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 セナの召喚した【鉄鋼龍メタドラ】は、全身を金属で覆った巨体を持つ龍だ。


ワイバーンやフライリザードと違う、純正のドラゴン。

 最強種ともいわれる魔物の頂点の召喚を行う【固有スキル】を、神聖教の誰かから奪取したもの。


 それを広い敷地だからと軽率に召喚し、ベルモットに差し向ける。


対するベルモットは光と闇の複合魔法であり『装』に分類される【幻流闘衣】を纏っている。


 効果は極めて単純な身体能力の増強。


流れる煙のような魔力を纏い、鉄鋼龍に立ち向かうベルモット。


「とにかく、このトカゲを絞めたらちゃんと話を聞いてください!!」

「ぃやあああああ!!!!」

「GAAAAAAAA!!」


 セナの悲鳴に呼応するように、咆哮を轟かせる鉄鋼龍。

更にその咆哮に合わせて、大きく跳躍したベルモットが、その拳を向ける。


「【火炎拳】【氷冷拳】」


 右手に炎、左手に冷気。

纏ったものをぶつけられ、鉄鋼龍はおおきくのけぞる。


「【炎冷魔拳】!」


 両手の魔力を一つにまとめて、龍の胴に叩きつける。


「GIYAAAA!!」


 鉄鋼龍メタドラの胴体に大きな風穴が空き、それだけで消え去ってしまった。

 召喚獣は死ぬことはないが、損傷率によってインターバルが必要となる。

 今回のメタドラの損傷なら、少なくとも6時間は必要となる。


 それを理解しているセナは驚き、再び逃走を試みるが


「ぶふっ!?」


 走り出しの二歩目で何かに行く手を阻まれて、顔面を強打した。


「この場にはかなりの強度を持たせた【結界】を張りました。そして、この【暴露】でその強度は跳ね上がります。」

「なんで……それを……」

「私に目覚めた【開闢】が開いた私の【固有スキル】です。それも含めて話しましょう。」


 ゆっくりと、刺激しないよう歩くベルモットに、セナはまだ怯えたまま、身動きもとれず、ただ震えたままベルモットを見る。


「私はもうあなたの奴隷ではなくなりました。」

「だからっ!!俺を殺すつもりなんだろ!!くそっくそっ!」


 泣きじゃくり、手元の石をベルモットに投げる。

それを避けもせず、額に当たって血が出ても、怯みもしない。


「俺がっ、お前に雑用ばっかやらせたから!」

「……私はもうあなたの奴隷ではありません。しかし、見てください。【開闢】のスキルはまだ私の中にあります。」

「……へ?」

「あなたの信頼はまだ私の中に」


 反射的に【鑑定】を向け、ベルモットのステータスを覗き見る。

そこには、【開闢】というスキルと、もう一つ。

 前に見たときには無かった別のスキルがあった。


「【王ノ侍女】……?」


 初めて見るスキル。効果についての文が見えない。

固有スキルの欄にあるだけなのに


「これはセナ様の、その、メイドであるというスキルです。それだけの効果です。」

「めい、ど?」

「そうです。奴隷ではなくなりましたが、今後はメイドとして、どうか傍に。」


 そう言うと、座り込んでいるセナを両腕で抱き上げ、お姫様だっこの体勢にする。


 ベルモットは、抱えたセナを軽々と運び、屋敷の三階にある先ほどの寝室まで一足で跳んだ。



◇◆◇


「その、取り乱した。ごめん。」

「構わん。見晴らしの良い、空気もきれいな良い部屋になった。ふっ」


 自主的に床に正座しているセナにそう皮肉交じりに笑いかけるラーヌ。

暴れたお陰か冷静さを取り戻したセナは、そのまま話をつづけた。


「というか、二人はお前の仲間なのだろう?何を怯えていた。」

「その、ユゥリは今まで手足が無くて、ベルモットも奴隷だったから、それが無くなったらもう、どっかに行っちゃうって思って。それで、もしかしたら殺されるかもって」

「待て待て待て待て。なぜそう飛躍する。奴隷は確かに屈辱的かもしれんが、解放されて元主を殺そうとは思わんだろう。多分。」


 ラーヌになだめられるという謎状況となりながら、ベルモットとユゥリは少し離れてその様子を見守っている。


「で、お前、勇者とどういう関係で、何があって……いや、面倒だ。全部話せ。」

「え、全部って」

「お前の暴走もその後の介抱も俺がやったことだ。その恩を返すつもりですべて話せ。」


 ラーヌに詰められ、セナは今までの経緯。

孤児として育ったこと、パーティで疎まれていたこと、国を追われたこと、死にかけて【固有スキル】が変化したこと、それからの旅、街の外にいる仲間のこと。全てを話した。



「五つの【固有スキル】と、二つを【聖女】に譲渡?スキルもステータスも奪うし、人に与えられる。なるほど。ある程度納得は行った。」

「隠していることはもうない。聞かれたら応えられるかもだけど」


 憶測交じりの話も含めて、セナの知る範囲のことすべてを話した。

ラーヌは信頼できる方だ。オーラの話では様子がおかしいということだったが、今話している分にはそんな雰囲気は感じない。


「【灰砂】や【時間操作】も、触れることができれば奪えるということか」

「まあ、はい。」

「さっきのドラゴン召喚や、そこのピンクのスライムも奪った【固有スキル】によるものと」

「神聖教の襲撃を皆殺しにしたら、ステータスも8万とかになった。」


 ラーヌは少しだけ頭を抱える。

自分を含めたこれからのこと。

 目の前の化物とどう向き合うか。

 少なくとも街でセナは暴れ、勇者の敵として認知された。

元パーティとやらが醜聞を広めているかもしれない。


 しかし、セナの存在は唯一無二。

 世界でたった一人の、世界のルールそのものを殺すイレギュラー。

乗るしかないビッグウェーブそのもの。


「俺一人には手に負えんな。ポール!兄を呼んできてくれ。」

「かしこまりました。」

「セナ。貴様は当分、俺が預かる。空き部屋に案内するからそこの女どもと話していろ。俺は兄と話してくる。物は壊すなよ。」


 


 

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