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第31話 青春してる!(なお学園特有)

「ほら、ジャンジャン焼くからジャンジャン食べろよユウちゃん」


「ありがとうございます」


 俺は焼きたてのお肉がてんこ盛りに載せられた紙皿を、ミーナのお父さんの悟志さんから受け取った。


 ゴールデンウイーク初日のよく晴れた日。

 今日は虎咆家の庭でバーベキューをしている。


 悟志さんは前日から張り切って、色々と準備してくれたようだ。


「はい、ユウくん。タレは中辛でいい?」

「うん、ありがとうミーナ」


「ユウ様、ジュースおつぎします」

「速水先生……ミーナの両親には俺の素性は明かしてないんで、振る舞い方だけは先生と生徒バージョンでお願いします」


「ユウ。はい手しぼり。食べる前にちゃんと手を拭かないと駄目なんだからね」

「ありがと琴美。って、3人共、上司への接待みたいな事しなくていいから……あと、近い」


 俺の周りで甲斐甲斐しく世話を焼いてくる3人が、俺の席の両隣と前面にいて、正直ちょっと暑苦しい。


「モテモテだな、神谷は」

「周防先輩、呑気に食べてないで助けてよ」


「ユウちゃんも周防君もやっぱり男の子ね。よく食べるから焼き甲斐があるな~ たんと食べて行ってね」

「うっす。いただきます」


 トングを片手にミーナの母親のミリアさんも嬉しそうな顔で、忙しくしている。

 大人って、なんで子供がたくさん食べると嬉しそうな顔をするんだろう?不思議だ。


「なんで、アンタが我が家のバーベキューに参加してんのよ」


 ミーナがジト目で睨むが、周防先輩は素知らぬ顔で肉を頬張っている。


「午後に神谷と模擬戦をする予定で、暇なら来いと誘われたんだよ」

「ユウ君と模擬戦⁉ 幼馴染の私が、まだユウ君とやってないんだけど⁉ なんでアンタが先な訳⁉」


 興奮したミーナが周防先輩に掴みかかる。


 そう言えば、前にミーナと模擬戦一緒にやろうかって話してたな。

 度重なる決闘やらで、すっかり忘れていた。


「胸倉掴むと食べれないだろ虎咆」

「周防先輩、どういう風の吹き回しです? 後輩のユウに教えを請うなんて、プライドの塊の貴方らしくもない。何かあったんですか?」


 キレ散らかすミーナに対し、琴美は解せないという風に、周防先輩に質問を投げかける。


「別に……ただ、先日の社会科見学で、もっと強くならなきゃなと思っただけだ」

「周防先輩、派閥から見捨てられちゃったから、強くなるしかないもんね」


「茶化すな神谷……けど、今思えば派閥のしがらみから逃れられて却って良かったと思っている」


 遠い目をして感慨深げにつぶやく周防先輩に、すっかり毒気を抜かれたミーナは、バツが悪そうに周防先輩の胸倉から手を離した。


「ホント、俺に指導()してきた頃より穏やかになりましたよね、周防先輩は。今は動物園のイケメンゴリラみたいな」

「舎弟を連れて猿山の大将気取りで私に絡んできた周防先輩が懐かしいです」


「お前ら、どうにかして俺をキレさせようとするゲームでもやってるのか」


 この間の、社会科見学では学園の生徒も色々と考える所があったようだ。


 今よりもっと強くなりたいって思う真っすぐな気持ちは本物だったから、俺も周防先輩の模擬戦の申し出を快諾したんだよな。


「そういえば、一番意外な周防君がいたせいでスルーしてたけど、なんで速水先生や火之浦さんまでシレッと混じってるのよ」


「私は軍務上、出来る限り神谷君と一緒に居る必要があるので」

「私はバーベキューの良い匂いに誘われて」


 ミーナのジトッとした視線を向けられても、2人は素知らぬ顔だ。


 別に休日まで速水さんと一緒にいる義務はなくて、できるだけ近くにいるようにという努力目標でしかないんだけどな。そこら辺、速水さんは完全に解釈違いだから、今度教えないと。


 あと、琴美は毒の生成気流操作の魂装能力のせいなのか、異様に鼻が利くらしい。しかし、その辺の焼肉屋さんと、どう判別をつけてピンポイントで虎咆家へ辿り着いたのだろうか? 疑問だ。


「ちっ! うっかりジュースと間違って、ストロング系のお酒を飲んで、へべれけになった体でユウくんに襲いかかる計画が台無しよ」


「ミーナ。最近は、未成年のそういうの、本当にシャレにならないご時世らしいから、本当に止めてね」


 子供を戦場に送り込んだりした癖に、こういうよく解らない部分で法令遵守の精神を発揮するとか、この国は本当にねじれている。


「あ~、腹いっぱい」


 たらふくお肉を食べた俺は、虎咆家の縁側のウッドデッキに寝そべって天を仰ぎ見る。空が青い。


「神谷、そろそろ出発の時間だぞ」

「え~、このまま昼寝したい……」


「実習エリアの予約時間が決まってるんだから、もう出発しなきゃダメだ」

「仕方ないな~」


 周防先輩にけつを叩かれ、俺はウッドデッキから重い腰を上げて起き上がる。


「え、もうユウ君たち行くの⁉ 私も行きた! んぐっ……」


 ミーナが慌てて肉を飲み込もうとして、のどに詰まらせて、苦しそうに胸元を叩いている。


「虎咆、そもそも実習エリアの利用人数は2名で予約してるから、当日の人数追加は事故のもとだから変更できないぞ」


「そ、そんな……」


「周防先輩……こっそりと抜け目ない事を……やはり、絡まれた時に1ケ月くらい入院するクラスの毒を吸わせておくべきだった……」


 周防先輩の指摘にミーナは絶望の表情をして、琴美は何やら物騒な事を口走っている。


「フッフッフ。その点については、心配いりませんよ。教官の私がついていれば、人数の変更も可能です」


「……速水先生も一緒に来る訳ね」

「ルールですから♪」


「背に腹は代えられません。従いましょう、虎咆先輩」


 悩ましそうに考え込んだミーナを、琴美が諭す。


「こっちはまだ、一緒に実習エリアを使っていいなんて一言も言ってないんだが……」

「ま、いいじゃん周防先輩。みんな一緒の方が、色々楽しそうだし。じゃあ、学園へ出発する前に片付けはじめ!」


 時間も無いしなので、俺たちは迅速にバーベキューの後片付けを始めた。

 網を洗ったり、炭の処理をしたり、結構大変だ。


 俺たちの世話を焼いてくれていた悟志さんとミリアさんは、ようやく自分たちの分のお肉を小さな炭焼きコンロで焼いて食べ始めたところだった。


 2人の焼いているお肉の方が、明らかに俺たちがバクバク食っていた肉より上等そうなお肉だったので、大人は案外ちゃっかりしてるよなと横目で見て思った。




◇◇◇◆◇◇◇




「はぁ……ぜぇ……はぁ……」


 窓もなく遮音性抜群の演習エリアに、荒い息遣いだけが聞こえる。


「よし、今日はもう終わりにしようか」


 俺は一足先に、演習エリア外に出ると、ベンチに置いてあるスポーツタオルとスポーツドリンクのボトルを抱えて、皆の所に戻って一人一人に手渡した。


「あ……ありがと、ユウくん……」

「くそ……3人がかりでも駄目か……全然余裕そうな顔しやがって」

「終盤、攻撃の手数が急に増えて対処しきれなかった……」


 ミーナと周防先輩、琴美は力を使い切ったという様子で、その場にへたり込んで頭を垂れていた。


 先程は、3対1で模擬戦闘をやったのだ。


「3人共、最後の方は上手く連携してたじゃない」


 スポーツドリンクより塩飴派の俺は、口の中で塩飴をコロコロ転がせながら、先ほどの模擬戦の感想を述べた。


「不本意だけど、連携しないと3対1でも勝てないって、模擬戦が始まってすぐに解ったからね」


「そうだね。ミーナの音響爆弾攻撃と琴美の毒霧で中距離戦闘は厚い布陣だし、接近されると弱いミーナと琴美を、近接戦闘タイプの周防先輩が上手くカバーしてて良い形ができてたよ」


「それでも、ユウくんに距離を取られて銃座の数を増やされたら、あっという間に処理しきれなくなった」

「そもそも、この3人だと遠距離攻撃の術が無いからね。そこは、銃を持つ一般兵と連携すれば良いんだよ」


 魂装能力者だからと言って、全員が万能選手になる必要はない。

 むしろ、個性の強い能力の方が、色々作戦にも幅が出来てありがたいし、相手の意表もつける。


 そういう意味でも、周りとの連携と言うのは重要だ。


「なるほど。ユウも銃を生成する能力なら、接近されれば弱いはず」

「そのためには、琴美の毒やスタンガスで味方を防御しつつ、俺の動ける範囲を限定できれば、詰めろをかける周防先輩がやりやすくなるね」


「鍵は俺か。ただ、さっきの戦闘を考えると、虎咆と火之浦を残して攻めに出るのは、かなりタイミングが難しいな」

「もう1枚、盾役がいればミーナや琴美の守備は任せられるから、周防先輩は動きやすくなるよね」



「「「……盾役か……」」」



 ミーナと琴美と周防先輩は、盾役と聞いて、ある特定の……具体的には、生徒会の某副会長の顔を思い浮かべているのだろう。

 一様に苦い顔をしている。


「一休みしたら、もう一戦やる?」


「私、まだ無理……」

「私も……」


 ミーナと琴美は、さっきの模擬戦中はそれぞれ音響爆弾にスタンガス生成と、常に術式を連発してたから、まだガス欠から回復できていないようだ。


 そんな中、


「俺はやる」


「大丈夫? 周防先輩、無理は禁物だよ」

「さっきの模擬戦じゃ、結局お前に近づくことも出来なかったからな。余力はある」


「じゃあ、一騎打ちだね。やろうか周防先輩」

「望むところだ」


「速水先生。ステージ設定は、周防先輩が決闘で俺に瞬殺された時のノーマルフィールドでお願いします」


「はいはい。男の子はやっぱり元気ですね」


 速水さんが演習場の端末を操作して設定を変える。


「お前は、なんでそう、人の古傷を抉るような真似を……」

「精神攻撃は戦闘において基本ですよ先輩」


「今回は本気だからな」

「本気の周防先輩と戦えるの、何気に楽しみっすよ」


 これは、別にお世辞じゃなくて、俺の本心から出た言葉だった。


 こういう風に高め合うって、なんだか青春って感じだ。


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