第3話 今さら学園に行け⁉
正装の軍服フル装備で売店に行くと、売店の売り子のおばちゃんに大層驚かれた。
「あら、今日は随分と仰々しい格好だわね」
「試しに着てみたんだ。そんなことより、おばちゃん、俺のリクエストしたお菓子まだ入荷しない?」
「こっそり少量だけど発注しといたわよ」
「やった! ありがと、おばちゃん!」
売店にあるお菓子はよく言えば王道、悪く言えばありきたりなラインナップなので、リクエストを出していたのだ。
お菓子メーカーのホームページを見比べて、仕事の時より真剣に比較検討した。
俺はルンルン気分で、チョコレート菓子を買い物かごに山と放り込み、会計をする。
軍服のバッチリ正装している奴が、嬉々として売店でお菓子を買っている様は、周囲には中々にシュールな光景として映ったようで、チラチラとこちらを窺い見る視線を感じたが、俺はそんなことは意に介さずに、買い物袋いっぱいのチョコ菓子を持って満面の笑みで、自分の執務室へ戻っていった。
◇◇◇◆◇◇◇
翌朝
徒歩0分の出勤時間なのを良い事に惰眠を貪っていた俺は、登庁時間ギリギリに自分の執務室に入った。
今日は、連日続いた作戦行動もない予定だ。
他に割り当てられた業務がある訳でもないので、執務室でヒマを持て余すことになる。
あまりにヒマ疲れするようなら、午後は有給休暇でも取得しようかしら?
日本に帰ってきてから、ようやく実在する休暇制度であると知った、有給休暇をさっそく使ってみようと、登庁時から休むことを考えながら、俺は執務室のドアを開けた。
「おはよう速水さん」
「おはようございます神谷少将。朝一なのですが、元帥がお呼びです」
「元帥が? 朝っぱらから何の用だろ。今日は作戦行動は無いって言ってたし……」
緊急の救援活動が必要になったなら、夜中だろうが叩き起こされているだろうから、用件はそちら絡みではないよな。
とすると……
「ひょっとしたら、しばらく休暇と外出許可でも出るとかいう話かな」
「それだと良いですね」
「速水さんと外でスイーツを食べる約束が果たせそうだね」
「覚えていてくださったんですか⁉」
感激! と言った感じで、速水さんが顔を紅潮させている。
そういえば、昨日の体調不良はもういいのだろうか?
「副官は連れずに単独で来室するようにとのことでしたので」
「わかった。じゃあ、行ってきます」
俺は、軽やかに元帥の部屋へ向かった。
ノックの後に、俺は元帥の部屋へ入室した。
元帥の執務室は、俺の執務室より更に広い部屋だが、今は、何人もの高官が集まっていて狭苦しく感じた。
はて? 会議でも開かれていたのか?
「皆さん、おはようございま……す?」
思わず尻すぼみの挨拶になってしまったのは、明らかに寝不足の目で、こっちを睨む高官たちの視線が俺に集中したからだった。
「神谷少将、おはよう」
執務机に座り手を組んでいる橘元帥も何だかやつれているようだ。
「おはようございます。皆さんお疲れのようですね。二日酔いですか?
皆さん、昨日までは各所の戦地での快勝に、勝鬨をあげていたというのに。
さては、連日の祝勝会で酒を飲み過ぎて二日酔いなんだなと俺は思い至った。
皆さんも有給休暇とってはいかが?
「朝一で呼び出したのは他でもない。君の素性がマスコミにバレかけた」
「はい⁉」
思いもかけぬ話に、俺はつい素っ頓狂な声を上げた。
「マスコミの対応と今後の方針について協議をしていたので、昨夜は皆、寝ずに対応していたんだよ」
周りからの怒気を代弁するように、元帥がポツリと言った。
二日酔いとか言ってすいませんでした。
「我が国に特異な魂装能力を持つ少年兵がいるというのは、世間で実しやかに語られていたことだ」
「へぇ、そうなんですね」
「軍では、あえてそれを放置し、少年兵の存在は所詮は都市伝説という風に、上手く世論を誘導することに成功していた」
「マジで10歳の子供を戦場の最前線に送り込んでたなんて、世に知れたら大ごとでしょうね」
「この国の政権が転覆することになるかもな。軍部のトップもタダでは済まない」
「なるほど」
俺の存在は、お偉いさんにとって、安全ピンの外れた手りゅう弾みたいな存在だったのか。
と、当事者だし自分自身も軍の高官なのに、俺は他人事のように考えていた。
実際、俺は被害者みたいなもんだし。
「しかし、なんで今になって俺のことがバレたんです?」
やっぱり久しぶりに帰国したのがマズかったのか?
しかし、統合幕僚本部の建物の中に缶詰めにされていたんだから、早々バレるとは思えないんだが。
「神谷少将。先日は、大変目立つ格好で庁舎内の売店で買い物をしていたそうじゃないか」
周りにいる、高官のおっさんが恨めし気に言った。
あ~、なるほど。バレたのは俺のせいなのね。
「子供が軍服を着て統合幕僚本部内を闊歩しているとの情報がマスコミにリークされたようでな。まったく……マスコミを握りつぶすのにかなりのリソースを費やす羽目になった」
国って怖いな。
日本も、この戦国乱世の世の中になって、否応なく情報統制やらの能力はブラシュアップされたようだ。
「それで、これからの今後の方針だが」
「なんです? また、どこかの戦場に送り込むんですか?」
俺の目は、おそらくハイライトが消えたようになっているだろう。
最近は少し忘れかけていた、諦念がまた頭を覗かせる。
「いや。超長距離リモート飽和爆撃作戦の戦果は凄まじい物だった。これをみすみす凍結するのは、それこそ我が国の多大な損失となる」
それは確かにそうだろうな。
日本にこいういう切り札があると各国に示したのだ。
この力を封印することは、敵国を利することにしかならない。
そして、俺も今更、日本での快適な暮らしを手放す気はない!
「じゃあ、どうするんです? この建物に成人するまで閉じ込めるんですか? いつかストレスで爆発して私の方からマスコミに自分を売り込んでしまいそうですね」
俺の半生を描いた暴露本とか出したら、そこそこ売れるんじゃなかろうか。
「そう言うと思って妙案を思いついた」
「はぁ……」
「要は、君が未成年で軍の中枢に出入りしているのがマズい訳だ」
「未成年で軍の中をウロウロしているのは、別に俺がそうしたいからなわけじゃないですけどね」
「そこでだ。未成年がいても目立たない場所に君を配置すれば良い訳だ」
「未成年が目立たない場所?」
「学校だよ」
「まぁ、そうですね。俺の歳の頃の人は、高校に通いますからね」
「君には、軍が創立した特務魂装学園へ通ってもらう」
「おお…… 世間の目を欺くために学校へ通えという訳ですか」
「そうだ。神谷少将には今さら学校になんてと思うかもしれないがな」
「いえ、そこは大丈夫です。またどこかの戦場に行かされるよりは断然マシです」
むしろ、軍に身を置いている身なので、とうの昔に諦めていた学校生活を自分もおくれるんだという事が、内心嬉しかった。
「特務魂装学園は軍が100%出資した学校法人だからな。いずれ、超長距離リモート飽和爆撃作戦が学園にいながらにして作戦行動ができるように整える方針だ」
「あ、そこはちゃんと働かせる気なんですね」
まぁ、ちょっと物騒なバイトしてる高校生みたいなもんか。
「それでは神谷少将。君を特務魂装学園へ配置とする。入学式までは、準備期間として休暇を申し渡す。以上。というか、またこの建物内を君がウロウロとしているのを見られたら事なので、すぐに離脱すること」
建物内から出るなと指示されていたと思ったら、一夜にして真逆の指示である。
「ハッ! 拝命いたしました」
しかし、朝令暮改は大した問題ではない。
ともかく、ようやく外出できるし、学校生活というものに俺はワクワクしていた。
次話あたりからラブコメ展開が始まりますかね。
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