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第117話 沖縄おでんはマジで美味しい

「沖縄おでん美味しい」


「確かに。おでんに豚肉とレタスって珍しいけど、卵や大根の一般的なおでんの具材とも合うな」


 桐ケ谷ドクターたちが行きつけの沖縄おでん専門店は、冬はもちろん、暑い夏でも一年中おでんを出すお店として有名だそうだ。


「美鈴はどうだ?」

「うん、美味しい。豚は向こうでも食べ慣れてるし」


 座敷の部屋でちょこんと座りつつ、マグマグと口を動かしながら美鈴が答える。


 沖縄料理は個性が強い分、苦手にしている人も多いが、これなら万人受けしそうだ。


「沖縄ではコンビニでも沖縄おでんが食べれますよ」

「豚足は難しいですが、豚の角煮やレタスを入れるのは家でも真似できそうですね。おでんなら私にも作れますから、今度やってみますユウ様」


「お、いいね速水さん。じゃあ、いっぱい食べて料理の参考にしないとだね」


「女将さん。おでん10人前追加で」


 早くも自分の分を平らげた美鈴が、挙手しておでんを追加注文する。


「あの……神谷殿たち……ちょっと、頼みすぎなんじゃなかろうかと、吾輩愚考するのですが……いかがかなもんでしょう?」


 桐ケ谷ドクターが、わざとらしくこちらと、手に持った財布の間を激しく視線を往復させてアピールしてくる。


「大丈夫だよ桐ケ谷ドクター。なにせ、こちらには無尽蔵の胃袋をもつ美鈴がいるからね。食べ残すことはないよ」


「いや、お残しの事ではなく、吾輩のお財布の中身を心配してたもれ~~!」


 悲痛な叫びをあげる桐ケ谷ドクターの横で、副官が助け舟を出す。


「皆さん。このお店は、〆におでんの汁に沖縄そばの麺を入れて、オリジナルの沖縄そばにするのがお勧めですよ」


「へぇ~美味しそう」

「沖縄では、〆の麺もやっぱり沖縄そばなんだね」


 おでんの出汁が美味しいだけに、〆も美味しそうだ。

 皆の興味は、俄然〆に向けた空気になる。


「トゥンク……名取氏、私の事を気遣って、〆に誘導してくれるなんて……日頃は厳しい言葉の刃を投げつけてきますが、やっぱり、私の事を大事に想ってくれてるでござるな」


 乙女モードになっている桐ケ谷ドクターだが、


「〆の沖縄そばは具だくさんの方が美味しいので、先ほどのオーダーでは少々、おでんダネが足りなくなると思います」


「名取氏ぃ~⁉」


 まさかの背中から副官に撃たれるパターンだった。


「じゃあ、女将さん。おでん、もう5人前追加で」

「あいよ~」


 名取さんのアドバイスにのっとり、さらにおでんの追加注文をする。

 こういうお店では、常連の人のアドバイスには従っておくのが間違いないのだ。


「名取氏……信じてたのに……ちくしょぉぉぉぉぉおお!!」」


 勝手に信じて勝手に裏切られた桐ケ谷ドクターは、やけくそになって泡盛をあおっていた。




◇◇◇◆◇◇◇




「ふぅ~、旨かった」


「ご馳走様です。桐ケ谷ドクター」

「トホホ……」


 沖縄おでん専門店を出た時には、空はすっかり暗くなっていた。


 そして、これまた、すっかり軽くなった財布をペラペラさせながら、桐ケ谷ドクターはトボトボと街中の雑踏を歩き出すので、我々も後ろについて行く。


 その背中は煤けていた。


「あ、そう言えば、前回の沖縄合宿では、名物の〆のステーキは食べれなかったんですよね」

「ぶっふぉ! まだ食べるのですかな⁉ 〆の沖縄そばも食べたでござろうが!」


 財布が軽くなった桐ケ谷ドクターに、更なる追い打ちであr。


「いやいや、美鈴はあれでも遠慮してたんですよ」

「ステーキなら10ポンドはいける」


「いや、10ポンドって5キロくらいじゃないですか。幼女の体躯で、どこにそんな量が入るというのでござる⁉」


「ほら、興味深いでしょ? ここは研究者として、きちんと観察しないと」


「確かに興味深いですな。食べた後の排便の量とかは一体どうなってるのでしょうな」


「桐ケ谷所長、セクハラです」

「これからステーキ食べに行くのに、ウ○コの話をしないでください桐ケ谷ドクター」

「捕虜国際条約違反」


 ちょっと研究者モードに入った桐ケ谷ドクターは、皆から総攻撃を喰らう。


「いや、これは純粋な研究者としての知的好奇心で、単に美鈴殿がステーキを食す様子を見たいだけというか」


「じゃあ、ステーキ屋に行くこと自体は桐ケ谷ドクターも賛成ってことだね」

「し、しまった⁉ ズ、ズルいですぞ神谷殿。そんな言質を取るような真似を」


「どこかお勧めのステーキ店ってあります? 名取さん」

「そうですね。この辺りだと」


 名取さんが、スマホを操作して店を探していると、不意に美鈴が立ち止まる。


「スンスン」

「どうした? 美鈴」


 目を閉じて、鼻を規則的にひくつかせながら美鈴が集中している。


「なんだか臭いがする」

「ステーキのか? 美鈴も琴美みたいに鼻が良いんだっけ?」


 話の流れから、俺はてっきり美鈴が〆のステーキ店を嗅覚で探し当てたのかと思った。


「ううん、違う。火事」

「火事⁉」


 予想外の美鈴の言葉に、ギョッとする。


「向こうの1ブロック先から煙の臭いがする。これは建材や断熱コンパネが焼ける臭い」


 そう聞いて、俺も嗅覚に五感を集中させる。


「たしかに、これは市街地戦と似た臭いだ」


 そう言えば、最近は平和で忘れていたが、美鈴もまた数多の戦場を駆け抜けてきたのだ。

 戦場でこびりついた癖や感覚は、そうそう直ぐに拭い落とせるものではない。


「まだそこまで燃えてないと思う。急ごう」


「あ、おい美鈴!」


 タタタッと駆け出す美鈴を、俺たちは慌てて後を追いかけた。




「このビルか」

「どうやら爆発物などを用いたテロによる火災ではありませぬな」


 美鈴が辿り着いた先には、ちょうど黒煙を上げだした3階建ての個人商店があった。

 1階に飲食店のテナントが入っていて、2階3階は住居のようだ。


「飲食店からの失火ですかな。敵軍からの攻撃ではないので一般消防の範疇なので、軍の我々は管轄違い。とは言え、このまま火災初期に出くわしたというのに、見て見ぬふりをするのも寝覚めが悪いですな。名取氏、頼むでござるよ」


「了解しました。魂装発動します」


 桐ケ谷ドクターの命により、名取さんが障壁術式を展開する。

 展開された障壁フィールドが、燃える家屋をすっぽりと覆う。


「おお、術式構築も展開も速い」


 名瀬会長の防衛用障壁術式もかなりのものだが、名取さんの障壁フィールドは、対象を正確に、そして迅速に覆うことに長けているようだ。


「でしょ、でしょ~? 将来の伴侶が褒められで恐悦至極でござるぅ~」

「桐ケ谷所長。パワハラです」


 障壁術式を維持しながら、名取さんは視線すら寄越さずに、いつも通りの切れ味で桐ケ谷ドクターの求婚を弾き返す。


何はともあれ、これで隣接の建物への延焼は防げる


 繁華街ゆえに、隣接建物との距離が近い分、次々に延焼して行くのが怖いので、初期対応としては上出来だ。


「後は、消防が到着するのを待つだけですかねぇ」


「そうですね。って、あれ? 美鈴は?」


 名取さんの見事な障壁術式の展開につい気を取られていたら、いつの間にか美鈴がいない。


 一応、俺は美鈴のお目付け役なんだから、見失うのはまずい。


『あっちですよマスター』


「あ、いた。って美鈴⁉」


 コンにフォローされて見つけたのは、美鈴が黒煙を上げる建物の入り口に全力疾走で駆け込んでいる後ろ姿だった。


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