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第41話 テスト前日は早く寝ろって理想論者の戯言だよね

「じゃあ、ユウ君のお仕事のスケジュール的には、この週の水曜日から日曜日までの5連休が良さそうだね」

「うん。そこの日程になるね」


 ミーナが、ダイニングテーブルに置かれた卓上カレンダーと睨めっこして俺のスケジュールと照らし合わせながら、旅行の日程が決められる。


「夏休み時期で、休日の並びの良い期間だから、ちょっと宿代や飛行機代はかかりそうね」


 ミーナが、スマホで旅行サイトを見ながら、少し顔をしかめる。


「そこら辺の高くなっちゃう差額は俺が出すよ」

「え、でも私が先輩なんだから普通は私が多く出すんじゃ……」


「軍では上官の方が、若くても気持ち多めに出すもんだから」

「前は、階級差なんて、プライベートじゃ関係ないって言ってたのに……


「男は恰好つけたいものなんだよ。ここは譲ってよミーナ」

「そうやって、年下君なのに、ちょっと強引に責任とか奪い取っていくところ、好き」


 多めに旅行代を払ってくれるからって、随分とミーナは調子が良い事を言う。

 日程の都合だって俺のスケジュールに合わせてもらってるんだから、ちょっと多めに旅行代を負担するくらい、何でもないのに。


「沖縄の旅行ガイドブックたくさん買ってきたから見てみよ」

「意外と本によって載ってるお店とか違うんだね。あ、ここの食堂、メニューが色々あって美味しそうだ」


「そのお店は空港の近くだし初日に行くと良さそうだね。そうすると、2日目は水族館かな~」


「ステーキも食べたいね」

「さっきから、食べ物ばっかりじゃないユウ君は」


 旅行は、ガイドブックを見ながら予定を、あーでもなこーでもないと話し合うのもまた醍醐味だ。


 俺とミーナは、完全にテスト勉強のことなんて忘れて、ガイドブックやスマホで沖縄の観光名所やおしゃれスポット、グルメスポットを調べてキャイキャイはしゃいで夜が更けていった。




◇◇◇◆◇◇◇




「ふんふ、ふ~ん♪」

「何だか、虎咆先輩ご機嫌ですね。何か良い事でもあったんですか?」


 何の変哲もない学食の日替わり定食を、鼻歌まじりでご機嫌な様子で食べているミーナを見て、いぶかしげに琴美が尋ねる。


 今日は、昼休みに学園の学食で、珍しくいつもの魂装研究会プラスαの面々で集まって食べている。

 テスト期間で部室に集まれないため、何とも無しに集まることになったのだ。


「ん~? 何でだと思う~?」


 よくぞ聞いてくれましたと、ミーナがニンマリと笑いながら、尋ねた琴美に逆に質問し返す。


「え? うーん……テスト勉強が順調だからですか?」


「あ~、まぁ普通の高校生じゃ、そういう発想になっちゃうか~ でも仕方ないよね~」

「はぁ……で、結局、何で虎咆先輩は上機嫌なんです?」


「それは秘密~♪」


 鬱陶しいミーナに、多少イラッとした琴美は、何があったのか知っているかと俺に視線を向けてくるが、今、俺はそれどころじゃなかった。


「で、神谷は古典のテストは大丈夫なのか?」


「大丈夫だったら、昼食の時間までガリガリ勉強してないよ!」

「だろうな」


 俺は、昼食もそこそこに、持ち込んだ古典のテキストをガリガリと解いている。

 周防先輩め、解ってて聞いて来やがったな、ちくしょう!


「俺の組んだ学習計画通りに進んでいれば、特に問題ないはずだが?」


「周防先輩……往々にして、事前に立てた計画っていうのを、戦場の女神様は嫌うもんさ。気まぐれでやんなっちゃうよね」


「単にお前が勉強をサボっただけだろ」

「その通りでございます……」


 正論でぶっ叩くのやめてよ……


 ぶっちゃけ、連日のミーナとの沖縄旅行の旅行準備に時間を費やしたせいで、事前の学習計画は破綻していたのだ。


 けど、夏休みが始まる前に立てた計画や目標なんて、9割の人が作り終わった途端に忘れるもんだろ?


「大丈夫? ユウ」


 琴美が心配そうな顔で気遣ってくる。


「大丈夫、大丈夫。古典のテストは明日だから、今夜、一夜漬けで詰め込めば何とかなる計算だから……」


「それって、大丈夫って言えるの?」

「試験前日に徹夜は、あまりお勧めできんな」


 琴美が、より一層心配そうな顔で俺の方を覗き込み、周防先輩は理想論を語る。


 優等生の2人にはそうなんでしょうけどね……

 魂装能力の方はともかくとして、こと、勉強に関しては俺は凡人なようだ。


 何か、一回教科書読んだら、そのまま全て頭に入る魂装能力とか無いかしら……


『そんな能力無いですから、諦めて勉強してくださいマスター』


 コンから無慈悲な宣告が下る。


 人は追い込まれると、つい都合の良い一発逆転的な魔法にすがりたくなるが、現実はままならないものである。


「頑張るっきゃないか……」


 俺は、再び気を取り直してテキストに齧りついた。




◇◇◇◆◇◇◇




「これで……何とかなりそうだ……」


 ミーナに貰った、古典の過去問を解いてみて自己採点をした結果に、俺は自室の薄暗い部屋の中、徹夜でボロボロになりながらも、変な充足感に満ちていた。


 いや、自己採点結果もギリギリ赤点を免れる程度だし、そもそも普段から勉強してればこんな目に合わなかっただろとか言われそうだが、とにかく今の俺はやり切ったという充足感に浸る。


 なおミーナは一緒にいると、つい沖縄旅行の話に脱線してしまうので、今日は勉強を一緒にするのは慎んで辞退しておいた。


 ミーナはミーナで、旅のしおりを夜中まで作ったりで夜更かししているようだが、ちっとも疲れていないとのことだ。


「もうすぐ午前4時か……少し仮眠しようかな……登校1時間前には起きて、おさらいして……」


 仮眠をとって、肝心のテスト当日に遅刻しました、なんてベタな失敗は絶対に避けなくてはならない。


 単純なミス程、発生した時のダメージがデカいのだ。


 俺は、登校時間や直前の総ざらいの時間から逆算して、スマホのアラームをセットし、さらに念のため、目覚まし時計もセットする。


「これでよし。寝るか」


 俺は、熟睡するのを防ぐために、ベッドではなく、リビングのソファに寝転がり目を閉じる。


 苦労したけど、これでなんとか勝ち筋に乗れたか……



 意識が眠りの沼に沈んで、身体から力が抜け……







「緊急事態です! 神谷少将‼」


「ほわっ⁉ 」


 夢か現か、自分でも曖昧な領域に意識が飛んでいた所で、強制的に夢の沼から意識が引きずり上げられる。


「は、速水さん⁉」


 自宅にいきなり、目の前に居るはずのない人がいて、心臓が飛び上がるほど驚いた。

 と、同時に、その恰好が問題だった。


「すいません。私ったら、いきなりお休みのところを大きな声を出して」


「うん、うん……それはいから、ちょっとこれ羽織ってくれるかな?」


 俺は、片手で目を覆いながら、ダイニングテーブルの椅子に掛けたままにしていたジャージの上着を手渡した。


 速水さんは、非常呼集の連絡を受けて、すぐに俺の元に飛んできたのだろう。

 ネグリジェのキャミワンピース姿だったのだ。


「あ……すいません。急いでいたもので、お見苦しい姿を晒してしまって……ナイトガウンを羽織るのを忘れて、少将の元に飛んできてしまいました……」


「ちゃんと、ジャージのチャックも閉めてね」


 速水さんが、恥ずかしそうに俺のジャージの上着を羽織るが、胸元がザックリあいているキャミワンピだったので、俺は少将権限でしっかり上着のチャックを閉めるよう命じた。


 速水さんが、こういう大人綺麗目お姉さん路線で直球ストレートに迫って来られていたら、正直、俺も健全な男子なので抗いきれなかったもしれない。


 つくづくこの人は、赤ちゃんプレイという厄介な性癖さえ持ち合わせていなければ……と残念な気持ちになる。


「すぐに統合本部へ向かいます」


「……うん、わかった。行こう」


 スマホに届いていた非常呼集のメッセージに目を通しながら俺は、チラリとダイニングテーブルに置いてある、古典の教科書やテキストを見やるが、すぐさま意識を切り替えて、速水さんと共に統合本部へ向かった。


ブックマーク、☆評価よろしくお願いいたします。

連載を続ける上での励みになっております。


この話書いてたら、高校の古典のテストで16点を叩き出した記憶が蘇った。

ちなみに、人生最低点は化学の12点。

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