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第133話 茶番謝罪劇

「では、神谷少将としては、貴官を強制的に魂装兵として徴兵したことを決定した、当時の軍や政府の高官について、その罪を個人的に咎めるつもりはないと?」


 首相官邸大ホールにて、向かいの椅子に座る黒留袖の着物を着た刈谷首相が俺の発言を反復して、真意の確認を行う。


「はい。彼らが責任を負うのは、あくまで法治国家である日本の法律において、正規の手続を踏まなかった点だけかと思います。私を戦場に送り込む以外に、国難を乗り越えられる手段が無かった以上、彼らも苦しい選択をしたと考えます」


 俺の方も、前回アポなしの学園制服姿で官邸に乗り込んだのとは打って変わり、俺の方も白地の詰襟制服と少将の位を表す青いマントを羽織る礼装姿で、この場に臨んだ。


 女性首相である刈谷首相が、男性のモーニングタキシードに準じる正装の黒留袖の着物を着ているのに合わせると、ここは礼装するしかなかった。


 礼装なんて、日本に帰国して間もなくに、市ヶ谷の庁舎の中でふざけて着た時以来に袖を通した。


「貴方は、自身の意志を無視されて、国に不当に命を危険に曝されていたわけですが?」


「この国では私のような存在は目立つでしょうが、他の国の戦場では、それこそ個人の自由意志など関係なく徴兵されたり、私より幼い少年が銃を抱えている光景を見てきました。なので、この点に関しては、自分が特段の不幸と苦痛を受けたとは考えていません」


「この点に関しては……ですか」


 ボソッと刈谷首相が、周りには聞こえないように独り言ちつつ、一瞬その理知的な顔を強張らせるが、すぐに公式の顔を取り戻す。


「それでも、私はこの国の代表として、また一人の大人として、未成年のあなたを戦場に送って安穏と暮らしてきたことに恥じ入ります。本当に申し訳ありませんでした」


 椅子から立ち上がった刈谷首相が、腰を折り深々と俺に向かって頭を下げて、謝罪をする。




 ((((パシャシャシャ!)))




 いくつものカメラのフラッシュが焚かれ、光の世界に紛れ込んだような錯覚を覚える。


 暴力的なカメラのフラッシュがようやく落ち着いた所で、俺の方も椅子から立ち上がると、それを合図に刈谷首相が頭を上げる。


「謝罪を受け入れます。今後は静かに過ごすとともに、軍属として国の危機の際には尽力させていただく所存です」


 そう言って、俺は軍隊式の敬礼ではなく、握手の手を差し伸べる。


 これは、軍属の神谷少将としてではなく、神谷祐輔という私人として謝罪を受け入れたということを示している。


「ありがとう」


 刈谷首相が、ガッチリと俺の差し伸べた手をホールドする。


 俺は刈谷首相と、まるで条約締結した他国の首脳みたいにガッチリと握手をしながら、にこやかな顔をマスコミのカメラへ向けると、再び暴力的なカメラのフラッシュを喰らった。


 こうして茶番は終わった。




◇◇◇◆◇◇◇




「『堂々、神谷少将。首相の謝罪に大人の対応』ね」


「何だか言いたいことがあるみたいだね、周防先輩」


 昼休みに、居たたまれない教室を抜け出ていつもの部室で昼食をとっていると、周防先輩が新聞を広げて、これ見よがしに俺と首相が握手してる写真が載った一面を見せびらかせながら入室してくる。


「いや、立場が人を作るって本当だなって思ってな」

「こんなの、ただの政治ショーだよ。お互いの利害が一致したから、刈谷首相に協力しただけだ」


「利害?」

「最近の世論を見てると、『俺は軍にいるべきじゃない』、『彼の自由にさせるべきだ!』みたいな論調が溢れ始めててね。それへの牽制がしたかったんだ」


「ほぉ。けど、神谷の立場的に、軍を穏当に辞められるならそれに越したことはないんじゃないのか?」


 不思議そうに尋ねる周防先輩に、俺が理由を説明する。


「何も俺の事なんて知らない外野のくせに、ヤンヤヤンヤと俺の進路について口出しされるのがムカつくんだよ」


「相変わらずの天邪鬼だな」

「ほら、俺ってば絶賛反抗期のガキだから」


 そう言って、俺は素知らぬ顔で弁当を広げる。


「で、虎咆の様子はどうしたんだ? いつにも増して気色が悪いが」


「うへへ……『英雄 神谷少将のお相手は、戦場の歌姫 虎咆上等兵か⁉』、『2人は子供の頃から家族ぐるみで付き合いのある幼馴染』、『お似合いカップルの誕生に国民も期待』だって。困っちゃうな~、やっぱり世間様からはそう見られちゃうか~」


 下世話な話題を扱うスポーツ新聞や週刊誌をいくつも積み上げ、ミーナがぶつぶつ独り言を言いながらニヘラと笑っている。


「困っているなら、私の方で桐ケ谷ドクターに言って、当該出版社やネットニュースのサイト運営のサーバをぶち壊して再起不能にしますよ虎咆先輩」


 ニチャニチャ笑っているミーナの横で、琴美は何だか不機嫌そうだ。


「大衆が、こういった勘ぐりをしてしまうのはしょうがないのよ火之浦さん。それに、今更、国民に広まっちゃったニュースは消せないでしょ」


「く……虎咆先輩め……外堀を埋めてリードした気になってる。私もいっそ、身分を世間に明かして……」


 ミーナの横で、歯ぎしりしながら琴美がチュウスケを抱きすくめる。

 腕に力が入りすぎて、チュウスケの顔がつぶれ饅頭になっている。


「止めた方がいいですわよ火之浦先輩。火之浦先輩の魂装能力は、平時にも役に立つのですから、情報が出ても報道される前に当局に潰されます」


「でも私、悔しいよ真凛ちゃん! なんで真凛ちゃんの能力で、こんなくだらない報道を止めれなかったの⁉」


「くだらない報道だからですよ。こういった憶測は、むしろ野放しにした方が鎮火も速いですよ。国が躍起に報道規制に走ったら、それこそ不都合な真実だと捉えられかねないです」


「まぁ、私はこのまま既成事実づくりに走るけどね」

「ほらぁ! この人、絶対暴走するよ!」


 冷静に諭す真凛ちゃんに、琴美が食って掛かる。


「それで、祐輔。学園には今後も通えそうなの?」


 かしましいミーナたちの方は無視して、珍しく食事の手を止めながら美鈴が訊ねる。


「うん、そこはバッチリ。カメラの前で、あんなお涙ちょうだいの茶番を刈谷首相と演じたんだ。これで世論的にも、俺に少将としての職責に専念しろと、強くは言えない空気が出来たしね」


「一部で舞い上がった人たちが、祐輔の力を使って他国を積極的に侵略しようなんて言い出したもんね」


「そういう輩が出てくるから、俺の存在は国のトップの一部を除いて秘匿されてたんだろうね」


 どうせ、表層しか知らない中途半端な奴らが言い出したのだろう。


「とにかく良かった。また、私も戦場に連れ回されるのは御免だから」

「俺と随伴する義務がある美鈴にとっては、たしかに俺の動向は一大事だからね」


 安心した美鈴は、食事を再開する。


「これで色々と落ち着いたね。またどこかに遊びに行きたいわね」


「あ、落ち着いたと言えば、虎咆先輩のおごりで学園祭後にスパリゾートに連れて行ってもらう話がありましたね」


 そう言えばと、琴美が思い出したようにミーナの方を見やる。


「あ~、たしかに言ってたね」


 ミーナが学園祭の凱旋ライブの開始前の楽屋で、準備で死にかけてた俺と琴美に、先輩風を吹かせていたのを俺も思い出す。


「学園祭後は色々とゴタゴタしてたから、すっかり忘れてたわね」


 あの時はライブ会場に美鈴が特攻兵器でつっこんで来たり、その後の合同焼肉打上げもあったしで、すっかり忘れてた。


「ほう、虎咆のおごりか」

「楽しみですね、お兄ちゃん」


「え? おごりはユウ君と火之浦さんだけじゃないの?」

「周防兄妹もミーナのライブ会場の警備を頑張ってくれてたんだよ」


「う……あ~、もう解ったわよ! みんな私もちで週末に遊びに行くわよ!」



「「「「ゴチになります!」」」」



 これも、一律で給料が支給されている特殊な学園ゆえだろうか。


 お互いに、おごりに遠慮や躊躇は無かった。


現在連載中の

『私が名人になったら結婚しよ?師匠』が完結目前です。


最終話まで書き溜め済みなので、この機会に是非ご覧ください。

作者名リンクか、広告下↓↓↓の作者マイページより見れます。

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