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第11話 瞬殺

 翌日の放課後


 俺とミーナは決闘場の控室にいた。


「決闘って現代法律で禁じられてるんじゃなかったっけ?」


 最近の日本はろくでもないが、この学園は輪をかけて法令遵守の精神がアカンようである。


「この学園じゃ話し合いじゃ決められないことが多すぎるからっていうのが理由みたい。っていうか、学校では虎咆筆頭って呼ぶ!」

「はい……けど、ミーナと俺の関係はすでにバレちゃってるよね」


「う……それは……」


 俺は今回の決闘に際し、賭けるものについて相手が提示してきたことについて記載された紙書類をヒラヒラさせながら言った。


『虎咆2学年筆頭は、1学年 神谷生徒と不適切な関係にある。著しく筆頭としての資質に欠けると判じるため、筆頭の座を賭けて勝負されたし』


「不適切な関係だなんてそんな~♪ ま・だ・私とユウくんは清い関係で~♪ でも、周りからは隠してても、そう見えちゃうか~♪ 困ったな~♪」


 俺が周防の要求の内容を読み上げると、ミーナはくねくねとしていた。

 そうだね。ちょっと、家で人語を喪失する時間があるだけだから清々しいもんだよね。うん。


「じゃあ、さっさと終わらせてくる」


 まだクネクネしながら独り言を言っているミーナを置いて、俺は決闘の本会場へ向かう。


「本当に、ユウくんに任せても大丈夫なの?」

「うん、譲ってくれてありがとう、ミーナ」


 最初はミーナは、俺が決闘の場に出るのを反対していたけど、男の子に格好つけさせてとか適当に言ったら、悶えながらOKしてくれた。


「正直、こういう一騎打ちのシチュエーションだと、周防君と私の魂装能力の相性的に、向こうに分があるしね……」

「周防先輩は、スピード系統の魂装能力だから、ミーナの範囲攻撃系統の能力だと初撃を躱されたらアウトだろうね」


 スピードタイプで白刃装備なら、接近を許せばアウトだ。


「策はあるの? ユウくん」

「ま、見ててよ」


 そう言って、俺は決闘場の本会場へ足を踏み入れた。



「うおおおぉぉぉおお! やってやれ周防さん‼」

「生意気な1学年の坊主に現実を思い知らせてやってください!」



 決闘場には観客席もあって、主に2学年が声援や野次を飛ばしている。

 1学年も観客席にいるようだが、俺への声援は絶無だ。


 入学してまだ2日の同級生に思い入れなんて無いし、何より先輩に目をつけられるのを恐れているのだろう。


「人気っすね周防先輩。声援は男からばっかりっすけど」


 俺は、闘技場のフィールドで対峙する周防先輩に声をかける。


「この状況で軽口が叩ける胆力と、虎咆の代理でこの場に出て来た気概は褒めてやる」


「この決闘の本来の標的は俺でしょ? ついでにミーナの筆頭の座にケチも着けられて、周防先輩的には一石二鳥ってわけだ」


「正直、お前が決闘の場に出て来たことは想定外だ。入学早々の1学年に勝ったところで自慢にもならん。お前は、そこまで見通してこの場に出て来たのか?」


「さぁ、どうでしょう? あと、戦う前から、勝った後の皮算用してると足元すくわれますよ」

「ぬかせ。この間の不意打ちならともかく、正々堂々の戦いで俺が1年坊のお前に負けるか」


 ここで、審判が2人の間に立ったので、会話は終わった。


 正々堂々の戦いね……


周防先輩も、大概ズレてるな。


現実の戦場に正々堂々の精神を持ち込む奴なんて迷惑でしかない。


そりゃ、最低限のルールはあるが、命のやり取りの現場で矜持だ見栄だなんて、死亡フラグの材料にしかなりゃしない。


 一般の兵はもちろん、将校や将官だって、本音を言ってしまえば死ぬのは御免だからだ。


「両者、魂装能力を纏え!」


 レフェリーが号令をかける。


 周防は、刀を抜き上段の構えをとる。

 どうやら、周防は刀と全身に魂装の力を纏わせる能力のようだ。


 俺は手元にガーランドライフルを生成する。


「ガーランド銃だと。そんな骨董品で、儀仗パフォーマンスでもする気か?」

「あ、骨董品って言うと怒るんで言わない方がいいっすよ」


 俺は、ガーランド銃の銃床を地面につけて、カチンッ!と音を立てて、儀仗隊の演技前の待機のような構えをとる。


「怒る? 誰がだ」

「誰って。俺の魂装の魂魄がですよ」


「ハハハッ! お前は、魂魄と会話が出来るのか。お前は男のくせに不思議ちゃんタイプなんだな」


 コンと内心で会話できるのは事実なんだけどな……


『低級の魂魄に人語は解せませんからね』

『俺も、魂装能力者になりたての頃、よく周りに不思議がられたな』


 戦場でも色んな魂装持ちと会って、魂装能力について話したけれど、コンみたいに魂魄と話せるって人には会ったことがない。


「ハンデだ。初手はくれてやる」


 ハンデと言っているけど、要はこちらの攻撃を躱してカウンター狙いというのが、周防先輩の作戦なんだろう。

 下級生相手だし、外向けのメンツも意識しつつの発言なんだろう。色々大変だね。



『解析できてるな』

『はいマスター。脅威度は2です』


「はじめ!」



(ズドンッ!)



 レフェリーの開始の号令と同時に、発砲音が鳴る。


 俺の手元のガーランド銃は銃床を地面につけたままで、体勢も開始前の待機状態のままだ。


しかし、突然、天から雷が落ちて来たかのような衝撃を受けて、周防先輩はそのまま膝から崩れて昏倒する。


 この決闘では、致死性の攻撃を1回は無効化してくれる特殊フィールドが闘技者に張られているので命を落としたりはしないが、攻撃の衝撃は本人に伝わるので、周防先輩は頭部への衝撃で気を失っている。


 始まる前はあんなにうるさかった観衆は、シンと静まり返っている。


「自分の上空に銃座が生成されていたのに気づかないなんて、まだまだっすね」


 目の前で構えたガーランド銃はただの囮。

 俺の魂装能力は単純な射撃能力ではない。


 俺の持つ、相手を圧倒する飽和爆撃攻撃の魂装能力は、相手の脅威度に応じて、その姿を変える。

 強大な敵が相手ならばこちらは、それを圧倒する火力を生成し、実行する。


 手元にあるガーランド銃と、空に生成した銃座。

 この2丁が、周防先輩に対する俺の魂装であるコンの評価だった。




「ユウくんつよ~い♪」


 選手控室に戻って来た俺をミーナがはじけるような笑顔で歓待する。


「戦闘の経験は俺の方が豊富だからね。勝って当然さ」

「研究所でも、戦闘ってやるの?」

「ん……? う~ん、まぁ模擬戦みたいなね」


 俺は控室のソファにドカッと座り込んで、ミーナが差し出してくれたタオルで汗を拭いながら、適当にお茶を濁した。


「これで、周防くんも大人しくなると思う。本当にありがとうユウくん。何か御礼させて」


 いつの間にか、ミーナが俺のすぐ横に座ってくる。

 腕と腕が触れ合うくらい近い。


 ソファの他に、椅子もあるんだけどな……


「そ、そうだね……」


 くっついてくるミーナにドギマギしながら答えた。

 熱いまなざしを向けるミーナの碧眼の瞳に思わず吸い込まれてしまいそうな……



「うおっほん!」


「「うひゃっ‼」」


 突然聞こえた咳払いの声に、俺とミーナは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「速水……先生」

「うそ……なんで⁉ この後のニャンニャンのために控室のドアのカギは二重にかけたのに」


「虎咆さん。ここは学園の施設なので、いかがわしい行為をすると学年筆頭と言えど、処分が下りますよ」


 狼狽するミーナに、速水さんが冷たい視線を投げつける。

 この人、次元転移の魂装能力を使って控室内に侵入したな。


「なんです? 私とユウくんの間にいかがわしい行為なんて一切ありませんよ」


 ミーナは曇り無き眼で速水さんに食って掛かるように抗議する。

しかし、ネコちゃんごっこは、あまり健全な行為とは言い難いのではないだろうか。


「不純なものであるかどうかは、教官である私が判断します」


 キリッとした女教官の速水さんが、冷徹な目でミーナを見下ろす。


速水さんの趣味が、今のところ俺の中でぶっちぎりで不純なのだが、この人、自分のことは全力で棚に上げているな。


「そもそも、断りもなく入室するのは、いくら教官だとしても横暴だと思います」

「担任生徒の貞操の危機であると判断しました」


 お互い一歩も引かぬ主張の応酬が繰り広げられ、すっかり蚊帳の外になってしまった俺は、ふとスマホに目をやると、呼び出しの連絡が来ていた。

 俺は、キャンキャンやり合っている2人を残して、そそくさと決闘場を後にした。




◇◇◇◆◇◇◇




「早速やってくれたな」


 学園長室で、高見学園長が渋茶を飲んだ時のようなしかめっ面をしている。


「決闘の観覧って昔は庶民の娯楽の一種だったらしいですね。あんな瞬殺で、観客はガッカリだったでしょうね。申し訳ないです」


 俺は、学園長室で茶菓子のせんべいをバリボリと頬張りながら高見学園長に相槌を打った。


「謝るのはそこじゃねぇよ。いきなり目立つ真似をしよってからに」

「瞬殺過ぎて、俺の魂装の本来の力は解んなかったでしょ」


 煎茶をすすりながら俺は事も無げに言った。

 先ほどの周防先輩との決闘は、内容的にも不意をついての勝利と言う評価になるだろう。


「お前は、この学園に来た目的を忘れてるだろ」


「平穏無事な学校生活ですね。あ、そう言えば、速水さんを俺のクラス担任にするとか何考えてるんですか」


 俺はいい機会だからと、苦情を申し立てた。


「速水少尉が、お前のバディだろ? なら、クラス担任にしておくのが接触を疑われずに済むだろうが」


「俺、あの人に狙われてるんですよね」


「狙われてる? 命をか?」

「人としての尊厳です」


 赤ちゃんプレイをさせられて、しかも万が一、自分がそれにハマってしまったら取り返しがつかない。

 性癖と言うのは、若い頃の経験で大きく捻じ曲がったりもするらしい。

 そういう意味では速水さんは最早手遅れだし、ミーナも生コンクリートに片足を突っ込んだ状態と言えるだろう。


「話が読めんのだが」

「速水さんが何か問題をおこしたら高見学園長が責任とってくださいね」


 高見学園長は困惑しているが、さすがに速水さんの性癖を暴露するのはかわいそうなので、俺の胸の内に秘めておくことにした。



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