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第32話 周防先輩の憂鬱

【周防 大樹視点】


「周防先輩、学食行きましょ~」


 最近、俺は妙な後輩に懐かれている。


 上級生のフロアに何の躊躇や遠慮もなく入ってこれる後輩の神谷は、すっかり1学年の有名人だ。


「いつもは虎咆や火之浦と食べてるんじゃないのか?」

「ミーナと琴美は、部室でVR? ゴーグル? とか何とかいう物で部室で遊んでる現場を速水先生に抑えられて、お説教食らってる。


「なにやってるんだ、あいつらは……」


 あれでも、学年を代表する実力者だと言うのに。


 特に虎咆は、1学年の頃は近寄りがたいオーラを纏い、群れることを嫌う孤高の存在という感じだったのに、今やそのイメージは見る影もない。


ただ、「ユウくんユウくん」と後輩男子の尻を追いかけている様を見て、女子生徒からの印象は寧ろ向上したようだ。


なお、同期生で密かに虎咆に恋心を抱いていた野郎たちは、休日に同志たちで集まって食べ放題のビュッフェレストランでやけ食いをしたそうだ。

育ち盛りが大挙して押し寄せて、ほとんどのメニューを品薄状態に陥らせたらしいので、ビュッフェレストランが最大の被害者かもしれない。


「わ、周防先輩を呼びに行っていたから、学食混んじゃってますね」


 学食のカウンターで日替わり定食を頼んで精算が終わり、トレイを持って見渡すが、パッと見て空いてる席が見当たらない。


「分散して個々で食べるか?」

「それじゃ、つまんないでしょ」


 先輩の俺の提案を即座に否定する神谷だが、こんな態度が許されているのは、俺がコイツとの決闘に負けて隷下にあるからだ。


 とは言え、何か無茶な要求や小間使いをさせられたりと言うことは無い。

 せいぜい、生徒会との決闘の際に景品にされた位だ。


 うん……前言撤回だ。やっぱりこいつは酷い奴だ。


「あ! あそこなら対角線上だけど2席空いてる。あそこにしましょうか、周防先輩」

「わかったよ」


 そういう訳でどの道、断れる立場にない俺は、素直に神谷に従う。


 と、俺と神谷が着席する前に、空いた席のテーブルにトレイを置くと、周囲の生徒たちがサササッ! と手早く自身のトレイを持って席を立って行ってしまった。


 まだ、トレイの上には食べかけのおかずやご飯が残っていたのにも関わらずだ。


「席……空いたな」


 これなら、普通に対面で神谷と座れる。


「ねぇ、周防先輩……」

「なんだ?」


「先輩って嫌われてるんですね」

「今のは、俺じゃなくてお前に恐れをなしたからだと思うが」


「またまた~ え、違うよね? ねぇ違うって言ってよ先輩」


 俺は、切ない顔で、自分の中で何かを全力で否定しようとしている後輩の事は放っておいて空いた席に着席する。


 不思議なもんだ。


 民間派閥として、期待を一身に受けていた時は、周りに多くの取り巻きがいた。

 そんな俺が、衆目の面前で下級生にいいようにやられたせいで、俺は学園内での立場を失くし、それに伴い、民間派閥が俺を見限った。


 潮が引くよりも早く俺の周囲から人がいなくなる中、何故か寄って来たのが、この状況に俺を陥れた元凶の神谷だった。


 それに付随するように、2学年の筆頭である虎咆と1学年の首席入学で生徒会メンバーの火之浦といった、学園でも指折りの実力者と絡む機会が多くなった。


 そして、神谷は、おそらく相当な修羅場をくぐった実力者であることは、一緒に行動を共にすることですぐに解った。


 俺の自尊心はボロボロだったが、それでも喉元を過ぎてみれば、この出会いにはむしろ感謝をしたいほどだ。


 民間派閥の後ろ盾の力で肩で風を切っていた時には無い、充足感を最近感じる。


 民間派閥の寵愛を受けていれば、学園を卒業した後も上々の人生が約束されていた訳だが、どういう訳か当時の俺はイライラカリカリしていた。不思議なものだ。


「重荷だったのかな……」

「周防先輩、日替わり定食食べながら、なに恋愛に疲れたOLみたいなこと言ってるの?」


「そういうお前は、立ち直りが早くてうらやましいよ」


 さっきまで、あからさまに他の生徒の避けられてしまった事で凹んでいた癖に、もう立ち直って定食をパクついている。


「早く食べて、部室で昼寝したいしね。周防先輩も来る? 畳で雑魚寝だけど」

「部員じゃないのに使えるのか?」


「部長の俺がOKだからOKだよ」

「お前は、何というか本当に自由で羨ましいな」


 皮肉めいた言い方だが、これは本心でもあった。


(ブルルルッ!)


 制服の上着のポケットに入ったスマホが鳴動したので、箸を置き、取り出したスマホの画面に表示された電話の主を見ると、一気に心拍数が上がった。


「悪い、先に行く」


 俺はまだ半分以上残っている日替わり定食の乗ったトレイを持って、足早に席を立った。


「ちょっと周防先輩⁉ これだと俺が正真正銘のボッチみたいなんだけど!」


 神谷の悲痛な声を背後に聞きながら、俺はほとんど駆け足のような早足で学食を後にして、人気のない物陰でスマホの通話ボタンを押す。


「はい……」


「俺だ。いつもの場所に来い」


 名乗りや都合伺いもせずに一方的に自分の用件だけを述べた電話の主は、こちらの返事も聞かぬ間に切電した。



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