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第1話 久しぶりの帰国

新作の投稿です。

「A国、B国及びC~E国の計5か所の現地部隊より連絡届きました! いずれも、攻撃対象の壊滅を確認‼ 試験作戦NO.0033 超長距離リモート飽和爆撃作戦は成功です!」


 オペレーターの若い女性兵士の弾んだ声が、大規模指令室の中に響くと、ドォッ!とどよめきが起きる。


「ふわぁ……確認まで随分かかりましたね」


 大きなどよめきで意識を覚醒させた俺、かみ ゆうすけは、指令室にあった空いたオフィス用の椅子を何脚か並べた簡易ベッドから起き上がった。


 俺が起き上がって第一声を発すると、ザワついていた指令室内がシン……と静まり返る。


 ここは、軍の統合参謀本部庁舎の中の大規模指令室だ。

 そんな中で、呑気に昼寝しているなんて本来あり得ないだろう。


かみ少将……秘匿強度の高い情報を観測して、確実なルートでやり取りするには時間がかかるものだよ」


立派な白ひげをたくわえている軍服を着たご老人が、俺へ諭すように話しかける。


「そうなんですね。自分は戦場の最前線しか経験がないので、統合幕僚本部だとこんな感じなんだなーって感じですね。しかし、勉強になりました。通りで、現場からの増援要請してもレスポンスが鈍いわけだ」


「おい! 貴様、たちばな元帥に向かって不敬な態度が過ぎるぞ‼」


 橘元帥の横に控える副官と思しきおっさんが、声を荒げる。


「すいません。なにせ、ガキの頃にろくな教育も受けずに戦場に放り込まれたもので、軍の礼式とかついぞ教えられてないままでして。ま、今もまだ15歳のガキなんですけど」


「「「…………」」」


 言葉とは裏腹に、ちっとも悪いなんて思っちゃいない俺の態度に、周りの大人たちはまた凍り付いたように黙り込む。


「当時、我が国が非常に追い詰められていた状況だったとはいえ、幼い君に、兵士としての生き方を強制したことについては、軍として…… いや、1人の大人として……」


「いや、ちょっと現場の苦労を愚痴っただけですよ。生意気言ってすいませんでした」


 沈鬱な顔で俺に謝罪の言葉を述べようとした橘元帥へ、俺はペコリと頭を下げた。


 不遜な態度は、ちょっとした八つ当たりだ。


 今回は極秘作戦なのだから、どうせここでの発言は記録には残らないと見越した上での発言だ。


 我ながら、嫌なガキだ。


「とにかく……今日は我が国にとって歴史的な日だ。我が国の最大戦力である神谷少将が、今後は複数の戦場で展開できる事となったんだからな」


「これははや少尉の功績がだいですからね。褒めるなら速水少尉にお願いしますよ」


 橘元帥の賛辞の言葉に、俺の横に立つ速水少尉に目線を向けた。


「いえ!私は、ただ神谷少将の移動をお手伝いしただけです」


 俺が、作戦行動から帰ったままの戦闘服で椅子を並べた仮眠ベッドに寝転んでいたのとは対照的に、速水まどか少尉はキッチリと軍服に着替えている。


 黒髪のロングの髪を後ろでお団子にしてシニョンでまとめ、足元の革靴はピカピカに磨かれている姿は、絵にかいたようなエリート女性士官である。


「いや、速水少尉の次元転移のこんそうの能力があるからこそ、この戦場をまたいだ展開が可能なんだから」


「神谷少将の飽和攻撃の魂装があってこそです。私はただのポーターに過ぎません」


「いやいや、俺は本当に速水少尉には感謝してるんだから。ヤバくなった戦場を世界中飛び回らなきゃいけなかった生活に終止符が打てたんだから」

 

 こんそう能力とは、10年前にその存在が明らかとなった、様々なこんぱくの能力を借り受けて、超常的な能力を発揮することをさす。


 魂魄の力を装備できるから魂装能力。


 魂装の力は個人差があるが、俺の持つ魂装能力は、たった一人で敵の駐留基地を壊滅させる力がある。


そのため、各所の戦線から依頼が来ることになり、俺はここ数年間、ひたすら世界中の戦場を転々としていた。


「敵側としては悪夢だろうな。今までは局地的だった飽和攻撃の悪夢に、これからは毎日震えて眠ることになるのだからな」

「この情報を把握した時の敵の参謀本部の面々が、どんな青い顔をするか、見てみたいものです」

「自分だったら、ストレスから胃に穴が開きますな」

「ちがいない」


 周囲の軍高官たちも、今回の試験作戦の結果にご満悦なようだ。


「じゃあ、結果も確認できたんで執務室に戻りますね。戦闘服からも着替えたいし」


「ああ。ご苦労だった」


 元帥の声を背中に、俺は速水少尉を後ろに連れて、指令室を後にした。




◇◇◇◆◇◇◇




「あー、戦場の薄暗い塹壕でなく統合幕僚本部の綺麗なオフィスで飲むコーヒーの薫り……涙が出てきそうだ」


 統合幕僚本部の購買部で買ったドリップ用の大した豆ではないコーヒーだが、ミネラルウォーターで沸かしたお湯を使い、清潔な執務室できちんと洗浄された陶器のカップとソーサーで飲むコーヒーは格別な味だ。


 戦場では、現地でろ過した、衛生基準をギリギリクリアしているだけの、本当に不味く臭い水を誤魔化すために、コーヒーにして携行カップで流し入れるように飲んでいた。


 もう、敵の目を欺くために、ジャングルを行軍して酷い虫刺されに苦しむことも、昨晩仲良く戦闘糧食を食べていた同僚を埋葬するための穴を、携行スコップで掘る必要もないのだ。


「お褒めにあずかり恐縮です」

「本当に速水さんには感謝だね」


 自分に、まさか内地の庁舎でデスクに座りながら勤務が出来る日が来るなんて思ってもいなかった。

 自分の魂装の特性上、戦場から離れられるなんて思ってもいなかった。

それが、速水さんの協力を得ることによって、リモートワークが可能になるだなんて。


「あの、神谷少将……何度も申し上げているとおり、階級が大きく下の者に敬称なんて」

「別に2人きりの時くらいいいじゃない」

「はぁ……」


 戸惑ったような速水さんに、俺は上機嫌で砕けた言葉を返す。


「戦場では階級なんて信頼の指標にならないよ。こいつに自分の命を預けられるかどうかが全てだ。今日が、速水さんとの初めての実戦だったけど、速水さんは信頼に値するバディだと俺は思ってる。これからもよろしく」


「は、はい! これからもよろしくお願いいたします!」


 速水さんはピシッとした女性士官の顔から、感激で思わず表情が綻んでいる。


「速水さんは、平時は俺の副官もしてくれるんだよね」

「はい。いつでも神谷少将と共にあります!」


 お、おう。何だか、凄く気合が入っているな。


「俺はまだ15歳のガキだから、色々扱いにくいかもしれないけど、よろしくね」

「いえ、その点が最こ…… 失礼! 救国の英雄として、神谷少将のことは尊敬しておりますので」


 ん? 冒頭に速水さんが何か言いかけたが何だろうか?


「さて、明日から数日間は今日みたいな作戦行動だ。今日は早めに休もう」


「はい。それでは宿泊用の部屋をご案内します」

「まったく。折角、日本に数年ぶりに帰って来たってのに、結局、軍施設の中で寝泊まりか」


 俺は口ではボヤいていたが、久方ぶりの清潔なベッドで寝られる生活に、実はテンションが上がっていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

現実恋愛ではお久しぶりでございます。


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