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 超上空から見た光景に、セナは今まで感じたことのない気持ちを得た。


「すげぇ……」


 感動。

教養が無く、美術品に興味もないセナにとって、何かを美しいと思う初めての経験。

 豊かな大地に広がる、高度な文明を持つような都市。

聖都が霞む、ギラギラした異様な都市。

 水のように透明な壁が並び立ち、活気に満ち溢れている都。


 特に目を引いたのは、そこに住む大量の人影。

肌の色こそ色とりどりで統一感はなかったが、ヒトと言って差し支えないような外見をしており、老若男女が行き交い笑いあっている。

 遠巻きに見ているだけでもわかる、その都全体が、生命のエネルギーに満ち、迸っている。


「アレか。」


 広大な都の中心に、まるで物理法則を無視したような建造物。

遠目に見ても明らかに細すぎる支柱の上に立つ、禍々しい城。

 下に広がる景色とは真逆のような、負のエネルギーが生み出すプレッシャー。

 それはセナの肌を突き刺し、異常な悪寒で包んでくる。


【異空箱】は既に失速を始めている。

このままだと、城ではなく町、そう、城下町に落ちてしまう。


【異空箱】を足場にして跳躍するか。

全力で蹴れば行ける!


「【地天・要石柱】」

「またこのパターンかよ!!」


 セナの視界いっぱいを防ぐ大きな石の塊が上空から落下してきて、セナはそれに衝突して地面に向かって吹き飛んだ。


◇◆◇


「んぶぶぶ」


 地面の更に下、10メートルほどに全身が埋まったセナはもがいている。

ただ埋まっただけなら問題ないのだが、地面に叩きつけてきた石塊が上にあって重すぎる。

 というよりは、重いだけではない別の要因で、セナは動けずにいる。

何か、体の動きを阻害するような魔力の動きが体に纏わりついて離れない。

 地中だから呼吸もできないし、それを抜きにしても体の上にある石は重過ぎる。


「我、四天王、【地天】のグラン。命、頂戴。」

「……まともに喋れやぁ」


 渾身の力で体の呪縛に抗う。

完全に力が入らないわけではないが、突撃直後のピンチでかなり参っている。


「驚愕、反抗、無駄、鎮静、連行。」

「【紅蓮・刺突閃】」


 炎剣一突よりも強力な火属性を纏った刀身での突きでどうにか現状の打破を目論むも、やはり何かで魔力が霧散する。

 それにしても


「四天王ってのは上から物を落とすのが好きだなオイ。」

「別に、それが好きなわけじゃない。それが一番効果的な奇襲というだけだ。」

「……ぁ?」


 聞き覚えがある声。というよりも、昨晩聞いたばかりの声。

それは


「我は【水天】のアクア。お前に二度も名乗らないといけないのか」

「水天、油断、汚名、返上」

「分かってる。しかしこうも気乗りしないものとは」


「どういうことだ……生きてたのか?」

「いや、死んだぞ。あんだけ燃えて死なない訳ないだろ。」

「じゃあ、なんで」


 昨日セナ達を奇襲して、セナによって返り討ちにあって死亡したはずの【水天】のアクアが、セナを押しつぶしたグランと共にいるらしい。

 分身や影武者、双子、生存説、いろいろな可能性が頭を巡る。


「そりゃ、魔王様が蘇らせてくれたからだ」


 しかし、その疑問にまるで今日の天気を答えるかのように答えるアクア。

蘇る。

 つまりは死者の蘇生。

 そんな芸当ができる者が魔王として鎮座している。

そのうえ、人類に敵意を向けているという。


「最悪だな……」

「なにか勘違いしているらしいな。魔王様の最大の武器というのは、我々の蘇生などというチャチなものじゃ—――」

「失言、不用意、厳禁、処分」

「———そうだな。悪かった。トドメだ。【水天・穿ツ螺旋】」


 口を滑らせそうになったアクアをたしなめ、トドメを促す。

見た目に反してグランが冷静でアクアが熱くなるタイプらしい。

 そんなことを考えつつも、セナは意識を集中させる。

恐らくチャンスは一瞬。


「じゃあな、我の汚点。」

「———シィイイアアアッ!!!」


 全てを砕く水の柱が、セナを押しつぶしている石を砕いて貫こうとする。

その一瞬、石が砕け、拘束が緩んだ一瞬に全てを賭ける。


 腹に突き刺さりそうになる水を両手でつかみ、その起動から体を逸らす。

それとほぼ同時に両手が使い物にならなくなるが、回避に成功して身体の自由を取り戻せた。


「っ何ぃ!!?」

「ジャァアアアアアイイイイイ!!!!」


 獣のような咆哮で鼓舞し、反撃を試みる。

一人を相手するのにも苦労苦戦を強いられた四天王が二人。

できればアクアには弱体化なんかをしていてもらいたいものだが、そう甘いことはないと考え、最大の警戒を崩さない。


「【崩壊閃】!」


 一足で瓦礫から這い出て、何度も振ってきた剣をグラン相手に振りかぶる。

アクアの手の内はいくつか知っている。

 つまりは、今攻撃する相手は意味の分からない封印をしてくるグランを殺す。もしくは再起不能にする。最低でも気絶か失神に叩き込む。


「【地天・天岩戸】」

「【水天・廻ル弦鞭】」


 セナの動きを見て反応したグランの取った行動は防御。

四方を岩で囲むことによって防御を固め、アクアはグランを囲んだ岩ごとセナを攻撃した。

 驚いたのはグランの使った魔法の、その防御力。

 セナの渾身の一撃どころか、アクアの攻撃ですらびくともしていない。


 その一瞬の隙をついて、アクアの水鞭はセナの体を強く打ち付ける。


「絶対防御、不動、天岩戸」

「そして我が水天の鞭は防御不能の絶対攻撃!食らえば激痛に悶えることになる!」

「それは、グランにも通じないのか?」


 どちらの魔法もその効果は今、身に染みて理解した。

皮膚が張り裂けるような苦痛に耐えつつ、セナは一つの疑問を投げかける。


「……」

「……」

「……」


 沈黙、圧倒的沈黙。

まるで下手なギャグで滑った後のような静けさ。


 その沈黙にセナは一筋の希望を見つけた。



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