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ラーヌに案内された部屋で、ユゥリとベルモットに向かい合い、セナは再び正座をする。
なぜこの座り方をしているのかはセナにもわからないが、とにかくそうした方がいいと思ったのでそうしている。
「セナ様。先ほどの話の続きなのですが」
「先ほど?スキルのことか?」
「そうです。【王ノ侍女】はセナ様のメイドである証ですが、スキルとしての効果はあります。」
「見えなかったやつか。」
ベルモットは自分のステータスを見ながら、自分にだけ見えている文章を声に出して読む。
「『王の持つ技能の一部を使える。』ということです。」
「一部?」
「ですが、私の実感の中では、セナ様の5スキル以外の【固有スキル】が使える状態にあります。」
だから、【結界】や【暴露】なんかのスキルも扱えたということらしい。
「私からの報告は以上です。今後ともよろしくお願いしますね。」
「あ、はい。」
そう締められたベルモットの話。
そして、次にユゥリの話となるのだが、実のところセナは少し怖がっている。
なんせ、ラーヌとの会話の段階からユゥリはセナと目も合わせないし、話にも入ってこない。
不安になることばかりだった。
「あの、ユゥリ?」
「……なに?」
「えっと、その、服、似合ってるよ。」
「……っ!!!」
そうセナが言うと、ユゥリはバッと顔をセナに向け、そのままセナに飛びついた。
突然のことに反応が遅れ、正座のまま後ろに倒れこむセナと、それに覆いかぶさるユゥリ。
「そう!セナのために一番かわいい服を選んだの!!よかった!気づいてくれて!!」
「お、おう。」
「ほら!セナとおしゃべりもできるし、こうやって抱きしめられる!!ずっとこうしたかった!!」
きゃっきゃとハートマークでも飛ばしているのかってくらいあまあまな声を上げ、セナに顔をこすりつけるユゥリ。
そんなユゥリの姿に困惑したまま、されるがままのセナ。
「ん~!!これがセナの匂い!すごい!!これ楽しい!!」
「ちょ、ユゥリ様、はしたないですよ!」
「あ~んヤダヤダヤダ!!セナとまだくっつきたい~!!」
子供のように駄々をこねるユゥリを捕まえて引き剝がすベルモット。
今までおとなしい方と思っていたのは、ただの勘違いだったらしい。
というか、どんなにおとなしい性格でも、手足が生えて全快の状態になったらテンションもおかしくなるか。
「セナセナセナ~!ん~!名前を呼べるってサイコー!」
手足をジタバタさせながらそう言うユゥリの姿。
今までの芋虫のような姿からは想像もできないくらい、元気で健康的で、
ふと、セナの目から涙がこぼれる。
「セナ?なんで泣いてるの?」
ベルモットに下ろされ、今度はゆっくりと近づいて涙を拭うユゥリ。
涙の理由はわからないが、多分、うれしくて泣いてると思っている。
「やっぱり、あの勇者の魔法で私の体が治ったの、嫌だった?」
「そんなこと、ないよ。ユゥリの元気な姿がうれしくて。」
「もし、セナが嫌だっていうなら、私の手足を取ってもいいよ?」
予想もしていなかった言葉にセナはぎょっとする。
ユゥリの顔は、笑顔のまま変わらない。
空耳かとも思うことを言われて、反応できないでいると。
「私も、あの勇者の生やした手足なんてちょっと嫌なんだ。けど、セナのことを見れるし、話せるし、嗅げるし、触れるからちょっとくらい我慢しようかと思ってたんだけど、セナが嫌なら要らないよ。」
「いや、ユゥリが元気なら、俺はそれで十分だ。取る必要なんてないよ。」
「そっか。でも我慢できなくなったら言って。その時は全部捨てるから。」
笑顔のままそう言い切られてしまって、セナは内心引いていた。
あの巣でのトラウマが原因で、精神に何かあったのか。
それとも、ユゥリはそういう性格だったのか。
理由はわからないが、ユゥリの言動は異常に思えた。
「んふふ。これからは毎日ぎゅってして寝ようね!」
「お、おう。」
勢いのまま了承したセナは、足の感覚がなくなるまでユゥリに触られ、ラーヌが呼びに来る頃にはユゥリの抱き枕状態になっていた。
◇◆◇
「久しぶりだな。兄貴。」
「はっは!お前は相変わらず顔が怖いな、ラーヌ。」
応接室で向かい合う兄弟。
その姿は完全に借金取りと債務者だったが、どちらもれっきとした兄弟。
妹弟たちとは違う、両方の血が繋がっている正真正銘の兄弟だ。
「最近になって身辺整理をしていると噂になっているが、私を呼んだのもそれか?」
「……少し違うな。兄貴、これを見てくれ。中身は読むなよ。」
そう言ってラーヌが差し出したのは『魔神装典』。
ラーヌがセナを使ってブルーオークのアジトから取り戻した品。
「これは、お前のお気にの本じゃないか。内容もわからないのにずぅっと読んでたやつ。」
「そうだ。最近になって内容が読めるようになってな。その内容についての話なんだ。」
「」「」
「で、結局何が言いたい?」
「兄貴に手伝ってほしい。あの勇者を殺すための準備をしたい。」
「殺すとはまた物騒だが、協力はしよう。可愛い弟のために、お兄ちゃんがんばる。」
二人の話は滞りなく進む。
疑問も疑念も二人の間には無く、ただ冷静な応答だけが続いていく。
「はは、オーケーだ。手配しておく。それと、お前もう彼女はできたのか?」
「冗談は好きじゃない。婚約者がいるんだからそれはないだろ。」
「そうかい。ならいいや。」
「それはそうと、昔兄貴が俺に言って来た、『前世の記憶』っての、あれは本当か?」
「ん?ああ、そうだな。俺は人生二周目だから、実は年齢も30代くらいなんだぜ。」
「それなんだが、もしかしたら勇者は兄貴と同じかもしれない。」
「……へぇ。」
「黒髪に黒い目、やたら平たい顔の奴だった。」
「……ラーヌ。一つ言っておきたいことがある。」
「なんだ?」
「転生と転移を間違えたら、めんどくさい絡み方をするやつに絡まれるから、気をつけとけ。兄からのアドバイス。」
兄弟の話し合いは和気あいあい、つつがなく進行していった。




