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第37話 初めてだから

エッチっぽいけどエッチじゃないよ!

「なぁなぁ、琴美。ちょっといいか?」


 授業コマの中休みに、俺はとある用事があって、他クラスであるCクラスの教室を訪ねていた。

 どうやらCクラスは、次は移動教室のようで、教室内はドヤドヤしていた。


 俺が、教室に入ってくるまでは……



(シ~~~~~~ンッ)



 Cクラスの方々俺の方へ一斉に視線を向けて固まる。


「なによユ……神谷、わざわざ他クラスまで来て」


 琴美が腕を組みながら、面倒臭そうにこちらに向かってくる。


「用件の前に、泣いていい? なんで俺が来ると、みんなの時が止まるのさ? 俺、時を止める魂装能力なんて持ってないのに!」


「他クラスの人が来る時はそんなもんよ。あんたのいるAクラスはともかく、こっちは日頃、神谷と風紀委員の腕章を見慣れてないせいよ」


 クラスメイトの前なせいか、琴美はいつもよりツンツンした口調だし、呼び方もユウではなく神谷呼びだ。


「琴美やさしい……この間、周防先輩に相談したら、お前が嫌われてるからだろってバッサリ斬られたのに」


「う、うっさい! 実習のペアの調子が悪いと、こっちが困るからよ! それで、用はなに?」


 琴美が顔を朱くしながら、話題を強引に元に戻す。

 そういえば、Cクラスは、次の授業は移動教室みたいだから、手短に済ませないとな。


「今日、放課後、俺の家来て」

「へっ……?」


「待ち合わせはいつもの通り校門前でな。それじゃ」


 俺は、手短に用件だけを伝えて、何故かCクラスのクラスメイト同様に固まってしまった琴美を残して、足早に自分のクラスへ戻って行った。




 放課後


 校門へ向かうと、琴美はすでに待っていた。


「お待たせ琴美」

「うん……あ、そう言えばいつもは虎咆先輩と帰ってるんじゃないの?」


あれ?

何だかいつもより琴美の態度が柔らかいな。


さっきは、皆の手前と言うこともあったのだろうけど、周りの目がある時には、琴美は俺に対してツンツンな態度なのに。


「ミーナは、今日は2学年全体の課外実習だからいないよ。今日は帰りが遅くなるみたいだ」

「そ、そうだったね……私ったら、うっかり忘れてた」


 ワタワタと琴美は、落ち着きなく、前髪をクリクリと弄る。


 よく見ると、色付きのリップクリームを引いているせいか、いつもよ唇が淡くみずみずしさを帯びている。



「じゃあ、行こうか」

「うん……」


 しおらしく俺の後ろをついてくる琴美に対し、俺が少し早歩きで琴美と距離を空ける。



「な、なんで先行っちゃうの?」



 トテテッ! と、琴美が小走りで俺に追いつく。

 その顔は、半泣きだ。


「え? だって前に、一緒に歩いてるのを見られて、周りから噂されるの恥ずかしいしって言ってたじゃん」


「そ、そんなの……クラスの皆の前であんなこと言われちゃったら、今更だよ……」


「……? 話がよく見えないんだけど、琴美とちゃんと一緒に歩けるってことだね。それは、嬉しいな」


「うん、私も……じゃあ……行こ……」


琴美は俺の制服の上着の裾をチョコンと摘まむと、無言で俺の後ろをついてきた。




「お、お邪魔します」


 借りてきた猫よろしく、おずおずと琴美が俺の自宅に上がる。


「ご、ご家族の方は?」

「いや、この家に住んでいるのは俺一人だよ」


「あ……そ、そうなんだ……身体あっつい……」

「もうすぐ夏だもんな。今、クーラー入れるわ」


 火照った顔を手で扇いで暑がりだした琴美を見て、俺はクーラーのリモコンを手に取るが。


「あ、大丈夫。クーラーの風は、匂いを感じる時に邪魔になるから」

「匂いを……感じる?」


「初めてだから、混じりけのない、飛び切りの想い出にしたいから」


 琴美が真っすぐと決意を秘めた瞳で、俺の目を見つめる。


 たかが、友人の家に遊びに来ただけで、随分と大袈裟な決意だな。

まぁ来客である琴美が要らないって言うなら、クーラーはつけなくて良いか。


「じゃあ、飲み物用意したから、早速俺の部屋に行こうか」

「えっ⁉ も、もうユウの部屋に⁉」


 先ほど決意したような顔をしていたのに、琴美はあたふたと慌てる。



「他に今日、俺の家でしたい事あるの?」



 俺は、小首を傾げて琴美に尋ねた。


「う……それ、女の子の私の口から言わせる気なの……」


 制服のスカートの裾をギュッと握って、恥ずかしそうに俯いた後に、意を決して琴美は顔を上げた。



「行く……ちゃんと、今日はそのつもりで来たから、優しく……して下さい……」


 小さな体躯は、僅かだが震えていた。


「なんか、琴美、緊張してる?」

「あ、当たり前でしょ! だって、初めて……なんだから……」


 お、ツンツン優等生風味の琴美が少し戻ってきた。


「俺も初めてだよ」

「え?」


 琴美が、心底、予想外だという顔を俺に向ける。


「あれ? 意外だった?」

「だって……てっきり虎咆先輩と、既にその……経験済みなのかと思って……」


「あ~、ミーナも俺と一緒で、この手の分野は苦手だからな」


 俺は苦笑しつつ、少し恥ずかしさもあって、頬をポリポリと掻いた。


「え? ユウ、苦手なの?」

「うん。ご存知の通り、大の苦手だよ」


「じゃ、じゃあ今日はなんで……」

「う~ん、琴美だったら同級生で気安くて落ち着くし、その方が緊張せずに上手くいくかなって思って」


「私だったら……いいの?」

「うん。琴美がいい」


「う、嬉しい! わたし……今、とっても幸せだよユウ!」


 琴美が、目尻に涙を浮かべながら顔をクシャクシャにして飛び切りの笑顔を見せる。


「それはなによりだ。じゃあ、部屋に行こうか」

「うん!」


 俺の部屋がある2階への階段を昇る際に、俺の横にピッタリと寄り添う琴美の身体は、もう何の迷いもなく、身体も震えてはいなかった。




◇◇◇◆◇◇◇




「あ、繋がったかな……」





 初めてだったから不安だったけど、無事に成功したようだ。

とは言っても、ほとんど琴美がお膳立てしてくれたんだけどな。


 やっぱり琴美は頼りになるな。

 初めてだって言ってたのに、手つきが小慣れていた。


 初めての相手に選んだ俺の選択は間違っていなかったな。




「トシにぃ 聞こえる~? こっちの映像、観えてる~?」

「おう、ちゃんと観えてるし聞こえてるぞ祐輔」


 ヘッドセットを装着してデスクトップパソコンの前で、Webカメラに向かって俺が手を振ると、モニターに表示されたトシにぃが、映像、音声とも良好なことを返してくれた。


「いや~、今は便利になったね。こうやって、相手の顔を見ながら、離れた駐屯地にいるトシにぃとWeb通話が手軽に出来るなんて」


「若いくせに、将官のジジイ連中と同じようなこと言ってるなお前は」


「おや、今のは上官への不敬発言ですよ小箱利彦中佐。これは懲罰動議案件ですかね~」

「そういう笑えないパワハラジョークをぶち込んでくるのも、将官のジジイ共とそっくりだ」


 トシにぃには、やっぱり敵わないな。

 参謀本部でビクビクしながら接してくる、他の佐官も見習ってもらいたいもんだ。


「用件に入る前に、一つ確認なんだが祐輔」

「なに? トシにぃ」


「お前の後方で、涙目ふくれっ面で映ってる女の子は何だ?」


 ま、そりゃ気になるよね。


 Webカメラが映す自局側の映像越しに、後ろに正座している琴美に視線を向ける。

 琴美は、今にも憤死しそうな真っ赤な顔でプルプル身体を震わせている。

 トイレでも我慢しているのだろうか?


「同級生の琴美だよ。Webカメラの設定や接続の方法を俺に教えてくれたんだ。Web会議通話なんで初めてだし、俺、こういう機械関係の事は本当に苦手だからさ」


「そうか……よく解らんが、お前、後でその子にちゃんと謝っておけよ」


「なんで⁉」


 意味もなく謝るのは良くない教育の仕方だと思います、先生!


「それで、用件はなんだ?」


「うん、ちょっとお願い事なんだけどさ。当時の、10歳くらいの頃の俺の写真って、トシにぃ持ってない?」


「探せばあると思うが……何に使うんだ?」


「切り札として手元に持っておきたくてさ」

「お前の学園では軍人のブロマイドカードゲームでも流行ってるのか?」


 ちょっとね。

 速水さんに対してお願いする時に、色々使えるかなって思ってね。


「俺が映ってる奴なら何でも良いから、手当たり次第に送ってよ」

「ん、解った。後で探しておく。用件がそれだけなら、もう切るぞ」


「え~! せっかくのWeb通話なんだから、もっと喋ろうよトシにぃ~」


「学生のお前と違って俺は忙しいんだ。じゃあな」


 ポロンッ♪ と軽快な音と共に、トシにぃからの通話が切れた。


 相変わらずのいけずな塩対応だな。

 まぁ、なんやかんや、俺の願いは聞き届けてくれるから優しいんだよな、トシにぃは。


「ふぅ、無事にお願いできた。あ、琴美ありがとうね。無事にトシにぃとWeb通話出来るようになったよ」


 ヘッドセットを外して、後方に何故か正座で座っていた琴美に声を掛ける。


「謝って……」


「え?」


「私に謝って! 謝りなさい、ユウ‼ じゃないと許してあげない‼」


 涙目でフー!フー! 言いながら、興奮したように怒っている琴美は、まるで頭上から湯気が出ているのではと幻視されるほど、何故か怒っていた。


「えっと……ごめんなさい?」


 琴美の気迫に押されて訳も分からず謝ったが、


「もっと、心をこめて謝りなさい! 大体、あなた何で自分が謝らなきゃいけないかすら解ってないでしょ!」


 う、バレてる……


 でも、確かに、わざわざ俺の家まで来てくれてWeb通話の設定をしてくれた琴美の親切に対して、これはあまりに不誠実というものだ。


「ご、ごめん琴美。俺、なんで琴美が怒ってるか解らなくて……説明してくれる?」


「そ、それは……///」


 琴美が、急速に怒りの勢いを失くして、モジモジしだす。


「俺、世事に色々疎い所があるから、事細かに教えて欲しい」

「わ、私の口から言えるわけないでしょ!」


 う~ん。

 簡単に答えは教えてはくれないのか。


 でも、このままだと事態は解決しない。

 それならば……


「じゃあ、もう一回トシにぃにWeb通話で、琴美のことを状況を事細かに説明した上で質問してみようかな。えっと、この相手方連絡先を選んで……」


「ぎゃぁぁぁああああ‼ 止めて! 止めて! カメラ止めろ! ユウ‼」


「ちょ! 家の中で、スタンガス出すのはマズいって琴美!」


 結局、その後、琴美のバタバタを抑えるのに苦労した。


 最終的には、



「お詫びに、この縫いぐるみあげるから!」


 と、苦し紛れに、俺が子供の頃から抱き枕がわりに使っていた、電気ネズミの縫いぐるみを琴美に渡したら、



「ハァ~~落ち着く……」



と、何故か急速に琴美の機嫌が良くなった。


 その縫いぐるみ、長年使ってるから臭いとかついちゃってると思うんだけど、良いのだろうか?


 やっぱり女の子は縫いぐるみとか、可愛い物をあげると喜ぶんだな。


 今度、女性にモテないトシにぃに、Web通話する時に教えてあげよう。


「けど、この縫いぐるみ虎咆先輩の匂いもする……」


 それは知らん。


 とくにミーナがこの縫いぐるみを触っているのは見たことが無いんだけど、俺が不在時に縫いぐるみで何かしていたのだろうか?


 その後、匂い付けのためと言う名目で、琴美に縫いぐるみを抱いて小一時間ほどいるように命じられた。


 誰得なんだ……


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