第120話 終戦間際なのにジャングルが俺を呼んでいる
「あ、見つけた。ここがチェックポイント3か。キーワードは2196。記録お願い琴美」
「2196と。はいOK」
「平和だな~ 補習がこんなオリエンテーリングでいいのかな」
「教官たち、私たちに明らかに気を使ってくれてるよね。あ、前方10メートルくらいにブービートラップあり。チュウスケの電撃で無効化っと」
秋めいてきた実習林の中を、俺と琴美の2人は、任務のために学校を休んでいた代わりの補習としてオリエンテーリングを行っていた。
「琴美も成長したな。最初のペア演習では、思いっきり初歩的なブービートラップに引っかかりそうになってたのに」
「そんなルーキーの頃の事、思い出させないでよ」
琴美がハニカミながら、ぬいぐるみのチュウスケで電撃を放ってブービートラップを破壊する。
「けど、慣れてきたなって頃が一番危ないから気をつけて。そこの、地面にある解りやすく設置されてるトラップワイヤーの木の上に、赤外線式炸裂弾が設置されてる。地面のトラップを解除しようと屈んだらドカン! だ」
「あ……本当だ」
俺に指摘されて、照れくさそうにしながら、琴美が木の上部にも電撃を這わせる。
「やっぱり、野外戦はユウの方が経験値が上だね」
「まぁ、ジャングル歴は長いからね」
「結局、私はこの間、ユウと一緒に行ったジャングル戦しか前線経験は無かったな」
「なに? 琴美。もっと前線の経験してみたかったの?」
「うん。戦争なんだから不適切な発言かもだけど、前線への憧れって言うのはあるかな」
「じゃあ今度、ジャングルの少数民族に振舞ってもらった、食べられる虫料理盛り合わせを」
「今、前線への憧れのすべてが消えたから大丈夫だよ」
結構、美味しい虫を厳選するのにな。残念。
「まぁ、東方連合国とも先日、たたき台の停戦協定案が合意成立したからね。これで、ユーロ圏とアメリカ大陸と合わせて、ほぼ全ての世界との和平が成立となれば、平和になるね」
「そうだね。クリスマスには戦争は終わるかも」
琴美の言う通り、これでようやく、戦争は終わる。
魂装能力という、新たな力を人類が得たが故に発生した第三次世界大戦。
世界を巻き込んだ覇権争いは、日本という、一応の覇者が君臨することで幕を閉じようとしていた。
「世界の潮流に飲み込まれる形で、嫌々世界大戦に参戦させられたこの国が、最終的に今後の世界の覇権を握るというのは皮肉なもんだね」
「東方連合との和平が一気に進んだのは、やっぱり美鈴ちゃんのおかげだね」
「美鈴の国外逃亡は、結果的には東方連合の兵の命を何万人も救うことになったね」
「ジャングルに行く機会がなくなって、ユウは寂しい?」
「いや全然! もうすぐ冬だから、今年は炬燵に入ってヌクヌクするんだ」
「いいね! 炬燵でミカン」
「後は、炬燵で丸くなる猫がいれば完璧だな」
「ハァ、ハァ……呼んだ? ユウ君」
「虎咆先輩……なんで、実習林に戦闘服じゃなくて制服のまま来てるんですか」
猫と聞いて飛んできたのか、ミーナが実習林に侵入してきた。
監視している教官の居ないオリエンテーリング演習だったせいか、警備はザルなようだ。
「え? 2人の邪魔しようと思って」
ミーナははつらつと、正直に動機を供述した。
しかし、戦場を模した実習林に制服姿の女子高生がいると、違和感が凄い。
「ユウ。これはきっと、教官が仕込んだ模擬敵兵だと思う。即刻射殺を」
「たしかに怪しいけど、誰何も無くいきなり発砲は、流石にダメだよ琴美」
「ワタシ、トウコウシマース。ホリョ、ナラセテクダサーイ」
「何を言っているのか解らない。撃とうユウ」
「ちゃんと日本語だったでしょ!」
監督官の居ない実習でなかったら大目玉を喰らうであろう、おふざけをしながら、結局、その後の実習は琴美とミーナにひっつかれながら進むことになった。
◇◇◇◆◇◇◇
「ちょっとジャングル行ってきてくれ祐輔」
「フラグ回収早すぎません?」
「何の話だ」
補習のオリエンテーリングが終わって、結果を教官室に届けた所で、高見学園長に捕まったのだ。
「なんで、もう世界大戦も終局しようって時にジャングル⁉ 俺って、ジャングルの事好きだと上層部に思われてます?」
「内容を読めば解る」
そう言って、高見さんは俺に指令文を寄越してくる。
「ええっと、なになに……今回の任務は救出任務ですか。紛争地帯からの邦人軍人の救出で、対象と場所は……」
最初は軽く愚痴りながら読み始めたが、そこに書かれている内容を読むと俄然興味が湧いてきた。
「ユンカー要塞ですか……なるほど。確かに、彼らにとっては、戦争なんて微塵も終わってないっすね」
「そうだな」
ユンカー要塞とは、東南アジアで東方連合国と、長年、民族国家独立闘争を続けてきた少数民族であるハオ族の難攻不落の要塞だ。
「懐かしいっすね。高見さんの部隊の時に、彼らには世話になりましたから」
敵の敵は味方という事で、当時所属していた高見中隊は、ハオ族と共闘したことがあったのだ。
「あそこの食事は、ちょっと受け付けなかったがな」
「俺もです」
2人とも苦い顔をしつつ笑顔なのは、当時の彼らがとても気さくに我々に接してくれたフレンドリーさと、それに対して、ハオ族の伝統料理が、あまりに日本人の自分たちには合わない味だったギャップを思い出していたからだ。
「しかし、今回の救出対象の人の名前を見るに、もしかして……」
「ああ。小箱中佐の姉だ」
「珍しい苗字だからもしかしてと思ったけど、トシにぃって姉ちゃんがいたんだな」
軍人になるような人間の中には、あまり家族のことを喋りたがらないという人も多い。
家族思いだと、家族の話をすると里心がついて泣き出したり、家庭環境が複雑で家族から逃げるために軍に入ったという者が気まずい顔をしたりと、割と会話の地雷源なので、自身から語りだしたりしない限り、戦場では家族の事はあまり詮索しないのが暗黙のルールだった。
トシにぃは、そういう意味では黙して語らずの方だった。
「じゃあまずは、トシにぃにお姉さんの情報を聴取しないとだ♪ 任務上必要だし♪」
「任務はお前に一任されてる。隊の編成で必要な人員は、お前の権限で連れていけ」
よっしゃ!
これなら、大手を振ってトシにぃと一緒に居られる。
俺はルンルン気分で、既に暗記しているトシにぃの勤務する軍幼年学校の教官室へのダイヤルインの電話をコールするのであった。
120話到達!
世界大戦が終わりかけで、そろそろ最終章へ向けた話になって来ましたね。
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