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第29話 軍幼年学校とのバチバチ

「え~、合同で行軍⁉」

「ウソでしょ⁉」


 軍の幼年学校と特務魂装学園の交流会の会場であるホールに集められた俺たちの前で、開口一番、壇上の教官から告げられたこれからの予定に、学園の生徒たちから戸惑いを隠せなかった。


 交流会と聞いていたから、てっきりホールで茶菓子でもつまみながら談笑するものだと思っていたのだが。


「ふん……学園の奴らは観光目的でここに来たのか」


 シワ一つない戦闘服姿でビシッと整列している幼年学校生徒の列から、蔑みの声がボソッと上がった。


「あ⁉ んだと、ごら!」


 学園の沸点の低い男子生徒が、幼年学校の生徒の列に詰め寄ってくる。


「はいはい、止めましょうね~。血気盛んなんだからも~」


 俺は即座に、挑発に全力で乗っている先輩を後ろから羽交い絞めにする。


「んだ! てめぇ! 1年のくせにナマイ……」


 と、激高して俺に怒りを向けようと振り返るが、俺の方を見て黙る。

俺が、最近学園内で暴れ回っていると評判の1学年である事と、制服の上からつけた『風紀』の腕章に気付いたからだろう。


 風紀の腕章は、先日、生徒会の土門会長から渡されたものだ。


 かつてあった風紀委員のトレードマークで、学園内では恐怖の対象らしい。


 話に聞くと、かなり派手に学園内で取り締まりを行っていたのだが、内部腐敗が酷かったらしく取り潰しになった。


 なので1学年はいまいちピンときていない様子だが、 2、3学年は当時の記憶が呼び覚まされたのか、急速に勢いが弱まった。


「先ほどの、学園の皆様への暴言失礼した! 学生隊学生長として謝罪する! 幼年学校総員肩回し! 腰回し! 腕立て伏せの体勢を取れ! 1!」


 幼年学校の代表と思しき、精悍でよく日に焼けた顔をした男子生徒が、張り上げるような声で謝罪をした後に号令をかけると、幼年学校の総員が一糸乱れず素早い動きでストレッチの末、腕立て伏せを始める。


 軍隊名物、連帯責任である。


 特務魂装学園も一応、軍の所属の学校だが、民間資本も入っている関係か概して緩い。


 学園の生徒は、異様なものを見るような目で、腕立て伏せをしている幼年学校の集団を眺めていた。


「いや。こちらも、お見苦しい場面をお見せした。謝罪を受け入れます」


 腕立ての回数がちょうど50回になったところで、土門会長が謝罪を受け入れる旨を述べた。

 すると、幼年学校の学生長が「腕立て止め! なおれ!」と号令を出すと、またもザッ! ザッ!と小気味良い所作の音の後、幼年学校生徒たちが整列した。


 おそらく、先ほど幼年学校側から暴言が飛び出したのは、仕込みだな。

 土門会長にも事前に幼年学校の学生長辺りから、根回しもあったのだろう。


 いわば、自分たちがどういう集団なのかを、学園側の生徒たちに見せつけるためのデモンストレーションだ。

 双方の教官側が何も口を出さなかったのがその証左だ。


「それでは行軍の班分けについて説明する。総員傾注!」


「さて、この行軍も何か意図があってのことなんだろうけど、他にも何を企んでんだかね……トシにぃは」


 俺は、壇上で、今回の交流会の責任者として、内容を説明するトシにぃの方を眺めながら独り呟いた。




◇◇◇◆◇◇◇




「へぇ~、幼年学校のすぐ近くにこんな山があるんですね」


 俺は今、幼年学校敷地の裏手にある小高い山の中を、先ほど分れた班ごとに歩いていた。


「遅れんなよ魂装持ち」


 班の先頭を歩く、幼年学校の生徒がこちらを振り返り眉間にシワを寄せながら後方を歩く俺たちの方を侮蔑のこもった目で見ながら、指示とも言えぬ指示を出してくる。


「魂装持ちじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでください、上等兵。指示命令の対象が俺なのか、虎咆上等兵なのか、或いは2人共なのか、作戦行動に支障をきたす恐れがあるので訂正してください」

「階級が下の者が生意気を……」


「加賀見、彼の言っている事は正しいぞ。きちんと訂正・指示しろ」

「矢野兵長……わかりました。訂正、落伍せずついて来いよ、虎咆上等兵、神谷二等兵」


 4人班の最後方にいる幼年学校3学年の矢野兵長から言われて、幼年学校2学年の加賀見上等兵は渋々と言った様子でこちらに、指示を言い直す。


「了解! って、ミーナ大丈夫?」

「はひ……大丈夫」


 大丈夫じゃなさそうだな。


 班は学年混合で、ミーナは偶然俺と一緒の班になって凄く喜んでいた。

何故か歯ぎしりして悔しがる琴美にマウントを仕掛けて、また速水さんに怒られてとスタート前ははしゃいでいたのだが、今は見る影もない。


 山に入って30分程度が経過したが、重い背嚢を背負って歩きづらい山道を歩くのは思った以上に体力を消耗する。


「ちょっと行軍のペースを緩めてもらえます?」

「これが、俺たちの標準的な行軍ペースなんだがな。おまけに俺たち幼年学校生徒は、背嚢に加えて小銃も装備してるんだからな」


 俺の要望に対し、ニチャリと小馬鹿にしたような笑みを浮かべる加賀見は、実際にやせ我慢をしている様子ではなく、息もほとんど上がっていない


「加賀見、今はお前がこの行軍の隊長だろうが。部下にマウンティングするのが、隊長としてあるべき姿か?」


「し……失礼しました」


 後方から、矢野兵長のドスの効いた声が飛んできて、先ほどまで調子に乗っていた加賀見が意気消沈する。


 この矢野兵長は、先ほどから的確に物事を見てるな。

 やっぱり最終学年ともなると、面構えも意識も違う。


「ほら、虎咆上等兵。背嚢はこちらで預かるから渡せ」

「そんな……ぜぇ……いえ……このまま自分で」


 ミーナが息を上げながら、矢野兵長の申し出を断ろうとするが、このままではより行軍スピードが落ちる。


「俺と矢野兵長で持つから大丈夫だよ、ミーナ渡して。行軍のスピードアップにも必要だから」

「うん……すいません」


 一応、規定時間までにゴールに辿り着かなくてはならないので、必要な事だとミーナも思い至ったのか、素直に背嚢を下ろして渡す。


「まだ先は長いぞ、神谷二等兵。女性の前で、格好をつけたいからという動機では後悔すると思うが?」


「鍛えてるんで大丈夫です」


 ミーナの背嚢のショルダーハーネスを、俺と矢野兵長で片方ずつ持ち合い、行軍は進む。

 各国のジャングルを渡り歩いた俺の力をなめるなよ。


とはいえ、行軍のペースも上がったので、正直ちょっときつい。

 ミーナが身軽になったことで、行軍スピードは先ほどより上がっている。


 日本に戻ってからというもの、速水さんの転移の力で移動に全然体力を使わなくなったから、身体がなまってしまっているのかもしれない。


『最近は、戦場に呼ばれる頻度も下がりましたね』

『コン。今は、ただの行軍訓練だから、お前の出番はないぞ』


 行軍で息が上がり過ぎないように調整しつつ、俺は急に内心に語り掛けてきたコンへ、おざなりな返答をする。


『そんな事言ってていんですか? 前方に軍事オートマター 四つ足2メートル級が1機接近中ですよ』



「は⁉」



 俺は、思わずコンとの内心での会話中なのに、声に出して驚きの声を上げてしまった。


「急にどうした?」


 怪訝な顔で俺の方を見る皆に対し、


「各員戦闘準備! 前方、敵兵力! 数は1!」


 俺は声を張り上げた。

 さすがは、幼年学校の2人は軍事教練で身体に沁みついた動きで、即座に前方に小銃を構える。


「軍事オートマターだと⁉」


 前方の林から姿を現したのは、コンの言う通り、四つ足でタコのような形状をした軍用オートマターだ。


 プログラムされた範囲を徘徊し、内蔵バッテリーが切れるまで敵を追い詰め続ける、ジャングルで行軍中に会いたくない奴ナンバーワンだ。


「あの、念のため聞きますけど、このオートマターって、そちらの幼年学校で飼ってるとかじゃないですよね?」


「こんな条約違反の代物が幼年学校にあってたまるか!」


 念のため確認したけど、そうだよな。

 一応、現在は国際条約違反の過去の遺物だからな。


 国際条約締結前に、アホな上層部が安価で市場に放出したせいで、ジャングルを根城にするゲリラに大量に流れたという、現場の兵士にとっては、上層部への殺意がマシマシになること請け合いの逸品だ。


「クソッ! 行軍訓練だから弾なんてねぇぞ!」


 加賀見上等兵が、悲鳴のような声を上げる。

 とは言え、例え実弾があったとしても歩兵の小銃では、このオートマターへは対抗できないだろう。


「非常時により、訓練を現時点で中止。指揮権は、この場で一番上席の俺が引き継ぐ」


 矢野兵長は流石、最上級生なので冷静に対応を進める。


「加賀見。銃剣を着剣しろ」

「矢野兵長……それって……」


 絶望に歪んだしわくちゃな顔で、加賀見上等兵が矢野兵長の方を見る。


「加賀見、いつも言われている事だろう。国のために、為すべきことを為せ。国のためには、魂装能力者の命は、我々の命を捨て石にしてでも護らなくてはならない」

「はいっ! 銃剣、着剣!」


 悲壮な決意を帯びた指揮官の顔で矢野兵長が命じると、加賀見上等兵は半べそをかきながら腰につけた小銃に銃剣を着剣する。


「俺と加賀見で時間を稼ぐ。神谷二等兵は、虎咆上等兵を連れて逃げろ!」


「あ、あの……矢野兵長」


「早くしろ! 俺たちは勇敢に盾となって戦ったと教官殿に伝えておいてくれ」

「ちくしょう……俺、まだ女と付き合った事ないのに……」


 血走った目で指示をする矢野兵長と、今世の心残りを口にしつつ小銃を握りしめて突撃しようとする加賀見上等兵は、正に人生の最期の灯火を燃やさんとしている極限状態の真っ最中だ。


 こりゃ駄目だ。

盛り上がりすぎて、2人とも冷静に説明を聞いてくれる状態じゃないな。


「ミーナやっちゃって」


「ガオオオオォォォオオお‼」


 ミーナの口元から、大音響の虎咆がオートマターに叩きつけられると、タコ型のそれはタコのから揚げ大の大きさにぶつ切りになって吹き飛んでいった。


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