第27話 社会科見学先はもちろん軍隊!
「昼休みに部室で一体何をしてたんだお前らは? 随分騒がしかったが」
放課後。
俺とミーナは土門会長に呼び出されて、生徒会室に来ていた。
「昼寝していただけです」
俺がすっとぼけて答えると、土門会長の横に立つ琴美も顔を逸らした。
「まぁ、いい。早速だが、魂装研究会に生徒会の仕事を手伝ってもらう」
「へ?」
「そちらの顧問の速水教官から話が来たのだが」
「……ああ! あの話ですね。はいはい」
生徒会の人間である琴美を、うちの部室に出入りさせるための方便だったのだが、どうやら本当に協力関係を生徒会と結ぶ流れになったようだ。
「正直、生徒会は万年人手不足だからな。こちらとしてもメリットはあると判断した」
「どうも」
大方、魂装研究会は生徒会の下部組織という扱いだと学園内で触れ込んで、決闘で敗れて部屋を割譲されたことを上手いこと誤魔化したいのだろう。
まぁ、こちらとしては部室があれば文句はないし、その部室を維持する上での活動報告のネタを提供してくれるという意味では、魂装研究会としてもメリットがあると言えるので、生徒会との協力関係を築くのは願ったりかなったりなので、大人しく従っておこう。
「それで早速、直近の行事についてだが、社会科見学が行われる」
「へぇ~、工場見学でもするんですか?」
「いや、見学先は軍の駐屯地だ」
「でしょうね」
この学園はなんやかんや、普通の学校とは違うのだ。
「ちなみに見学先は、3学年一緒で年度ごとに交互に行き先が変わるわ~。昨年度は、民間企業体だったから今年度は軍ね。民間志望の私にとっては、退屈で無駄な時間でしかないのよね~」
土門会長の後ろにいた名瀬副会長が、相変わらず飄々と毒を吐く。
「けど、社会科見学で生徒会の出番なんてあるんですか? 引率は教官がやるでしょ?」
「今回行く軍の駐屯地は、軍の幼年学校も併設されているからな。こちらの社会科見学と合わせて交流会が催されることになった」
幼年学校は、かつて廃止された15歳から入学が許される軍の学校で、事実上、軍の将校になることが保障されたエリート校だ。
「へぇ~、楽しみっすね」
「過去の記録を見ると、あまり歓迎はされていないようだがな」
土門会長は執務机で、過去のファイルを見ながら苦い顔をしている。
「それで、私たちは何をすれば良いのですか?」
「虎咆さんは、ただ交流会でにこやかにしてれば良いのよ~。虎咆さんは、見てくれだけは良いんだから、ピッタリでしょ~?」
ミーナが尋ねると、名瀬副会長がまたもや毒のある口撃をしかける。
「あ~、生徒会には華が足りないからという訳ですね」
「ああ~ん? 数合わせが何ほざいてるの~?」
「お前たち、交流会でそういうバチバチなのは止めろよ」
ミーナと名瀬副会長の挑発の応酬を土門会長が呆れたような顔で見つつ、しかし半分諦めたような声色で注意した。
「名瀬の言った表の交流部分も無論大事だが、この手の交流会では、毎度必ずいざこざが起きるんだ」
「まぁお互い、若いですからね。お互いエリート意識の塊だから」
「下級生のお前に解ったように言われるのは釈然としないが、まぁその通りだ」
要は、希少な才能を持つ特務魂装学園の生徒と、将来は将校として軍の中枢を担う幼年学校生徒との間で、当然のごとく小競り合いが起きると。
正直、これは戦場や駐屯地でも問題が起きている。
特記戦力である魂装能力持ちの兵は、他の一般兵士を見下してるだの、一般兵士が魂装能力持ちへの嫉妬から不当な扱いをしてくるなど、両者間で悪口や苦情の言い合いで、結構トラブルが起きている。
大人同士ですら上手くいっていないんだから、学生間では言わずもがなな状況なのだろう。
「というわけで、そういうトラブルが起きた時の対処を神谷に頼みたい」
「こういうのって、普通は風紀委員が担うのでは?」
「風紀委員は腐っていたので、昨年度に解体した」
「土門会長も苦労してるんですね……ま、そういうことなら任されました」
「頼む」
まぁ、軍にいる俺にとっては、軍の駐屯地見学なんて今更だしな。
ご飯の美味しい駐屯地だと良いなと思いながら、俺は、まだ名瀬副会長とキャットファイトをしているミーナを引っ張って、生徒会室を後にした。
◇◇◇◆◇◇◇
社会科見学の日。
天気は快晴。
「ん~! 長距離のバス移動はこたえますね周防先輩」
「なんで、俺がお前と回らなきゃならんのだ……」
俺が背中の肩甲骨を伸ばすように伸びをしていると、横にいる周防先輩が憮然とした声音で呟いた。
「どうせ先輩、一緒に回る人いないんでしょ? 俺もだからちょうどいいじゃないですか。ボッチ同士、仲良くしましょうよ」
「大きなお世話だ! それに、お前には虎咆や火之浦がいるだろうが」
「ミーナも琴美も、何故か俺と2人きりで回るのを譲らなくて、危うくその場で魂装能力バトルになりかけて、今、速水教官と土門会長にお説教されてます」
「あいつら、何やってんだ……」
この間、生徒会室でトラブルを取り締まれ云々と言われていたのに、まさかの初手で取り締まる側が問題を起こすとは。
土門会長も頭を抱えていた。
その後、結局はみ出し者の俺と周防先輩で仲良く、駐屯地内を見学した。
といっても、引率の部隊の人がいるから、その人について行くだけだ。
駐屯地内の一般的な施設や設備やらの説明については、生徒たちはつまらなそうに聞いていたが、
「続いては、魂装部隊のエリアです」
と、引率の部隊の人が言うと、分りやすく皆が色めき立った。
案内された魂装部隊のエリアでは、ちょうど戦闘訓練を行っているようだった。
草原エリアや市街地エリアなど、学園の決闘で使われている施設と種類は似ているが、その広さは文字通り桁違いだった。
「軍事機密のため、隊員の個々の魂装能力については明かせないものも多いため、刀剣部隊の演武を、皆さんにはご覧いただきます」
「おお!」
同じ刀剣系統の魂装能力を持つ周防先輩は、目を輝かせて見ていて、演武終了後も、舞台の人に色々熱心に質問していた。
「周防先輩って、民間派閥なんじゃありませんでしたっけ? 随分熱心に質問してましたけど」
「……ここだけの話だが、俺は本当は子供の頃から軍の刀剣部隊に入りたかったんだ」
「そうなんですか」
「お前に負けた失態によって、派閥の上の方々から見放されてな。おかげで……」
「子供の頃の夢をまた純粋に追いかけることが出来るようになったと。良い話だな~」
「当事者に言われると釈然としないんだが」
要人警護や潜入任務とか、刀剣部隊は大活躍するもんな。
俺はまとめて吹っ飛ばすのが専門みたいなものだから、こういう隠密性みたいな格好良さというのも、いち男子として格好良さを感じずにはいられない。
「さて、この後は昼食か」
「俺はこれが楽しみだったんですよね」
こういう見学会の時の食堂のメニューは豪華になると聞いているので、楽しみにしていたのだ。
「あそこが食堂かな。って、入り口にいるのは……」
ミーナと琴美が食堂の入り口の前に立っていた。
銀髪で異国情緒あふれる長身美人であるミーナと、小柄で可愛らしい琴美という両極端のタイプの違う美人の組み合わせは大層目立っていた。
食堂へ移動している幼年学校生たちが、チラチラと通り抜けざまに2人に視線を送っている。
「ようやくお説教が終わったか」
「おかげで、魂装部隊ほとんど見れなかった……私、軍志望なのに」
ミーナが残念そうにしている。
軍志望なのに、軍の駐屯地で粗相を起こさなくて本当に良かったね。
「大変ですね虎咆先輩。私は、再来年の3年生でまた軍の見学出来るからいいです」
たしかに、毎年度交互に軍と民間を見学するという事は、俺と琴美は来年度の2学年次に民間で3学年次にもう一度軍に見学に行くという事か。
「あら? 火之浦さん。1歳だけ若いことがそんなにご自慢? 軍に入ってきたら先任士官として特別指導しなくちゃね」
笑顔でピキりながらミーナが琴美にパワハラを仕掛ける。
「あら、虎咆さん。階級が上の私を年増扱いしていたアナタが良く言うわね。あと、2人共、今日は私と一緒だって言ったでしょ」
「「う! 速水……教官」」
ミーナと琴美が、背後からかけられた声に固まる。
2人とも先ほどのお説教が堪えているようで、これ以上の諍いにはならず無事に鎮火した。
「速水教官って、綺麗な人だけどおっかない感じだな」
「いや、別の意味ではおっかないんですけどね」
周防先輩がコソッと呟くのに、俺がやんわりと否定をする。
人って見かけによらない性癖を持っていたりするから……
「なにか密談? 神谷君」
「いえ、何も! 速水少尉」
「そう? じゃあ行きましょう。折角だから、お昼ご飯一緒にどう?」
「「はい! 是非、ご一緒させていただきます!」」
駐屯地内だし、ここは教官と生徒という関係をいつも以上に意識しなくてはならないので、俺は素直に従う。
周防先輩もさすがに軍気質なだけに、素直に上官である速水さんに従う。
「ふふっ、生徒の引率だから久しぶりに士官食堂じゃなく一般兵士の食堂が使えますね。じゃあ、神谷君、周防君は先に行って席を確保してきて」
「「はい‼」」
なるほど、そこも狙いだったのか。士官の中では若手だから、速水さんも苦労しているんだろうな。
俺はこういう駐屯地に来れることは滅多になかったが、その時にもたしかに士官食堂を利用しなくてはならず、窮屈な思いをしたから速水さんの気持ちが解る。
俺と周防先輩は指示通り、だだっ広い食堂に先に入り、俺はキョロキョロと人数分座れる空席が無いか探す。
お! あの辺だけ、妙に席が空いてるぞ。
席を確保しに向かうと、なぜそのエリアだけ席が空いているのか解った。
佐官が座って一人でメシを食べていたのだ。横の席の椅子に佐官マントが掛けられている。
駐屯地のお偉いさんか。これは席が空いててもパスだな。
俺は踵をかえそうとしたが、
「おう。ここ空いてるぞ(モグッ)」
その佐官が不意にこちらに声をかけてきた。
口に食べ物を入れたまま話すなんて、ずいぶん礼儀がなってない佐官だな……
しかし、今の俺は学園の生徒でただの二等兵。
佐官の言葉を無視するわけにもいかない。
「はい。御一緒させて……」
俺は社交辞令用の笑顔を貼り付けて当該の佐官へ答えを返そうとして、思わず固まってしまった。
「お、誰かと思ったら。久しぶりだな(モグモグ)」
「トシにぃ⁉」
口の中をモグモグさせながら手を挙げている佐官は、俺がよく知っている人だった。
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最近、また駐屯地内に入れるイベントが再開して嬉しい。