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第100話 凱旋 戦場の歌姫

「はい。関係者以外は入らないで」


 出演者たちの控室として準備した部屋の扉の前には、他の音楽隊の隊員が、まるで憲兵のように立っていた。


「あの、特務魂装学園の生徒会の者です。ステージの段取りもあるので、虎咆先輩と段取りの打合せを……」


「必要ない。我々はプロフェッショナルだ。ボーイスカウト、ガールスカウトの君たちの、ごっこ遊びに付き合う暇は無い」


 おお……まるで歴戦の兵士みたいな言い草だ。

 この人たち音楽隊だよね?


 たまの訓練の時にしか銃も持たないはずだけど。


「最近は、世間で人気の虎咆上等兵狙いで、劣情を抱く輩が後をたたないからな」


「同じ学び舎で学んだ仲でワンチャンスあるという浅はかな考えは捨てろ、既にあの方は、お前たちとは住む世界が違うのだ」


 いや……なんだかミーナの周りがどんどん大袈裟になってきてるな。


「ですから、その戦場の歌姫のステージを成功するために我々が来てる訳なんです。心配しなくても、ミーナなんて見慣れてるから、劣情がどうとか知らんです」


 頑なな警護役に段々と嫌気が差してくる。


「貴様、二等兵の最底辺が上官に向かって何という口のきき方だ!」

「これは教育が必要だ! 腕立て伏せの体勢を取れ!」


 俺と琴美は顔を見合わせる。


 目の前に居る警護役の音楽隊の兵は、こんな雑用をしているだけあって、今日は出番のない若手だろう。


 今、教育的指導をしようとしている相手である俺と琴美の階級が、それぞれ少将と特務少佐だと伝えたら、この血気盛んな若手音楽隊員は、いったいどんな顔をするのだろうか。


「そこまでです。お二人とも。彼と彼女は大事な後輩なんです」


 階級章でもチラ見させようかしらと考えていたら、騒動を聞きつけてかミーナが控室から出てきて、警護役の音楽隊員をたしなめる。


「虎咆殿。本日は、学園まで御足労いただきまして、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 ここは、警護役の隊員の手前もあるが、ミーナの業務としての打合せなので、俺も琴美も一応仕事モードで応対する。


「ぷっ! そんな畏まられると笑っちゃうから止めてよ。いつもみたいにお願い」


 いつもと違う畏まった態度の俺と琴美に、ミーナはいつもの気安さで俺たちに笑いかけてくる。


 最初の頃は着慣れないと言っていた軍の式服を、今やビシッと立派に着こなしたミーナは、やはり一回りも二回りも成長している。


「じゃあ、いつもみたいに。ステージの段取りの打合せしたいんだけど、時間いいかな?」


「うん。今、こっちの隊長も呼ぶね。さっき見たけど、ステージ凄く本格的だね。準備、大変だったんじゃない?」


「うん。俺と琴美の目の下のクマを見て貰えば解ってもらえるかな……」

「気を抜いたら、立ったまま眠れそうです」


 今は、学園祭本番のテンションで乗り切れているが、多分、終わったら生徒会は全員倒れるだろう。


「……大変だったね。全国ツアーで私も大概忙しいけど、移動中にコテンと寝る術を身に着けてからは、細切れだけど睡眠時間は確保できるようになったからな~」



 そんな俺たちの悲壮さを見て、ようやく警護役の隊員もたじろいで大人しくなってくれた。


「じゃあさ。学園祭が終わったら、皆で癒しスポット行こうよ。ちょうどその頃、全国ツアーの合間の時期で、音楽隊から休暇貰えてるし」


「癒しスポット? 猫カフェとか?」


 今はモフモフは、クマさんのナイトウェアのモコモコで足りてるから、ぶっちゃけ寝たい。


「スパリゾート。ミーナ先輩が奢ってあげよう。普段の給料プラス、兼務のお手当が出てるから」


「「ミーナせんぱぁぁ~~い‼」」


「おお、よしよし」


 俺と琴美は、いたいけな後輩としてミーナ先輩の胸の中で泣いた。




◇◇◇◆◇◇◇




「周防先輩、お疲れ~」


「神谷か、お疲れ。ステージの打合せは済んだのか?」

「うんバッチリ。そっちは?」


「ステージ入場者も締め切ったから、あとの仕事はステージが終わった後の観客の誘導だな」


 観客席で今や遅しとステージの開幕を待ちわびて、熱を帯びる観客を見渡しながら周防先輩が答える。


「じゃあ、ゆっくりミーナのステージを観れるね」


「名瀬の防御体制の準備は整ってるのか?」

「うん。さっき、琴美が一緒に配置に……って、あ、そうだ! 今、生徒会室に誰もいないじゃん! 俺が詰めてないといけないんだ。ウッカリしてた」


 何かトラブルがあった時に、流石に生徒会室がもぬけの殻状態は避けなくてはならない。

 俺だけいても、役職的には一番下なので、結局は名瀬会長に判断を仰がねばならないが。


「なんだ、虎咆のステージ観れないのか?」

「生徒会室で動画配信観るからいいよ」


「いや、それは良くない。ちょっと待ってろ」


 そう言うと、周防先輩はインカムを掛け直す。


『ああ、真凛か? 虎咆のステージの間なんだが、生徒会室に神谷の代わりに詰めてやってくれないか?』


「え、そんな悪いよ……」


 俺は慌てて周防先輩を止めようとするが、周防先輩は手振りで俺を制す。


『構いませんよ。私も騒々しいのは苦手ですし。何かあったら、話を聞いて名瀬会長か火之浦副会長に取り次げば良いですよね』


『ああ、頼む』


 真凛ちゃんに礼を言って、周防先輩はインカムを置く。


「どうせなら、この高台指令室から観ていけ。特等席だぞ」

「いいの? 周防先輩。職権濫用じゃん」


「今回の学園祭で一番頑張った奴らに、学園祭を少しくらい楽しむ時間と場所を与えてもバチは当たらんだろ」


 そう言って、周防先輩はまた前を向いてしまう。

 まったく、このツンデレめ。


 けど、折角だからお言葉に甘えてここで観ようかな。


 いざという時に、会場に居た方がいいし。

 そう思い直した俺は、ステージへ顔を向ける。


 ステージでは、ミーナがステージに上がって、観客席から大きな歓声が上がっている所だった。


祝 100話達成!


これからも、よろしくお願いいたします!

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