第15話 ミーナと一緒にお風呂
「ふわぁ……眠い」
結局、昨晩の作戦行動の戦果確認が終わるまで随分と待たされ、結局待機状態が解除されたのは明け方だった。
統合幕僚本部は部屋の広さに余裕があったし、自分の執務室があったので、待機している間に休んだりできたのだが、学園の暫定指令室ではそういった余裕がない。
そのため、椅子に座ってコックリコックリするのが精々だった。
「これは何とかしないとだな……」
そうボヤキながら、俺は自宅へ辿り着いた。
幸い、今日は日曜日。
寝潰して月曜日からの学校に備えるか。
そう思いながら、制服の上着をリビングの椅子に乱雑にかけてネクタイを外して寝室に入りベッドに倒れ込むと、
「ゔにゃ!」
ん? 猫がベッドに紛れ込んでたか?
「あれ? ミーナ」
「お、お邪魔してます」
あたふたとベッドから、ミーナが半身を起き上がらせる。
起き抜けで、まだ眠そうだ。
「ミーナ来てたんだ」
「ご、ごめん。ユウくんが帰ってくるの待ってたんだけど、私寝ちゃって」
「待っててくれたんだ。ありがとう」
「お仕事お疲れ様。疲れたでしょ? 今、お腹に優しい朝ごはん作るね」
「う~ん、それより寝たいかな」
徹夜のダメージが少し胃腸に来ていて、あまり食欲が無かった。
「そ、そっか……じゃあ、私帰るね」
「ミーナも夜遅くまで起きてたから寝不足でしょ? 一緒に寝よ」
「ミャア⁉」
俺はベッドから立ち去ろうとしたミーナの手首を掴んで、やや強引に布団の中に引きずり込んだ。
はぁ……人の温もりって、疲れてる時には本当に安心する。
「ちょ……‼ ユウくん、わ、私シャワー浴びてなくて」
「あー、俺もだよ。いいじゃん寝ちゃおー。起きたら一緒にお風呂入ろ」
「い、一緒⁉」
「あ……もう寝ちゃ……う。おやすみミーナ」
俺はミーナを胸元に抱き込んだまま、沼に沈むように眠りに落ちて行った。
(プァーン)
ちょっと間の抜けた音が耳と脳を刺激し、眠りの中から意識が引き上げられた。
「豆腐屋さんのラッパの音か」
となると、多分今は昼過ぎかな。
枕元にある目覚まし時計を見ようとすると、何やら妙に汗ばんでいることに気付いた。
制服のシャツで寝ちゃったからか? と思ったが、すぐに合点が行った。
自分が温かい熱源を抱き込んでいる事に気付いたからだ。
「おはよう」
ミーナが布団の中から、モゾモゾと這い出てきた。
「あ……ごめん。ミーナを抱き枕にしちゃってたみたいで」
「もう……カチンコチンに緊張して寝れなかったわよ」
「……? 昔、よく一緒にお昼寝したじゃない」
「いくつの時の話をしてるのよ!」
ふわぁと大きな欠伸をした後に、ミーナが自身もかなり汗ばんでいる事にハタと気付いたようで、顔を赤くする。
「一緒の布団で寝たから汗かいちゃったな」
「なんだか言い方がイヤらしいよユウくん」
「じゃあ、お風呂一緒に行こうか」
「ヴニャ⁉ あれ、寝ぼけて言ってた訳じゃないの⁉」
「休日だしちょうどいいかなって」
「…………わかった」
ミーナが更に汗をダラダラとかきつつ、何か覚悟を決めたような顔で頷いた。
「やった楽しみだな」
「そ、そうだね……」
せっかく休日がまだ終わっていないんだから楽しまなきゃな。
◇◇◇◆◇◇◇
「着いた着いた。前から気になってたんだよね」
「どうせ、こういうオチだと思ったわよ……」
俺とミーナは、近くのスーパー銭湯に来ていた。
調べたら、軍の福利厚生券で無料で入れるようだ。
流石は親方日の丸なので、こういう所は強い。
今までは戦場に居たので、ただの宝の持ち腐れだったからな。ここぞとばかりに使い倒してやるぞ。
制服のまま寝てしまってシャツがシワになっていたので、併設のクリーニング店に出して、スーパー銭湯の受付へ赴く。
「大人2名分 厚生券で」
「はい。男性1名、女性1名ですね」
受付で店員さんからロッカーのカギを2つ受け取る。
「ほい。ミーナの」
「ありがと。また、ユウくんに奢って貰っちゃったね。お姉さんなのに」
「学園の生徒は一応軍属だけど、こういう福利厚生券は発行対象外だもんな」
「ユウくんって、やっぱり現役の人なんだね」
「スーパー銭湯の入浴無料券で、俺が軍の人だって実感してるっていうのは変な話だな」
「フフッそうだね」
「じゃあ、1時間くらいで上がるので良いか?」
「2時間後に合流でお願い」
「そんな長湯するの?」
「女の子は、湯上りにも色々と作業があるのよ」
そう言って、ミーナは女湯の暖簾をくぐって行った。
「お待たせユウくん」
「待ちくたびれた~ 腹ペコだ~」
浴場ではゆったりと湯船につかり、サウナにも2回入ったが、それでも2時間はいられなかったので、先に上がっていたのだ。
「ユウくん。湯上りの女子に向かって、他に言うことは無いの?」
「完全に乾ききっていない髪を無防備に下ろしている姿は、確かに中々見る機会が無いかもしれないね。館内着の浴衣も可愛い」
「そんな、具体的に言わなくていいから……」
自分で話を振っておいて、ミーナは顔を火照らせていた。
湯上りの食事を終えて、俺とミーナは畳敷きの休憩所で壁にもたれかかりながら、備え付けの漫画を読んでいた。
小学生の頃に読んでいた大人気コミックスが、まだ続いていたので俺は歓喜した。
記憶がおぼろげなので、1巻から読み返しだ。
「あ、懐かしい。そうそう、こんな話だったよな」
そう言って、横に座っているミーナに声をかけると、ミーナがコテンッと頭を俺の肩に預けていた。
さっきまで、横からニヤニヤしながらネタバレをかまそうとしてきていたのに。
昨夜って言うか、今朝もあまり寝れていなかったみたいだし、湯上りでお腹も満たされて急に眠気が来たんだろうな。
ちょうど手の届くところにブランケットがあったので、浴衣が乱れて周りの男共の注目を浴びている、ミーナのスラッとした足と胸元を隠すように掛けた。
スースーと寝息を立てているミーナの寝顔を時々見ながら、こういう畳の部屋が学園内に欲しいと思い立った。
今度、高見学園長に相談してみようと思いつつ、俺も湯上りの睡魔に負けて、ミーナと一緒にうつらうつらと船をこいだ。
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昨日奇しくもスパ銭行きました。肩こりよ消えろ!