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第102話 ボーイミーツガール

 空から女の子が降ってくるのはボーイミーツガールの定番だ。

 だが、小説や漫画の世界ならばドキドキワクワクするが、いざ自分の身に降りかかると、



「心音、自発呼吸確認良し! 擦過傷、出血軽微! 高所落下のため、頸椎保護!」


 単純に生命の継続の危機に瀕している可能性をまず心配して、恋のドキドキなんて欠片も起きない。



 俺は、前線で染み付いた応急救護と意識レベル確認を、落ちてきた少女に行う。


 


「聞こえてるか! 聞こえてるなら返事しろ!」


 俺は幼い少女の首を動かさない程度にペチペチと頬をはたきながら、大声で声掛けをする。


「聞こえてます……あの、これは……」

「馬鹿! 不用意に動くな! 脊椎損傷疑いの時には絶対安静だ!」


 会話が出来て、意識はハッキリしているようで一安心だが、身を捩らせようとする少女の身体を、俺は慌てて止める。


今は、少女を仰向けに寝かせて、俺の太ももでガッチリと少女の頭を挟んで動かないようにしている。


「あの……なんだか頭頂部に、ブヨブヨした名状し難い感触が伝わるんですが」

「……我慢してくれ」


 少女が苦情を訴えるが、残念ながら受け付けられない。


 ガッチリと股で挟んで少女の首を動かさないように固定する関係上、どうしても股間のイチモツさんも、少女の頭を固定するのに参加してしまうのだ。


「琴美たちまだかな……」


 命に別条がある訳ではなさそうなので、とりあえず近くに居る名瀬会長と琴美を無線で呼んだのだが。


「あ……あの。その……」


 しかし、この女の子は何なんだろう?

 俺は、ようやく股に頭を挟みこんだ少女を見下ろす。


 まぁ、歳で言えば16歳の俺もまだ少年なのだが、この女の子は歳の頃は10歳未満だろうか?


 華奢な体型で、栗色のフワッとした髪は背中まで伸びている。


 最初は、巡航ミサイルの迎撃の破片落下に巻き込まれたのかと肝を冷やしたが、冷静に考えるとその線は薄い。


 なにしろ、少女が服を一切まとっていない素っ裸で森の中に居るというのは異様な事態だ。

 これは、場合によっては警察案件か……


「あの……あまり、ジロジロと見られると、その……恥ずかしい……です……」


「ああ、ごめん」


 そうだよな。

 子供とは言え、女の子。


 男に裸を見られて平気な訳ないよな。

 突発的なことが起きて冷静さを欠いていた。


 とは言え、女児用の服なんて当然持っていない。


「俺の上着で良かったら使ってくれ」


 そう言いながら、俺は少女が首を動かさないように膝立ちしながら、制服の上着を脱ぐ。


「ユウ、緊急事態って何よもう。虎咆先輩のステージがもう終わりかけだから観に……」


 ちょうど脱ごうとした上着を手に持った所で、無線で連絡した琴美と名瀬会長たちが来た。



(ピキ~~~ン‼)



 そんな幻聴が聞こえてくるくらい、場の空気が固まった。


 ここで、琴美たちの視点から、今の俺の状況を客観視してみよう。


 素っ裸で地面に寝かされた小学生くらいの女児の顔の上をまたぎ、自身の股間を女児の顔の至近距離に見せつけつつ、服を脱ぎだしている男子高校生の俺。


 それにより、導き出される答えは。



「名瀬会長、ユウの身柄を確保。殺さないでね」

「ハッ!」


「ちょっとま、ぶへっ!」


 弁明の言葉を言う暇も与えられず、俺は名瀬会長の障壁フィールドでサンドイッチにされた。




◇◇◇◆◇◇◇




「それで、この子は何なの? ユウ」

「俺も……それを……聞かないとと……ハァ……思ってですね……」


 名瀬会長の防御フィールドで圧迫から解放されたが、まだ呼吸が整わない。


 あの後、何とかあれは必要な応急処置でという事を、サンドイッチされて息も絶え絶えになりながら説明して、何とか解放されたのだ。


 冤罪だったのに、琴美たちからの疑念がまだ晴れ切ったとは言い難い様子なので、大人しくしている。


「あなた、名前は言える?」

ひらさくめいりんです」


 琴美の問いかけに、少女は俺の上着に包まりながら答える。

 不安気な表情だが、この歳にしてはかなりしっかりとした受け答えをする子だ。


「そっか、美鈴ちゃんか。お父さんやお母さんは一緒に来てるのかな?」

「いないです……」


「お父さんとお母さんは家に居るのかな? それともお仕事?」

「ううん。美鈴が物心ついた頃には、もういなかった」


「そっか……」


 名瀬会長が無言で、美鈴ちゃんの頭を撫でる。


 辛い事実を小さな子供に言わせてしまったことに対する罪悪感だろうか、名瀬会長の声もいつもより柔らかな物だった。


 美鈴ちゃんの話からすると、両親とは既に死別しているという事なのだろうか。


 となると、保護者は一体誰になるのか……


「一先ず生徒会室に行こうか。しかし、何か着替えが無いとな」

「私のクラスの出し物のコスプレ喫茶のコスチュームに使えそうな物があったはずだから持ってくる」


 琴美は一度自分のクラスに寄って、美鈴ちゃんが着る物を見繕ってきてくれるようだ。


あ、そう言えば生徒会室を真凛ちゃんに任せたままだ。

 これは怒られるかな……


 そんな事を考えながら、俺と名瀬会長は背後に美鈴ちゃんを隠しながら、学園祭の雑踏の中を進んで、生徒会室へ向かった。


頸椎保護ネタはU-15サッカーの書籍版にも出てきます。

むこうは可愛い女の子が太ももで頭を挟んでくれるから安心だ!


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