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第16話 生徒会室を奪おう!

「はい、これ。ちゃちゃっと決裁の判子お願いします」

「何だこれは?」


 俺は朝一で学園長室に入って、高見学園長に決裁文書を渡した。


「畳で寝そべる休憩室が欲しいなって」

「却下だ」


 せっかく早起きして作ったのに、秒で却下するなんて酷い!


「俺の方が高見学園長より階級上なのに!」

「お前に学校運営の実務が出来るのか? 何なら代わりましょうか? 神谷少将殿?」


「ぐぬぬ……」


 勢いで押し切れるかと思ったが、ダメだった。

 学園においては、あくまで最終の決裁権者は高見学園長だから、俺にはどうしようもない。


「そもそも、今空いている部屋なんて校舎内に無いぞ」


「じゃあ、どうするんです? これから出動が立て込んできたら、真面目な話、こういう休息場所がないと辛いんですけど」


「まぁ、それは一理あるな」


 高見学園長が思案に沈む。


 速水さんは表向きは学園の教官だから、教官用の女性宿直室を使っても何らおかしくはない。

 けど、生徒の俺が教官の宿直室を使うことは出来ないし、万が一出入りを目撃されたら、俺の正体が暴かれかねない。


「じゃあ、部屋を奪えばいい」

「部屋を奪う?」


 まともな人生を送っているならば、一生使わないであろう文章だったので、思わず声に出して聞き返してしまった。


「この学園では、部室を決闘で勝ち取ったりするんだ」

「相変わらずの蛮族みたいなルールですね。でも、今回の場合はそれが手取り早いっすね」


 俺も、この学園の校風に早くも染まってしまったのか、躊躇がなくなってきている。


「とはいえ、弱小部活の人たちの部室を奪うのは気が進まないっすね…… ちなみに一番広く占有している団体はどこなんです?」


「ああ、それはな。生徒会だ」


 この時、ニヤリと笑った高見学園長には何やら他の企みがあるように感じられた。




◇◇◇◆◇◇◇




「周防せんぱーい。ちょいと、つら貸してくださ~い」


 昼休みが始まった直後に、俺は2年生の教室があるフロアに赴いていた。


目的の人物は、例によって取り巻き達に囲まれているのかと思ったが、窓際の席で一人たそがれていた。


「神谷……」


 周防先輩は取り巻き達に囲まれて自信にあふれていたあの頃の表情とは打って変わり、俺に声をかけられて絶望したかのような落胆と、とうとう来たかという諦めに支配されたような表情を浮かべている。


「あれ? 取り巻きの人たちはどうしたんです?」

「嫌味か貴様……あの決闘以来、誰も俺に寄りつかなくなった」


 あ~、失脚って奴か。バックの民間企業体とやらに見捨てられちゃったのね。

 まぁ決闘の場で舐めプしたり自業自得な面もあるから、しょうがないよね。


「それで、俺に何の用だ? 裸踊りでもさせようってのか?」

「別に取って食おうって訳じゃないっすよ。ちょっと用事に付き合ってもらうだけです」


 前回の決闘で、俺とミーナが得た褒章は、周防先輩が卒業するまで学園内では隷属するというものだった。


 要は、負けた方がパシリになるということだ。

 今の周防先輩に、俺の依頼を拒否する権利はない。


 周防先輩が決闘に掛けた筆頭の位置というものの価値を考えると、これが妥当な条件だったらしい。


「わかった……だが憶えておけ。必ず俺は再度の決闘で、自分を取り戻す!」


「はいはい。じゃあ、行きますよ」


 格好つけて宣言してくる周防先輩は無視し、先を急ぐ。

 昼休みにとっとと話を済ませたい。




「おい、神谷。ここは生徒会室だぞ」


「そっすね」

「……生徒会室に何の用なんだ?」


 明らかに尻込みしている様子なので、説明やらが面倒だと思い、周防先輩の問いかけは無視して、俺は生徒会室の仰々しい扉をノックして入室した。


「失礼します」


 扉を開けると、そこは別世界。

 赤いフカフカの絨毯が敷かれている室内には、アンティーク調の応接セットと執務机が備わっていた。


 これ、元帥室よりも金かかってないか?


「何用だ」


 生徒会室の扉を開けた正面の執務机に座る男子生徒が、メタルフレームのメガネごしにギロリとこちらに視線を向ける。


「どうも。1学年の神谷祐輔です。はじめましてもん会長」

「知っている。後ろの恥知らずの2学年と決闘した1学年だろ」


 俺の背後に目立たないようについて来ていた周防先輩がビクッ! と肩を震わせて目を逸らした。


「恐縮です。それで、ここへ来た目的なんですけど」

「手短に話せ。私は忙しい」


 土門会長は視線を机の上にある書類におとし、決裁のための印を持ち上げた。


「では手短に。この生徒会室の部屋を分けてください」


 書類に押印する寸前で、土門会長の手が止まった。


「なるほど。噂通りの狂犬だな」


 メガネをくいっと上げつつ、冷静な態度を装っているが、土門会長の声には怒気が込められていた。


「お、おま! なんでよりにもよって、生徒会に部室争奪戦なんて吹っ掛けるんだ‼」


 周防先輩が真っ青な顔で俺を問い詰める。


「え? これだけ広い部屋だから、ちょっと貰っても問題ないかなって。だって、この広さ、明らかに無駄でしょ」


 生徒会室は、優に3教室分くらいの広さがあった。


 ゆったりとアンティーク調の家具が配置されているので、1教室分くらいこちらで貰ってしまっても、生徒会の運営上、何の問題も無さそうだ。


「お前の実力なら、弱小の部活の部室を乗っ取るとか簡単に出来ただろ!」

「それだと部活がとり潰しになって可哀想じゃないっすか」


「こんなの、勝っても負けても生徒会に完全に目をつけられちまうだろうが!」

「あら、周防先輩やさしい。俺のこと心配してくれてるの?」


「今は、お前の隷下だから、否応なく俺も巻き込まれるんだよ!」


 周防先輩は悲壮な顔で怒鳴っている。


「あれ~? 何か騒がしいと思ったら、負け犬くんじゃん。どした~ん?」


 俺と周防先輩が騒いでいると、背後の生徒会室の扉が開き、人が入って来た。


……」


 周防先輩が眉間にシワを寄せながら、銀髪で褐色肌の女子へ、憎々し気な視線を向ける。


「ちゃんと名瀬副会長って呼んでくれる~? 生徒会に入ることも学年筆頭にもなれなかった負け犬く~ん」


 周防先輩を全力で煽る名瀬副会長は、とても生徒会の人とは思えないほど、露出の多い、いわゆる改造制服を着ている。

 力があれば、ここまで自由に振舞えるという事か。


「いつかテメェは引きずり下ろす」


「私の事より自分の心配したら~? まずはその1年生君の支配下から抜けないとね。今度の決闘は何賭けるの~? まさか退学~?」


 きゃははと笑う名瀬副会長の前で、周防先輩は口では強気な発言をするが、悔し気にしている。


「名瀬くん。今回は、周防からの決闘申請ではなく、その1学年からだ」


「え、この1年生君からっすか~? なんで~?」

「この生徒会室の部屋を一部寄越せと言ってきている」


「は~、こりゃこの1年生君は大物だね~」


 ケラケラと陽気に笑っているが、名瀬副会長の目は笑っていなかった。

 美人だが、おっかないタイプだな。


「名瀬くん。決闘の条件書の作成を頼む」


「は~い。で、1年生君の要求は?」

「生徒会室の1教室分のスペースをもらい受けたい」


「そちらが負けたら差し出すものは?」

「この人」


 俺は周防先輩の首根っこを掴んで、名瀬副会長の前に突き出した。


「おい⁉」


 またしても、何も俺から知らされていない周防先輩は抗議の声を上げるが、残念ながら今の周防先輩に拒否する権利はない。


「俺が負けたら、この人の隷属の権利を生徒会に譲渡します」


「ふむ……2年生の3番手をボロ雑巾のようにこき使えるのは条件として悪くないな。だが、それだけでは弱い。決闘のフィールド条件の設定権をこちらにつけるのならOKだ」

「ええ、良いですよ」


 俺と土門会長との間で、決闘条件について妥結がなされる。


「じゃあこれで条件書は完了と」


 名瀬副会長が条件書を素早く作成し、書類を仕上げる。


「生徒会側は誰が相手になってくれるんです? 名瀬副会長ですか?」

「ん~? いい相手がいるのよ。あ、ちょうど来たみたい」


 コンコン! と生徒会室のドアがノックされる。


「失礼します。今日もよろしくお願いします」


 丁寧なあいさつの後、入室してきたのは小柄な女子だった。


「あれ? 君は」


 俺は、その女子の雰囲気に見覚えがあった。


 後姿だけで顔は見えなかったが、周防先輩と決闘するキッカケとなった、絡まれていた女子だった。


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