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第18話 感想戦ハラスメント

「今のは反則よ! あんた、建物外から撃ったでしょ!」


 転移魔方陣でフィールドが外へ戻ると、決闘開始前の余裕に満ちた表情とは打って変わって、名瀬副会長が大声で食って掛かってきた。


「俺は指定されたフィールドから出てないですよ。そうですよね?」


「ああ……判定AIによると、神谷は建物外はおろか、半歩も開始地点から動いていない」


 苦虫を噛みつぶしたような顔で、土門会長が、端末で先ほどの決闘の内容を確認している。


「す、すいません……わたし……わたし……」


 敗者となった火之浦さんは、真っ青な顔で声を震わせている。


「とにかくリプレイ動画でも観てみたらどうです?」


 この場の第三者で唯一冷静なミーナが提案する。


 ミーナの言葉を受けて、土門会長が大人しく、それぞれの視点カメラや定点カメラで録画された映像を再生する。



「「「 は? 」」」



 生徒会の三名は、思わず呆けた声を仲良く上げた。

 ミーナは、吹き出してしまうのを寸前のところで堪えていた。


 そこには、決闘開始直後に、その場で壁に寄り掛かって寝っ転がる俺の姿が映し出されていたからだ。

 判定AIが、俺が半歩も動いていないというのは、実に正確な結果だ。


「なんで……」


 当然の疑問の声が火之浦さんから上がるが、映像が進んでいく。


 俺から少し離れたところに、光り輝く粒子砲台が生成され、上階へ向けて砲撃を開始する。

 狙いはついていないので、色んな角度へ向けて撃っている。


 そして、何発か射撃した後、画面の中の俺は寝っ転がりながら手を粒子砲へかざし、一度砲撃を止める。


 すると、粒子砲を撃った際に天井に出来た穴から紫色の毒ガスが侵入してきた。


 それを見とがめた俺が、天井の穴に向けて手をかざした瞬間に、AI判定の終了アナウンスが鳴った。


「最後は何が起きたの?」

「決着の瞬間については、火之浦さん側の定点視点が解りやすいですよ」


 俺の助言に素直に、土門会長がカメラを切り替えて再度映像を再生する。


 画面には、粒子砲の射撃がおさまった所で、火之浦さんが気流操作で毒ガスを、粒子砲の砲撃で開いた階下の穴へ殺到させるところだった。


 その直後、頭上に周防先輩の決闘でも使ったマスケット銃が生成され、頭部へ射撃し、画面にいる火之浦さんが倒れ伏した。


「なんで、ことっちの正確な位置が解ったのよ! もしかして、立会人のアンタが位置を教えてたんじゃ!」


「名瀬副会長。憶測で言を発するのは、立場上、おやめになった方が良いと思いますよ。第一、私は攻撃系の魂装能力ですから、そんな術は持っていません」


「ぐぬぬ……」


 ミーナの冷笑を伴った指摘はもっともな事なので、名瀬副会長もそれ以上、具体的な反論が出来ない。

 判定AIに、何も不正の痕跡は記録されていないのだから。


「じゃあ、どうやって私の正確な位置が解ったの……」


 かすれた振り絞るような声で、火之浦さんが尋ねる。


「おい、火之浦。他人の魂装能力について詮索するのはご法度だぞ」


「あ……」


 土門会長がすぐに火之浦さんのマナー違反を断じる。


「別にいいですよ。火之浦さんの位置がバレたのは、俺の魂装能力によるものじゃなくて、純粋な戦闘技量によるものですから」


「どういう意味……」


「火之浦さんの敗着要因は、決着を急いで気流操作で毒ガスを操作したこと。気流が不自然に変わるから、そこを辿れば術者の位置は丸わかりだ」


「あ……あ……」


 火之浦さんは声にならない声を上げて、激しく肩を落とした。


 大方、火之浦さんは俺が序盤に撃った粒子砲の射線上から、俺の位置を割り出せたと思ったんだろうが、逆に自身の位置を悟られることになった。


「ようは、今回の敗北は、ことっちの失策が原因ってわけね」


 名瀬副会長が冷たい声で言うと、火之浦さんがビクッと肩を震わせる。

 力が全てのこの学園において、敗者への扱いというのは、実に冷たい。


「あ、失策って意味なら、一番の失策は名瀬副会長だと思いますよ~」


「へ⁉ わたし?」


 予想外の俺の言葉に、名瀬副会長は呆けたような声を上げた。


「『ことっちの能力は、室内なら敵なしだよ~ ヤバいと思ったら即ギブアップしないと、後引くから早めにね~』って、決闘の開始前に言ってましたよね、名瀬副会長。あれのおかげで、火之浦さんは範囲攻撃で状態異常を引き起こす魂装能力であること、室内に強いという事は、逆に屋外では拡散してしまう気体に準拠する物だと検討がつきました」


「な……」


 今度は、名瀬副会長の顔色が真っ青になる番だった。


「戦う前から、敵にヒントを与えすぎですよ。名瀬副会長」


「うう……」


 くやしさで、奥歯を噛み締めながら、名瀬副会長は地面を向いて俯くことしかできなくなった。


『マスター。感想戦で敗因を伝えてあげるなんてエグイことしますね』

『彼女らに戦場の厳しさを知ってもらいたくてな』


『まったく。ドヤ顔で彼女たちに説いてましたが、先ほどの戦闘は結構運任せでしたよ』


『火之浦さんが気流操作を追加でするヘマをしてくれなきゃヤバかったかもな。まぁ、いざとなったら階下から高射砲タイプで隙間なく撃ち上げる予定だったけど』


『それはそれで大騒動になりそうな決着の仕方ですね』

『目立たず勝てて良かったよ』



(パチパチ)



 ちょうどコンとの対話を終えると、


「見事だ。我々は、君の勝利を受け入れよう」


 土門会長が拍手でこちらを讃えた。


「どうも。じゃあ、2人のフォローはよろしくです。あと、部屋のパーテーション区切るのは即お願いしますね」


「わかっている」


 苦々しい顔の土門会長と、今にも泣きだしそうな女子2人を尻目に、俺とミーナは闘技場を後にした。




◇◇◇◆◇◇◇




「あ~、やっぱり日本人は畳だよな」


 無事に、生徒会室から分捕った部屋で俺はくつろいでいた。

 なお、別に俺の自宅にも畳の部屋なんてないけど、落ち着くんだからしょうがない。


「元の部屋のままでも十分使えそうだったけどね。赤いじゅうたんで、将官ならお似合いの部屋だったのに」

「あんな赤いじゅうたんに、アンティーク調の家具が置かれた部屋なんて気が休まらないよ」


 絨毯をカットして、「要らないから返します」って渡した時の、土門会長の顔、引きつってたな。


「まぁでも、小上がりを作って畳を敷くのも、これはこれでお洒落ね」


 部屋は分捕ったが、残念ながら備品や施設改修の予算がつかないので、これは俺のポケットマネーでの持ち出しだ。

 まぁ、3年間の安住の地を快適なものにしたいので、結構つぎこんだ。

 学園での備品登録の事務手続きが面倒だったけど、めげずに頑張って良かった。


「冬はコタツを置きたいね」

「それ、いいわね」


 畳の上の座卓で、ミーナが番茶をすする。


「異国情緒のあるミーナが、畳の上で正座して日本茶をすすってる姿、何か良いね」


「ぶっ! 何よ藪から棒に」

「うん。正座も、背筋がピンと伸びてて綺麗だ」


「ばか……」


 ミーナが恥ずかしそうに俯く。


「けど、ミーナもこの部に入るの? ただの俺の休憩所だから、活動なんてあって無いようなもんだよ」


 一応、この部屋は名目上は部室という扱いにする必要があるので、適当に「魂装研究会」という名前の部活を作ったのだ。


「1学年の時には色んな部から勧誘されて断るのが面倒だったから、いい加減どこかに所属した方が良いかと思ってたし」


「そう? ならいいけど」


「それで、ユウくん。ここなら2人きりのプライベート空間だから、その……」


「ああ……どうぞ」



「ミャア♪」



 俺が寝そべっている辺りに、ネコのように丸くなり、頭をスリスリすりつけてきて可愛く鳴くミーナの顎を撫でてあげていると、



(ピッピー!)



 けたたましくホイッスルを鳴らしながら、速水さんが部室に入って来た。



「はい。不純異性交遊の現行犯です」

「みゃ⁉ 速水先生‼ だから、ノックしないで入ってこないでくださいよ!」


 慌てて、ミーナが飛び起きて、速水さんに抗議する。


「この部活の顧問をしている私が、この部室に出入りするのに、何の遠慮が? どうせ、ユウ様と密室で2人きりな事に興奮して、いかがわしい事でもしようとしたのでしょう?」


 速水さんからの鋭い視線に、ミーナは顔を逸らした。


「ねぇ、ユウくん。この顧問クビにできない?」

「高見学園長に陳情したけど、『俺の人事権が及ばないんだよ』って悲しい顔で言われた」


「たかだか、部活の顧問すら、学園長が決めれないの⁉」

「俺が絡んでるから、色々特殊事情がね」


 ミーナが驚愕している横で、なぜか速水さんは誇らしげなドヤ顔だ。

 高見学園長には、本当に苦労をかけている。


「それで、速水さん。その手に持っている段ボールはなに?」


「これですか? 一応は、魂装研究会と銘打っている訳ですから、色々必要そうな物品を持ってきました」


「へぇ、それは助か」



(リンゴロ♪ リンゴロ♪)



 得意げに速水さんが段ボールを揺らすと、赤ちゃん用のガラガラの音がした。


「中身はですね」

「あ、説明は無しで大丈夫だよ。私物の持ち込みは、多少ならいいけど、節度を持ってね」


 本当に、節度を持ってね……


「ユウくん、これは大丈夫かな?」


 ミーナが少し不安そうに、手元にある猫じゃらしを見せながら俺に質問してくる。


「猫じゃらし……うん、いいんじゃないかな。首輪じゃなくてホッとしたよ」


 きっと、俺がミーナと遊ぶ用なんだろうな。

 首輪じゃないだけマシだったと、俺は無理やりに前向きに思考を巡らせた。


「っていうか、さっきから何で2人共、俺にお伺い立ててるの?」


「だって、ユウくんがこの部の部長だし」

「学園側への創部手続時の書類でもユウ様が代表になってます」


 ミーナと速水さんは当たり前でしょ?という顔で答えた。


「え、そうなの? 入学したての1学年が部長って目立っちゃうな」


「もう、そんな事どうでもいいレベルで目立ってるけどね、ユウくんは」


 ミーナは呆れたような顔で言った。


「一応、目立たないようにと軍の上層部から言われていましたが」


 速水さんに珍しく心配されたが、俺だって考えなしで振舞っていたわけではない。


「こういうのは最初に程よく目立っておいた方が、後にトラブルになったりしないんだよ。アンタッチャブルなキャラになれば、トラブルに遭う可能性も減るでしょ」


 この学園は実力至上主義な訳だから、相応の実力を見せつけたら、周りも大人しくなるというのが俺の目算だった。


「本当かな……何だか嫌な予感がするけど」

「その点に関しては、誠に遺憾ですが、この小娘と私も同意見です」


 この時、俺の行動原理は、皮肉にも、最近の日本の外交姿勢に似てしまっていたことに、俺自身も気が付いていなかった。


 そして、2人の懸念は現実の物となっていくことを、またミーナと速水さんがギャーギャーケンカしているのを横目にして、昼寝でもしようと呑気にしている今の俺は知る由も無かった。


ブックマーク、☆評価よろしくお願いいたします。

励みになっております。

投稿前に今話を読み返したら、なんか打ち切りエンドみたいな終わりになってますね。

まだまだ続きますので、よろしくお願いします。

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