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 今夜の宿は留置所ということで身構えていたセナ達一行だったが、用意された部屋は思いのほか清潔で快適だった。

 ゴリラたちが用意してくれた料理を食べると、旅の疲れからか皆ぐっすりと眠った。



「なんで起きているウホ?」

「別に、流石に異国で警戒を解くほど呑気じゃないだけだ。」

「なるほど、通りで俺達の軽快で愉快痛快な冗句にも笑わなかったわけウホ」

「いや……えっと」


 黒ゴリラたちは非常に友好的で、食事もかなり質の良いもので、かといって踏み込んでこちらの事情を聞こうとはしなかった。


「あんたら七人は兄弟とかなのか?」

「そうウホ。俺は長男ウホ。」

「そっか。この国を治めている王ってどんな人?」

「魔王様は素晴らしい王様ウホ。俺達にとても良いこの国を作ってくださった父のようなお人ウホ。」


 黒ゴリラとの対話はそれなりに続いた。

 黒ゴリラはセナの質問に真摯に答え、セナの感覚だけの問題になるが、そこに嘘はなかった。


 正義とか悪とかはもうおなか一杯だと思っているわけだが、それはそれとして魔王という存在についての調査は必要だと思った。

 もし、もしも魔王が人類の敵でなかった場合。敵対しないで済むかもしれない。

 

「魔族と人類が共存できると思う?」

「それは無理ウホ。」

「え」

「魔王様は人間を憎んでいるウホ。いずれは人類全てを滅ぼすために、戦力を増やしているウホ。」

「それって……どういう」

「魔王様の目的は全人類の滅亡と我々獣人や魔人の繁栄ウホ。」


 黒ゴリラと話すことで見出していた希望は、あっさりと崩れ去っていた。


「正直、申し訳ないと思っているウホ。料理も寝床もちゃんとしたものを用意したウホ。だが、俺達の目的は君たちの足止めだ。本当に申し訳ない。」


 そう言って背を向けた黒ゴリラに手を伸ばしていると、この留置所の上空から膨大な魔力を感知した。


「緊急!!」


 叫んだセナの声に反応して起き上がるG以外の三人。

それと同時に防御系のスキルと魔法で攻撃に備える。


「【水天・天使ノ蛇口】」


 留置所の天井をぶち破って落ちてきたのは、一塊の水。

その中心には薄暗くてよく見えないが、人のような影が見えた。


「結界が二枚破られた!ベル!内側から結界を増やし続けろ!」


 セナだけは結界の外にいて、その敵を外から視認している。

衝突からたった1秒で強度を高めた結界を数枚破っていた。

 内側からベルが結界を張りなおしているからまだ保てるが、もって10秒。

 その時間全部を使って、セナは持つ魔力の全部を一本の剣にかき集める。


「【火炎一閃】!!」


 火を纏って放った、斬撃と魔法攻撃の両方の性質を併せ持つスキル。

セナの持つ育たないスキルの中で最高クラスのスキル。

 しかし


「無反応!?」


 蒸発を狙って放った火力と貫通力重視の攻撃が、まるでなかったかのように消え、その水の塊は特に何の反応も無く落下を続けている。


「ならこれだ!【金属操作】!【スピア】!」


 一瞬思考に飲まれたセナをリカバリーするように、結界の中からラングが水に向かって一本の槍を突き出す。

 手持ちの鉄鋼を圧縮加工して創り出したその槍は、落下してきている水と、その中の敵を貫くだけの硬度と鋭さを誇っている。


 ガガガガガッッ ガガッ


「うぉお!!?」


 水に触れた槍はまるでちょっと歯ごたえのあるチーズのようにきれいに削れ、水の落下が緩やかになった程度で全然効果が見られない。

 それどころか、削られた金属の一部が水面を走っているように、きらきらと光っている。


「そうか。これも回転だな。」


 何かに気づいたセナは、その場で再び魔力を高め、目での合図でユゥリに2秒稼いでくれと頼む。


「わかったわ。【四季スライム】!【キャノン】!!」


 両手を構えたユゥリの手に絡みつき、一つの巨大な砲台が3人と敵の間に入り込む。

 それだけではもちろん、ただスライムが削られるだけでなんの抵抗もできないが、ユゥリはその中に自分の持つ魔力の全てを流し込む。


「【魔力砲】!!」


 それは、属性を付与しない無属性の魔法。

属性を使わない分だけ純粋な魔力を相手に押し付けるというもの。

 しかし、属性相性から解放された属性というだけで、デメリットももちろんある。


 最大の問題点は魔力の消費量。

 ユゥリが持つセナ達と同等級の魔力を全て注いで放てる時間は、たったの5秒。

 スライムたちを使わないと指向性を保つことすらできない欠陥魔法ではあるのだが、それもこんな場面ではそれなりに役に立つ。


「【炎螺閃】!!」


 モーションは【魔力砲】と同じ。

セナの持つ使い捨てではない魔剣を突き出し、それに炎を纏う突きスキル。

 そこに、突きそのものを回転させるというアレンジを加え、水に突き出す。


「ぶんぼげぇええ!!?」


 間抜けな絶叫を上げながら、水の塊は霧散し、敵の姿が明らかになる。


 そこにいたのは、肌の色が水色で額から一本の角が生えた、人型なのに人じゃない何かだった。


「ベル、結界を再展開!ラングは金属の硬度を高めて!ユゥリはサポート!」


 叫んだセナはその水色の何かに跳びかかり、留置所から遠くへと誘導する。

水が無くなった敵は物理的なセナの攻撃に対して驚くほど無抵抗。

 蹴り一発で大きく跳び、街中の広場のような場所に辿り着く。


「お前は誰だ!」


 夜間照明と月明りの中でよく見える敵に問いかける。


「我はアクア。魔王四天王が一人、【水天】のアクア。」


 水のような魔力を構えてそう名乗る。獣人には見えないその姿に疑問は持ちつつも、気を抜けば負ける相手であるということはあきらか。

 セナはそれら一切を振り払い、ただ目の前の敵を倒すことだけに集中することにした。



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