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 朝になったセナは【春スライム】の状態を確認して、街を歩くことにした。

セナは既に冒険者ギルドに登録している。

 が、冒険者としての資格はほとんど使える物じゃないし、冒険者というものにセナは少し忌避感がある。


 生まれ育った国では、殺人の汚名を被って冒険者としての資格を剥奪されているし、前の街ではほとんど死亡扱い。

 冒険者になることが金稼ぎの最短なのは理解しているが、何となくもうやりたくない。


 商業とか、錬金術とか、技能とか、ギルド自体はそこそこの数があるが、この街には商業と冒険者のギルドしかないらしい。


 商業といえば、サンクトルが幅を利かせているところだから、あまりかかわりたくない。


 かといって、冒険者となると嫌なコネがチラついて嫌だ。



「なんでもいやいやって、子供かよ。俺。」


 そう呟き、少しだけ冒険者ギルドの中を覗こうと、そちらの方向に歩いていると、セナの背後から声がかけられた。


「ねぇ、もしかしてセナ?」

「…………っ!?」


 声には覚えがあった。

一年くらい、何度も話した声だから。

 それも今では、怒りの記憶でしかない。憎しみの発生源。


「あんた、こんなところでなにやってるの?」


 それは、前の国で組んでいたパーティの1人、女魔術師のマロニー・オルトラの声だった。



「マロニー。」

「ねぇ、人殺しのあんたが、なんでこんな白昼の往来で堂々と歩いてるのって聞いてるの。」

「……」

「ねえ、なんか言いなさいよ!」


 この口ぶり、真犯人のことは知らないのか、それとも知っていて、セナをここでも陥れたいからこう言っているのか。

 それよりも、なぜここにいるのかを聞きたいのはセナの方だ。


「いろいろあって、ここまで来た。お前らは、なんでここに?」

「私達はここに護衛の依頼があってきたの。でも、あんたみたいなのを見つけて最低な気分。近くに衛兵がいたら突き出してやるのに。」


 吐き捨てるようにそういうマロニーの言葉。

視線、雰囲気、匂いに至るまで、全てがセナの腹を燃やす。

 

「おいマロニー、この街の冒険者ギルドはそこか?」

「……」

「もう、早く宿とろうよ。汗びっしょりで気持ち悪い~」

「……」

「大変ですが、少しの辛抱ですよ。この街ならきっと良い宿がありますよ。」

「……」


 マロニーの後ろから、彼女を追って来た三人。

戦士のデューク。盗賊のキラミ。僧侶のソーイチロ。


 昔はその中に、荷物持ちのセナがいた。



「おっ、その顔はセナじゃん。久しぶりだな~!!お前がいなくなってから大変で大変で……いや、全然問題なかったわ!!ははっ」

「げっ、ほんとにセナじゃん。アタシまだこいつの顔見たらダルくなるんだけど。」

「お久しぶりですね。てっきりどこかで野たれ死んだと思っていたのですが、こんな隣国にまで逃げ及んでいるとは」


 三人とも、セナに向けるのは侮蔑の目。

いや、四人ともだ。


 その中でも、デュークの向けている目線は特別だ。


なんせ、人殺しの汚名をかぶせてきたのはそのデューク本人だからだ。



 ◇◆◇


 人殺しと言っても、いろいろな種類がある。

奴隷や孤児を殺しても、大した罪にはならない。

 もちろん、公の場で殺した場合は規定上の罰則を受ける必要があるわけだが。

 そして、一般人を殺した場合は、発覚次第で罰則があるし、身内からの報復もありえる。

 これでも、国外追放なんてされるほどの罪にはならない。


 なら、国外に逃げないといけないほどの罪となると、どんなものになるのか。


 デュークは、貴族を殺した。

 セナは、貴族を殺したことにされた。


 目的は金だったらしい。

 金目の物を欲して、貴族の邸宅に火をつけて、間違った意味の火事場泥棒をした。

 結局、大した金も宝石も手に入らなかったわけだが、その際にその貴族が火に巻き込まれて死んだ。


 結局、罪に問われる一歩手前で、デュークは内部告発という形でセナを囮に仕立てた。


 本来なら、他のメンバーが庇ったりするものだろうが、当時のセナはあまりにも不良品すぎて、パーティの足手まといでしかなかった。


 なぜか近くにいると疲れるし、一緒に依頼をこなしていたらスキルの成長や習得も遅くなるし、なにより本人があまりにも雑魚。

 そんな足手まといのゴミを連れて回ったのも……


 そう、こんな時の身代わりのため。


 そう考えれば、セナの末路はよくあることかもしれない。

多分、歴史を見れば該当者なんてそこそこあることだろう。

 奴隷として生まれて、使いつぶされて死ぬ。

 地下室のエルフたちの方が悲劇としては上かもしれない。

 ユゥリですら、セナよりも可哀想だろう。


 だからなんだという話だが。


◇◆◇


「どうする?こいつを連れ帰って手配金でももらう?」

「大した額じゃねぇし、労力に見合わねぇよ。」

「こいつの顔なんてもう見たくないんだけど~」

「変に縋られても困りますし、見なかったことにするので、どこかに行ってください。」


 四人とも拒絶の意。

セナを金として見る不愉快な視線。

 この距離なら、四人のステータスを奪って虚弱死させるのも不可能じゃない。


 怒りと勢いに身を任せ、手を前に出そうとしたとき、また別の、セナの知る声が聞こえてきた。


「もう!!先行しすぎですよ~!護衛なんですから、ちゃんと守ってください~!」

「まあまあ、僕らの二人きりの時間を尊重してくれたんだろう。ねぇ、君たち。」


 男の方は知らないが、女の方は良く知る声だった。

セナにとって、デューク達と同じくらい憎い。

 ある意味で、デューク以上に憎い相手。


【聖女】ライラ・ペンドルトがそこにいた。



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