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第130話 首相との会談(なお記録には残らない)

「ユウ様。どうやら、橘元帥は、関係閣僚会議に呼ばれているようです」

「あらら、吊し上げの真っ最中か。可哀相」


 市ヶ谷の統合幕僚本部へ、速水さんの空間転移で移動したのだが、橘元帥は市ヶ谷を空けていた。


 安全ピンの外れた手りゅう弾がとうとう爆発した気分を後学のために聞きたかったのだが、まぁ聞くまでもなく最悪だろうな。


「どうしますかユウ様?」

「折角、高見さんから授業は公欠もらってるからね。ちゃんとお仕事はしないと。という訳で、首相官邸に乗り込もうか」


「了解しました」


「いや、速水さん。流石に副官なんだから、もうちょっと諫めたりとか嫌がったりとかさ……」


 下手したら、懲戒免職じゃ済まないことをやろうとしている訳なのだが、速水さんにまるで躊躇がない。


「私も、この状況に怒っていますので」


「ありがと。でも、この事で速水さんが処分を受けちゃうのは俺の本意じゃないから一応猿芝居しとくね」


 オホン! と咳払いをして、俺は寸劇を演じる役者スイッチを入れる。


「黙って俺の命令に従え速水少尉」

「はい。私はに貴方の下僕です」


 そこは渋々命令に従う小芝居に付き合ってほしかったんだけどな……と思いつつ、空間転移の術式が発動した。




◇◇◇◆◇◇◇




「どうも失礼します~」


俺と速水さんは会議が行われている会議室へ乱入する。


「なんだ貴様は! ここは関係閣僚会議の場だぞ!」

「ちょっと、待て! あれは神谷少将本人だ……」


 上等な背広や制服に身を包んだおっさん共が、突然現れた学園の制服を着た俺に狼狽える。


「すいませんね、場違いな格好で。何せ学校から直接来たもので。緊急なんでご容赦ください」


 そう言って、ドッカリと空いている椅子に腰かける。


 さすがは、閣僚が座る椅子なだけあって、幕僚会議をする時に座る、見た目だけはそれっぽい、なんちゃって革張り椅子とは違う、本物の座り心地だ。


「貴方をこの会議に召集する指令は出していないのだけれど?」


「議題は俺の今後の遇し方に関することでしょ? なら、俺を抜きに決められちゃたまらないんですよね、かりあさ首相」


 そう言って、俺はこの国初の女性宰相である刈谷首相を値踏みするような目でねめつける。


 グレイヘアで緩くパーマをかけたショートカットに、理知的な印象を与えるメタルフレームの眼鏡をかけた姿は、ニュース番組で見るままだ。


「人事に関して決める場に、当の本人が居ない事はさほど珍しいことではないと思うけれど?」


 空間転移による奇襲と俺の挑発的な言動にも動じることなく、的確にこちらの痛いところを突く所は、流石は首相まで上り詰めた大人物だけはある。


 どこぞの、ただ吠えるだけの新米先生とは迫力が違う。


「通常の人事異動なら刈谷首相の仰る通りです。その場合は、私も一軍属として従いましょう。しかし、私の場合は、行き先が座敷牢に幽閉か、さもなくばあの世になりかねないので、是非ともオブザーバーとして参加させていただきたい訳ですよ」


 こっちだって、今後の身体の自由がかかっているのだ。

 おいそれと、尻尾を巻いて引くわけにはいかないのだ。


 なお、俺の横にはちょうど橘元帥が座っているが、心労からか顔色が悪い。


 ちょっと彼の方こそ、今回の件の処分の有無にかかわらず、軍を辞めた方がいいかもしれない。


 健康に一番良いのは、仕事を辞めることだから。


「まぁ、良いでしょう。神谷少将の参加を認めます。今は、神谷少将を強制的に軍に徴兵し、戦線へ投入した当時の政府高官たちへの責任追及について議論しているところです」


 当時、いくら戦線が逼迫していたからと言って、正当な手段を踏まずに超法規的に子供を戦線へ投入したのは、誰の目から見ても、どんな尺度や感情論を持ち出しても、道義的にアウトだろう。


「ま、そっちは政治の領分なのでお任せしますよ」

「……少将は、当時の高官たちへの恨みの感情はお持ちで?」


「『自らが埋めた特大地雷が爆発して逃げ切り失敗してどんな気分?』と俺が言ってたと伝えておいてください。別に目の前で謝罪しろとか要らんです。会ったことも無い人らだから」


 俺は、会議出席者用に配られたお茶のペットボトルのキャップをひねり、喉を潤す。


 考えれば朝から動きっぱなしだ。


「解りました。では、高官たちの処分は粛々と進めましょう」


 刈谷首相が簡潔に俺の意を汲んで迅速に対応方針を決める。

 こういう、テンポ良く進む会議はありがたい。


「次は、今後の神谷少将の処遇についてですが」


「俺を幽閉したりしようとしたら暴れますよ」

「そんな事がこの国に出来たら、とっくにやってますよ」


 俺の食い気味な宣言に、刈谷首相は苦笑しながら答える。


「まぁ、そうですよね。でも、魔王を討伐した後の勇者はお払い箱が最近のトレンドですし」

「そうですね。少将は、間違いなくこの国を救った英雄であり最大の被害者です。賞賛や同情されこそすれ、排除に動く者はただの逆張りクソ野郎です」


 周りの閣僚や後ろに控える次官級と思しき人たちは、俺と首相の危ない発言の応酬に目を白黒させる


「じゃあ、何かご褒美でもあるんですか? 退役時の年金と恩給の増額で手を打ちますよ」

「……神谷少将は、これからも軍属は続けてくれるのですか?」


「……? そのつもりですが。まさか懲戒免職ですか⁉」

「いえ違います。首相の立場の私が言うのもあれですが、少将の場合、軍から出て巨額の国家賠償請求を請求することも出来るでしょう。おそらく、その方が金銭的にはずっとお得だと思いますが」


「本当に刈谷首相って政治家ですか? 思ったことをそのまま正直に口にし過ぎでは?」


 おせっかいだが、この人がこの国の首相で大丈夫なのだろうか?

 外交の時とか大丈夫?


「最近は、神谷少将のあげてきた戦果のおかげで外交が楽なんですよ。相手から、一方的に気を使われる立場と言うのは実に気持ちがいい」


 ああ……そうやって、無邪気な子供みたいに裏表なく正面から来られた方が、相手はかえってビビッて、道を譲っちゃうわけか。


 今の俺みたいに。


 しかし、この人も立場上、俺の抱えている爆弾。


 ガキが強制的に戦場で戦わされていたという、今回爆発した爆弾なんか比較にならないほどにヤバい事実を知らされているはずだ。


 それでなお、こうして明け透けに俺に接することが出来るんだから、大した胆力だ。


「じゃあ、俺はこのまま軍にいていいんですね?」

「ええ。幸いにも、今の神谷少将は学生の身分です。世論の反発もあるでしょうが」


「16歳が学校に通って何が悪い! で通すわけですね」


「現状維持こそが、神谷少将の望むものだと推察しましたが違いましたか?」


 微笑みを口元にたたえながら、刈谷首相が俺の目を見て尋ねる。


「いえ、刈谷首相のお見込みの通りです。突然の議場への乱入、大変失礼いたしました」


 軍属として、この国の一国民として今までの無礼を詫びる。


「おや、帰るのですか? これから楽しい楽しい、粛清者リストの作成ですよ」

「そういうのが楽しいって思えるなら、やはり刈谷首相は政治家向きですね」


 今度は俺が苦笑いする番だった。


 ともあれ、首相から学園に通い続けて良いという言質を得たので、俺としては勝ちだ。

 後のきな臭い話は、勝手に進めてくれて構わない。


「ああ、それと。今回、神谷少将の情報を売った不届き者については、目下、専門チームが対応中ですので」


 もう帰ろうと席を立った俺に、刈谷首相が伝達事項を伝えてくる。


「解りました。判明したら連絡ください。それでは失礼します」


 思ったより早く事が住んだので、午後の授業からは参加できるかと思いつつ、俺は速水さんの空間転移で閣僚会議場を後にした。


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