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第4話 意外性

「戻ったよ」


「お疲れ様です神谷少将。ちょうどお茶が入りましたので淹れますね」


 俺の帰りを待ちわびていたというように、速水さんが満面の笑みで出迎えてくれる。

 手元には、紅茶のティーポットが握られていた。


「あ、速水さん。突然なんだけど、俺はここを離れることになったよ」



ガシャーンッ‼



 速水さんの手元から、紅茶のティーポットが落下した。ビシッとした速水さんらしからぬミスだ。



「わ! 大丈夫? ケガや火傷はしてない?」


 慌てて俺は速水さんに声をかけるが、当の速水さんは茫然とした顔をしている


「え‼ え⁉ ど、どういう事なんでしょうか」


 速水さんが震え声で俺に問いかけて来た。


 先ほどの下命については軍内部とは言え、あまり広めるべきではない話だろうが、またバディを組む事になるであろう速水さんには伝えても大丈夫だろう。


「俺の正体がマスコミにバレかけてね。隠れ蓑として、特務魂装学園へ通うことになったんだ。その準備のために、すぐにここから退去しろだって」


 俺は、先ほどの元帥室での話の概要を速水さんに伝えた。


「そ、そんな……私は」


「あ~、速水さんの扱いについては特に命令の中でも触れられてなかったね」


 今回は、未成年の俺をとにかく軍の中枢から物理的に距離を置かせるための緊急対応だ。

 なので、速水さんとはむしろ、その関係を悟られないように離れている必要があるだろう。


「速水さんについては、また追って辞令が出ると思うよ。それじゃあ、そんなに長い間じゃなかったけど、副官として、また作戦中は相棒として支えてくれてありがとう」


 まぁ、いずれリモート作戦の頃になったら、またペアを組むことになるんだろうし、近いうちにまた会えるだろう。





「いやです」



「はい?」


 エリート女性士官で、日頃ビシッとしている速水さんから、意外な拒絶の言葉が出て来て、俺は面食らった。

 速水さんの顔を見ると、顔をくしゃくしゃにしていた。


「せっかく……神谷少将の側仕えができる地位を勝ち取ったのに……」


「あの…… 速水さん?」




「ヤー! ヤーヤーなの‼」




 突然、幼児退行したかのような大声をあげて、速水さんがソファの背をバンバン! と叩きながら、頬を膨らませて怒っている。


 あ、これ戦場で何度か見たことある光景だわ。


 度重なる戦闘による過度のストレスに苛まれた結果、自身の心を守るために幼児退行しちゃうケースだ。


 責任感の強い、上からも下からもつつかれる、なり立て士官の人によく起きてしまう現象だ。


「速水さん……速水少尉! 大丈夫だから! 俺がいるから!」


 こういう時に、「しっかりしろ!」と怒鳴ったり、頬をひっぱたいたりしても何の意味もない。


 こういう時は、ただ落ち着かせ、安心させることが先決だ。

 しかし、今日も今日とてパリッとした軍服にビシッと手入れの行き届いた髪をまとめた女性士官である速水さんが、聞き分けの無い女児のように駄々をこねている様子は、ぶっちゃけかなり異様だった。


 俺は、素早く速水さんの後ろに回り込んで、背中から彼女を抱きしめて落ち着かせようとする。


「私……頑張ったのに……」


「うんうん。速水さんは頑張ってるよ」


「うう……私がどれだけユウ様のために苦労して……」


「うんうん、そうだね。大変だったと思うよ」


 15歳のガキの御守は大変だったよな。

 ホントにゴメンな速水さん。


 それにしても……

 副官どうこう言ってる流れからして、ユウ様って俺の事を指してるんだよな……


 祐輔だからユウ様か。


普段は神谷少将って呼んでくるけど、陰では俺の事そう呼んでるのか?

 まぁ、そこは一先ずスルーだ。


 俺は、とにかく速水さんを落ち着かせようと、相手の言う事を全肯定しながら話を聞いた。


「せっかく、ユウ様の副官のポストを勝ち取ったのに……」

「うんうん……」


「人を自分以外にもう1人しか運べないダメダメ魂装能力ってバカにされてたのが、やっと役に立てると思ったのに」

「速水さんの力があったから、今までの作戦は成功したんだよ。もっと自信もって」


「戦場の英雄のユウ様とペアを組めて私は本当に幸せで」

「そんな風に思ってもらえて光栄だね」


「軍の生活しか知らないユウ様を、お姉さんが手取り足取り教えてあげる計画が……」

「うんうん……ん?」


「いずれユウ様を私がいなきゃ何もできない、私だけの赤ちゃんにする計画だったのに……」

「…………」


「肯定の言葉が無い……ヴワァァァァァァアアアン‼」


「あ、ごめんごめん! つい、話に聞き入っちゃった。よ……よーしよし。大丈夫だからね」


 俺は引きつった顔で、速水さんの頭をナデナデした。


「ほんと……? ユウ様、私だけのバブちゃんになってくれるの?」


 グスグスッと鼻をすすりながら速水さんが、後ろから抱きすくめている俺を見上げる。

 その目は、涙だけではなく、期待からなのか目がキラキラと輝いていた。


「い、いや……いきなりそういうアブノーマルなのはちょっと……」


「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええん!」


 なんなんだよ、この人は。

 内なる性癖を暴露しすぎだろ。


 これは、しばらく距離を置けて正解なのかもと、俺は速水さんを宥めながら思った。


ブックマーク、評価、感想よろしくお願いいたします。

励みになっています。

ちなみにエピソードタイトルの意外性は、『意外な性癖』の略です。

次話はヒロイン登場!

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