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旅の仲間にGが加わり、セナ達の南への旅は順調に進んでいた。
「結構強いな。雑用ばかりしていた男とは思えない。」
「それはそうさ!以前までは北の方でブイブイ言わせていたんだ。僕も一端の冒険者さ!」
歩きっぱなしの旅も飽きてきた頃で、フリソス……Gとセナは模擬戦闘で実力を確かめ合っていた。
神聖騎士を複数相手にしても問題ないほど強くなったセナにとって、Gは本気で戦っても問題無い相手。
しかし、たとえそうだとしてもこれはあくまで模擬戦。
そのうえでGの実力を測っているということ。
「セナの実力は底の見えないね。まるで【複数】の人を相手しているようだ。」
「……そうだな。いろんな師匠がいるんだ。」
Gは時折、核心を突いたようなことを言う。
それは、本当にただただ実直なだけの感想なのに、Gが言うだけで何か懐を探られているような気分になる。
セナはこの模擬戦中に何度もそんな気分を味わった。
「僕の扱う魔法は【光】属性が主体でね。まだまだ実力不足だけれど【聖】も使えるんだよ。」
「……神聖教と何か関係があるのか?」
「……さあね。でも、【お偉いさん】の【雑用】をしていると【受け】が良いんだ。」
こんな風に意味深な言葉を使ってくる。
「ほら、足元が疎かだぞ!」
「ふふっ、こりゃ参った。」
不敵な笑みを浮かべて、剣から手を離す。
これで降参しているように見えるのに、剣が地面に突き刺さって数秒間、セナはGから目が離せなかった。
笑みがあまりにも不敵すぎて、何か別の意図があるのかとか思ったからだ。
「G、俺が勝ったから、今日の晩飯当番お前な。」
「えぇっ!?ちょ、それならもう一回!それとフリソスと呼んでくれ!」
「何度戦ってもいいが、時間は限られてるからな。もう一度だけだぞ。」
◇◆◇
「おらっ、また足元が—――ッ!?」
「おっと、危なかったね。」
再び隙の生まれた足元を狙ったセナだったが、それを見たGの顔が不意に笑ったように見え、攻撃の手を止めて防御の体勢を取った。
しかし、その好機につけ入ることは無く、Gはセナのガードを距離を取ってみているだけだった。
そんな、不意の勘違いが連発し、セナはいつの間にか首元に剣先を突きつけられていた。
「くそっ、参った。」
「ふふっ、これで君の【手料理】が食べられそうだ。」
「ちょぉおお!!?なにやってんのよぉおお!!!」
「ふんべらっ!!?」
剣を向けられているセナの姿を見て、取り乱したユゥリが全力の飛び蹴りをかまし、Gはそれを顔面に受け止めて大きく吹き飛んだ。
傍目から見れば早速セナに危害を加えようとしたGという構図だったからか、ユゥリの蹴りに一切の躊躇も加減も無く、Gは気絶した。
「ちょ待てっ!晩飯当番を賭けて戦ってただけだ!そういうんじゃない!」
首の曲がり方が異常だったため、急いで治癒の魔法をGにかけ、事情をユゥリに説明する。
このまま放置してしまえば、Gは濡れ衣で死ぬかもしれない。
「そ、そうなんだ。ごめん、セナが危ないと思って取り乱して。」
「それは起きたコイツに言ってやってくれ。多分大丈夫だと思うが」
「というか、セナが負けたってこと?この得体の知れない男に?」
「ああ、いろいろと噛み合わなくて、気づいたらな。」
セナは戦闘のあれこれを思い出しながら、そういえばと。
Gのステータスを見ることをしなかったということを思い出す。
「もしかしたら、そういうスキルがあるのかもしれない。【幸運】みたいな。」
「『人相:悪』みたいな。」
「別に顔が悪人面ってわけじゃないだろ。」
セナとユゥリは軽口を交わしながら、互いに持っている『鑑定』レベル3で気絶したままのGのステータスを覗き見る。
プライバシーもなにもあったものではない。
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「うぉっ!!?」
「きゃっ!!?」
視界いっぱいに広がった星々。
めまいがするほどに大量のソレを浴びて、二人は咄嗟に距離をとった。
今までに見たことの無いステータスの表示バグ。
というか、こんなことになったのは、二人とも初めての経験だった。
「どういうことだ。こいつ、人間なのか?」
「うぅ、まだちょっとチカチカする。」
目を抑えながらGを見つめる二人。
その外見はただの青年にしか見えないものの、あの得体の知れないステータス画面を見てしまっては、今まで以上に警戒してしまう怪物に見えてしまう。
「……ん。ああ、ユゥリさん。僕はセナさんに危害を加えようとしたわけじゃないんだ。」
「……そ……その、いきなり飛び蹴りして、ごめん。」
ステータスのことについて言及するべきか、正体見たりと追及するべきか、いろいろな考えが頭を巡った後にユゥリが考え至った結論は、一旦セナに全部丸投げし、自分は見なかったことにして無難にやり過ごすということ。
そして、それはユゥリを横から見守っていたセナも同意見ということで、ユゥリが頭を下げているのをただ見守っていた。
結局のところ、Gの謎についてきちんとした結論は出ないまま、セナ達は夕飯の準備に取り掛かることとなった。