュウスケの元ネタのゲームは長寿シリーズで何作も続いているが、俺は徴兵されてその後のシリーズは未プレイなので、チュウスケが出てくる初期シリーズしかキャラが解らない。


「お!」


とある筐体の前で、俺は既視感から立ち止まる。


「懐かしい! このキャラなら俺も知ってる」


 それは狐を模したキャラクターだった。

 たしか、炎属性だったか?


「この子、可愛いね。大きさも、ちょうどチュウスケと同じ位だし。よし! じゃあ、この子は私がお迎えしてあげる」


 そう言って、琴美が腕まくりをする。


「え、琴美が取ってくれるの?」

「チュウスケを譲ってもらったんだから、この子は私がユウにプレゼントしたいの」


 こちらの是非の回答を聞くまでもなく、琴美は1000円札を両替機に突っ込み、ジャラジャラと100円玉に両替する。


「ありがとう」

「ユウはそこで応援してて。さっきの、名瀬副会長みたいに」


「ガンバレー♪」


 俺は、琴美に声援を送りながら、張り切っている琴美を見ながらホッコリとした気持ちになった。






「ちょっと、ユウ。もう1000円両替してきて」

「両替するのもう、何枚目だっけ……琴美、もう諦めて別の……」


「それは絶対ダメ! この子をお迎えするって決めたんだから!」


「お、おう……」


 血走った目で、鬼気迫りながらUFOキャッチャーの筐体に齧りつく琴美のさまは、ギャンブラーのそれだった。


「おかしい……これだけ回数やってるんだから、すでに確率は来てるはずなのに……」


 琴美がブツブツ言いながら、ドンドン100円玉を投入していく。


 完全に沼にハマってしまっている。


 なまじっか、給料が出る身分で、夏のボーナスも1学年で少額ながら支給されているので、普通の高校生のお小遣いのように、お金の使い方に歯止めがかからない。


 俺が琴美のために出来る事は最早両替を代行することだけだ。




 そして、ついに


「や、やっと取れた~‼ はい、ユウ。プレゼント」


 琴美は、ようやくGETした狐の縫いぐるみを取り出し口から取り出すと、即俺に渡してきた。


 結局、見かねたゲームセンターの店員さんに縫いぐるみを初期位置に置き直してもらって、ようやくゲットと相成った。


「おめでとう琴美‼ そして、ありがとう! 大切にするよ!」


 俺は、狐の縫いぐるみを抱きしめると、精一杯の感謝の気持ちを琴美に伝えた。


「ユウの笑顔が見れて、頑張った甲斐があったよ」


 琴美のやり切った笑顔に、内心、俺は居たたまれなかった。

 一体、いくらこの縫いぐるみにつぎ込んだのか、数えたくない。


 縫いぐるみは軽いはずなのに、この子を得るために投入されていった100円玉の数を目の前で見てきているので、何だかズシリと重い気がした。


 だからこそ、俺はその点には敢えて触れずに、せめて飛び切りの笑顔と御礼の言葉を琴美に返した。


 いいんだ、これで……


 琴美も俺に喜んでもらえてWIN、お店も儲かってWIN、俺も欲しい縫いぐるみをお迎えできてWIN。

 うん、WINWINって奴だ。誰も損なんてしていない! してないったらしてない!


「この子の名前は何にしようか?」

「琴美が名付け親になってよ」


「え、私が?」

「この子のママは琴美みたいなもんじゃない」


 財布が空になるという意味で、産みの苦しみを味わってるからね。

 あんなにお金も使ったんだから、名付けの権利も当然あると思う。


「私がこの子のママ……ユウとの共同作業の愛の結晶……」


 俺は、琴美の応援と両替の代行くらいしかしていないけど、まぁ共同作業と言えば共同作業か。


「何か良い名前ある?」

「そうだね……パッと思いついた名前があるんだけど、ちょっと安直かも……」


「いやいや、こういうのはウンウン後で考えるより、その場でピンッ! と思いついた名前が一番だよ」


 この子に何となく惹かれて、この筐体の前に立ち止まったのと一緒だ。

 まぁ、その俺の直感のせいで、琴美の財布は軽くなってしまったわけだが……



「じゃあ、この子の名前は……コンで!」





『うん、良い名前だね。そうしよう』と、俺は用意していた答えを返すつもりだったのに、つい沈黙してしまった。


「あれ……名前、気に入らなかった?」


 名前を発表したのに俺が無反応だったことに、琴美が不安がる。


「あ、ああイヤ、良い名前だね。じゃあ、お前の名前はコンだ」


 俺は慌てて、琴美がGETしてくれた狐の縫いぐるみを抱き上げつつ、琴美の命名について同意した。

 これって、だたの偶然だよな?


「狐タイプの子だから、狐の鳴き声のコンにしたんだよ」


 うん偶然だ。

 だから、落ち着け。


『浮気ですか? マスター』

『なんだよ浮気って』


 案の定、魂装の方のコンが俺の内心に語りかけてきた。

 面倒な話になりそうで、ため息が出そうだ。


『新しいコンが来たから、旧型の私はお払い箱だと?』

『なんだよ旧型って。っていうか、コンって名前、不本意だっていつも言ってたじゃん。何ジェラってるの?』


『自分の物を横から搔っ攫われて黙っているほど、私は慈悲深い神ではないですよ』

『じゃあ、これからはコンのことは真名で呼ぶようにするか?』


『“じゃあ”ってなんです⁉ じゃあって! 私の呼び名が、この新顔の加入による玉突きで変えられるなんて御免です!』


『面倒くさいな~もう……だって、琴美があんなに散財してまでGETしてくれた子なんだよ。名前は琴美に決めさせてあげたいじゃない』

『正確には1万2500円つぎ込みましたね』


『直視しないようにしてたんだから、具体な金額出さないでよコン!』


 手に抱いている、縫いぐるみのコンが更に重く感じられた。


『チッ……こうなると思ったから、邪魔していたのに……』

『え? ちょっと待ってコン。まさか、このUFOキャッチャーに何か干渉してたの?』


『……………………いいえ』

『そのはなんだコン!』


『別に……私はただ、このゲームセンター土着の下級神に、無言のプレッシャーを掛け続けただけです。私は何も指示してません』

『思いっきりパワハラしてんじゃないか! ゴメンなさい! ゲームセンターの神様!』


 可哀想に……土着神はコンに忖度してUFOキャッチャーで件の縫いぐるみを取らせないように、筐体の調整を弄っていたのか。


 けど、琴美が絶対に諦めずにチャレンジし続けるから、とうとう土着神は良心の呵責に耐えかねてGETを許さざるを得なかったと。


 ゲーセンの土着神は板挟みにされて、胃に穴が開いたかもしれないな。

神様に胃腸があるのか知らんけど。


「ユウ? どうしたのボーッとして」


「な、何でもないよ。そう言えば話は変わるけど、琴美は夏休みはどうする予定なの?」


「ヒマ! 超ヒマだよ!」


 俺が苦し紛れに話題転換を図ったら、思いのほか琴美が食い気味に答えを被せてくる。


「そうか。俺はちょっと色々飛び回らなきゃ行けないから、ちょっと連絡がつきづらいかもなんだ」


「あ……そう……なんだ……」


 目に見えて、琴美が意気消沈する。

 心なしか、胸に抱いたチュウスケの耳まで垂れて、落ち込んでいるように見える。


「けど、ユウは少将さんだもんね……お仕事大変だから仕方ないよね……」

「うん、すま……え⁉ なんで琴美、俺の階級知ってるの⁉」


 意表を突かれて、つい俺はトボけることも忘れて、琴美に聞き返してしまう。

 たしか、琴美には明確に俺の階級とかはバレてないはず。


「前に、スマホの銀行アプリのやり方を教えた時に、ユウの給与振込額が見えちゃったの。それで、税率や社保の掛け金とか手当率で逆算すれば大体の号給が解るから、それで俸給表を見れば階級が解って」


 あちゃ……


 特別職とは言え、公務員の俸給表は一般の人も閲覧できるからな。

 給与の差し引き支給額からある程度、当たりをつけるのは、そう難しくないか。


「今まで解ってて、黙っててくれてたんだ。ありがとう琴美」

「ううん。けど、私もバカよね……まさか、少将様にライバル宣言しちゃうなんて」


 琴美が恥ずかしそうにチュウスケの頭に顔を埋めて照れる。


「いや、琴美にはいつまでも、会ったままのツンツン優等生でいて欲しいんだけど」

「もう、ユウのせいで優等生キャラのメッキなんてボロボロよ。チュウスケと四六時中一緒にいるのを、みんな奇異の目で見るようになっちゃったし。全部、ユウのせい」


「え、それ俺のせいなの?」

「そうだよ! あ、でも、チュウスケといると不思議と魂装能力の調子が良いんだよね」


 琴美が不思議そうに言う。


『ほぉ……これは興味深い話ですね』

『あれ、コン。さっきは蛇蝎のごとく縫いぐるみを嫌ってたのに』


『いえ……まだ仮説の段階なので今話すのはよしておきましょう』

『なんだよ勿体ぶって』


 今日のコンは、本当に面倒臭い。


「それで、ユウは夏休み中、お仕事忙しいんだよね。大丈夫、私にはチュウスケがいるし」


 琴美の幼く儚げな容姿から、何だか、仕事が忙しくて子供に留守番ばかりさせて寂しい思いをさせているような謎の罪悪感が俺の中に沸き上がってしまう。


 人は得てして、こういう心がざわめいている時に、悪手を指してしまうものだ。


「いや、夏季休暇もあって沖縄にミーナと旅行に行こうと思ってるんだ。だから」


 一緒に……


 と琴美を誘おうとしたところで、尋常でないプレッシャーが琴美から沸き上がる。



「虎咆先輩と……旅行……沖縄……2人で……?」



 あ……やっちまった……


メイドインア○スのナ○チのフィギュアが欲しくて、3000円かけたのに結局取れずに泣いた作者を励まそう!


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