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第28話 憧れの兄貴分との再会

 昼食の後、俺はトシにぃと2人きりで話せる場所を求めて、食堂のある建物の屋上へ来ていた。


 無論『トシにぃ』は愛称で、フルネームはばこ としあきだが、俺はずっとトシにぃと呼んでいる。


「ねぇねぇトシにぃ! いつから、この駐屯地なの? 最後に会った時は、たしか北極圏での作戦時だったっけ?」

「どうだったかな。忘れた」


 トシにぃは、煙草をくゆらせながら俺の問いに適当に答える。


 けんもほろろな態度だが、トシにぃのこの態度はいつもの事なので、俺は全く気にしない。

 むしろ、この塩対応が懐かしくて、涙が出そうだ。


「あの時は大尉だったけど、佐官になったんだ」

「今は中佐だ」


「中佐になったんだ。おめでとうトシにぃ。流石、出世が早いね」

「お前と比べればそうでもないだろ。なにせ少将様……モガッ! 何すんだ」


 俺はトシにぃの口を慌てて塞ぐ。


「それは周りには内緒にしてるから」

「まったく……お前もガキの時分から変わらず大変だな」


 俺がシーッと口元に人差し指を立てると、トシにぃは俺に抑えられた口元を襟で拭う。その様は、不思議な大人の色気があった。


「トシにぃも昔のまんまで安心した」

「その恰好、お前も真っ当に学園で学生やってるんだな。会ったばかりのお前は、戦場で心をすり減らした少年兵の目をしていたが、随分と柔らかい目になった。良かったな」


「もう……ガキ扱いすんなよ」


 トシにぃに頭をガシガシッと乱雑に掴まれて、口では思春期男子らしい反抗の言葉を口にしたが、内心は嬉しくて仕方が無かった。


「あの頃は辛かったな」

「うん……けど、トシにぃのおかげで救われた」


「何度も言っているが、あの時、お前が暴走したのを止めたのは魂装持ちの仲間たちだ。俺は無能力のただの一般兵だから、大して役に立ってない」


「違うよ。あの時、魂装の力を暴走させて戻れないラインを越える直前に、トシにぃの声が聞こえたんだ。だから俺は戻ってこれた。あの時のトシにぃの珍しく必死な言葉、ちゃんと届いてたから」


「言うな、はずかしい……」


 トシにぃは当時の事を思い出したのか、恥ずかしそうに煙草をくわえたままソッポを向く。

 あの言葉は、俺とトシにぃの間だけの特別な思い出だ。


 両親の訃報を戦場で知らされて、魂装能力を暴走させた俺を、トシにぃは命がけで引き戻してくれた。


 だから、今の俺がある。


軍での階級どうこうは関係なく、一生、俺はトシにぃに頭が上がらないだろう。


「え……ちょっとナニコレ。強力なライバル登場?」

「何あの、長年連れ添ってて、数年ぶりに会ったけどお互い解り合ってますって感じ……これ、私たち負け確ヒロインなんじゃ……」

「過去を知る男性の上官キャラ……フィクションなら大好物だけど、いざ自分の恋敵として現れたら全く笑えない……」


 速水さんとミーナ、琴美が屋上の入り口の物陰から、こちらを窺い見ている。何やらブツブツ言っているようだが、距離があってこちらでは聞き取れない。


 みんなやっぱり、トシにぃが格好良くて気になってるんだな。

20代の若さで中佐というエリートだけど、独特な雰囲気もあって、弟分として自信を持ってお薦めする優良物件です。


「みんなにトシにぃを紹介したいんだけど」

「遠慮させてもらう」


「相変わらず、女性は苦手なんだ~ それ早く治さないと、いつまで経っても独身のままだよ?」

「うるせぇ!」


 トシにぃに頭を小突かれた所で、そろそろ集合時刻に近づきつつあることに気付く。

 ミーナたちも、俺に声をかけようかとタイミングをはかっている感じだ。


「あまり部下を待たせるなよ」

「部下じゃないけどね。今の俺はただの学園のクラスメイトや教官」


「さっさと行け。また会えて嬉しかったぞ、祐輔」


 え⁉


 唐突なデレに、俺は思わずトシにぃを見たが、くるりと身体を出口の方へ向けて歩き始めていたトシにぃの表情を見ることは出来なかった。




◇◇◇◆◇◇◇




「いや~、この駐屯地に来て本当に良かった~」

「まさかお前が、あのばこ中佐と知り合いだなんてな」


 俺と周防先輩は相変わらず2人ぼっちで、駐屯地に隣接する幼年学校の敷地の方に向かって移動していた。


「あれ? 周防先輩、トシにぃのこと知ってるの?」

「小箱中佐って言ったら、魂装部隊の辣腕現場指揮官として有名人だろ。魂装能力持ちではない士官だけど、魂装能力者のことをよく解ってくれて、現場の評判も良いって、軍へ進んだ学園のOBから聞いたことがある」


「さすが、トシにぃ」

「で、お前はそんな一線級の軍の有名人となんでツーカーの知り合いなんだ?」


「えっと、それは……」


 トシにぃと再会できた興奮でつい忘れてしまっていたが、今の俺は対外的には二等兵で、中佐のトシにぃとなんて接点なんてあるはずが無いので、相当な違和感のある状況であった。


「まぁ、大体察しはついているがな」

「え⁉ そうなの」


「隠す気があるなら、もうちょっと隠すよう努めろ。あと、いい機会だから今言っておく」

「な、なんっすか……」


 あらたまった様子の周防先輩に俺が身構えると、周防先輩は周りをキョロキョロと見回ると、


「今までのご無礼、大変失礼いたしました」


 周防先輩が深々とお辞儀をした。


「ちょ! やめてよ周防先輩」


「階級は解りませんが、明らかに上位の階級にいらっしゃり、また実戦での軍歴も長いかと思われます。そんな方に、今まで大変な無礼を重ねました。どうかお許しを」


 周防先輩にも気付かれちゃったか。

 どうやらミーナ以上に階級差っていう物を、周防先輩は重視しているようだ。


「だから、止めてって周防先輩。学園では、俺と周防先輩はただの気の置けない、先輩後輩の関係ってだけ。OK?」


「それは、謝罪を受け入れてくださるという事でしょうか?」

「うんうん。そして、上官命令で、今まで通り砕けた感じで接すること」


「上官命令……」

「本官の任務のために必要な措置である。貴官も従え」


 ミーナに少将であることがバレた時とは違い、こう言えば根が真面目な周防先輩はすんなり従ってくれるだろう。


「解りまし……いや、解った」


 予想通り、周防先輩はこちらの意図を読み取ってくれた。

 この点、周防先輩は優秀なんだよな。


「うんうん。周防先輩にはいつまでも、初めて会った時の、後輩に残忍な先輩でいて欲しいっすね」

「おまえ、やっぱり俺の事バカにしてるだろ」

「出会い方が悪かったせいですね~」


 小突こうとしてくる周防先輩をヒラリとかわし、俺は周防先輩の痛い所を弄ったが、周防先輩は前ほどは嫌そうな顔はしていなかった。


 こういう無礼な後輩キャラで接することが出来る先輩って貴重だから、思わずかまわずにはいられないんだよな。


「それで、なんであいつ等はあんなに意気消沈してるんだ?」


 周防先輩が後方をチラリと振り返ると、ミーナと琴美がなぜか少し後方を離れてついて来ている。

 普段は、正直ちょっとウザったい位くっ付いてくるというのに珍しい事もあるもんだ。


「さぁ?」

「速水教官まで落ち込んでるのは、なんでだ?」


「あの人は、幼年学校のことを、字面からショタがいる学校だと勘違いでもしてたんじゃないですか?」

「そんな訳あるか!」


 実際、昔の陸軍幼年学校は13歳から入学できたらしいからな。


 自分だけの大きな赤ちゃんを欲しがっっている速水さんは、特務魂装学園以上に近づけちゃいけない場所である。


 とは言え、今の幼年学校は、さすがに義務教育を卒業してからでなければ、入学は出来ないので、生徒の入学可能年齢は学園と一緒だ。


「戦場で想定外の事態はよく起こるんですよ」

「戦場帰りからマウント取られると、未経験の俺としては弱い訳だが……」


「そこら辺、幼年学校の生徒はどうなんですかねぇ?」


 少しの不安と共に、俺は軍の幼年学校の人たちとの交流会の会場の入り口の扉を開けた。


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