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『協力する』とオーラは言った。
しかし、それにはセナがオーラにすべてを説明しないといけない。
そして、そのためにはオーラに対して一定以上の信頼が必要となる。
セナとオーラは会ってまだ一週間も経っていない。
少し考えて
「この子らのことを黙っていてくれれば十分だ。」
「え、でも、何か手伝えることもあるはず。」
セナの拒絶を直感的に理解したオーラは、それでも何かないかと訴える。
どうしてそこまでと思うセナだが、別に憎い相手ではない。ボコボコにして放り出すことはできない。
「むむむ」
「お願いします。」
「……喧嘩はしないでくださいね。」
仕方なく、地下への隠し扉を開く。
上では話が進まない。
◇◆◇
「へえ、この人が例のラーヌさんのとこの」
「可愛いじゃん、セナの彼女?」
出迎えたのは双子だけ。ほかのみんなは別の部屋に隠れてる。
「かかか彼女って、彼とはそこまで交流もありません。会ったのも数日前が初めてです。」
「そっか、で、何の用?軽く話は聞いてたけど」
「エルフの保護だっけ。あんまり気乗りはしないかな。」
ポロロとアルルは一見歓迎している風で、内心は強く拒絶していた。
なにより、目が笑っていない。
「ポロ、アル、あまりいじめたらいけないよ。」
「あはは、セナ、変なしゃべり方。」
「余所行きと家での喋り方が違うんだ。あはは。」
態度の緩和を求めてたしなめたセナだが、暖簾に腕押し。
露骨に拒絶しているほかのみんなよりも性質が悪いかもしれない。
「そうなんですか?でしたら、家での喋りで構いませんが。」
「……そうか、なら、遠慮なく。」
できるだけ失礼にならない程度に素を出す。
セナの素はあまりにもチンピラすぎるので、隠しておきたい。
……隠しておきたい?
「この子らの他にあと5人ほど、二人には会っただろう。」
「ええ、どちらも元気そうだった。この子達は、その」
オーラの視線が、ポロとアルの欠損部位に注がれる。
まだまだ生えてこない理由がわからないわけだが、オーラにとっては戻るという発想もない、ただただ痛々しい有様。
「座ったままで悪いね。ボクらはこんなだから」
「見上げるのも疲れるんだよ。知ってた?」
「はい、セナさんは私よりも背が高いので、少し首が痛いですよね。」
「「……」」
意外な返しに二人は黙る。
ともかく、オーラは二人の態度を気にしない。
「先ほどの言葉、あなたたちにはあまりにも失礼なことでした。謝罪を受け入れてくれると助かります。」
「回りくどいね。学が無いボクらにはわからないや。」
「ね。無神経なのは死んでも治らないんでしょ。」
「ポロロ、アルル。」
「「……」」
名前を呼ばれた二人は押し黙る。
口うるさくするつもりはないし、二人のためにオーラと敵対するつもりもない。
オーラの肩を持ち二人を叱るつもりもないし、仲裁のつもりでもない。
「「ごめんなさい。」」
「……セナさん、ありがとうございます。」
「さあな。俺はあっちの部屋で二人の魔法を解いてくる。喧嘩はしないでくれ。」
そう言ってセナは隣の部屋に行ってしまい、残された3人。
「セナさんには申し訳ないことを」
「ボクらがすこししつこかっただけだよ。」
「だって相手はニンゲンだしね。」
アルもポロも、まだまだオーラへの敵意は消え切らない。
それはそう、恩人の一声で消えるほど、彼女らの心の傷は浅くない。
「私、あの地下室に行ったんです。あなたたちもあそこにいたんですよね。」
「そうだよ。セナが助けてくれたんだ。」
「あの時はほんと、あの世かと思ったよね。」
「セナの使う『回復魔法』はすごいんだ。この傷なんて、もっとぐしゃぐしゃだったんだから。」
そう言って足の断面を見せるアル。
あの地下での処置はあくまで焼いて塞ぐだけ。
それがセナの魔法を受けて、今ではきれいに塞がって『ない』だけの状態になっている。
「二人は、セナさんのことどう思っています?」
「ニンゲンは嫌いだけど、セナは嫌いじゃないよ。」
「ニンゲンは嫌いだよ。セナも、嫌いじゃないだけ。」
珍しく差がある。
「二人は、人間に復讐したいと思っていますか?」
「そりゃね。手足が万全なら今すぐにでも」
「でもまあ、セナが戻してくれるまでの辛抱だよ。」
「ポロ!馬鹿!それ言ったら……!」
「セナさんが、戻す?」
口を滑らせたポロにオーラは食いつく。
そうして、押しの強いオーラにすべて喋ってしまうのに時間はかからなかった。
◇◆◇
隣の部屋でキャルとメンロンの状態異常を解除したセナは、5人にオーラについて話していた。
「ということで、あの人は敵ではない。これから先付き合いが続くかどうかはわからないが、あまり邪険にはしないでやってくれ。」
「……ニンゲンは早く出ていってほしい。キライ。」
「あの、私もあまり、近づきたくないです。」
「……」
「タタラは話したがってる。私は少し不安。踏み込んでくるのは怖い。」
それぞれの意見を聞いたうえで、タタラとナタ以外にはあまり合わせないように決めた。
それでも、これからも付き合うなら関わりあうことは多くなる。
それを言い含めようとしていたところで、隣の部屋との扉が勢いよく開いた。
「セナさん!!」
「オーラ!?ちょ、勝手に入ってこないで!!!」
思春期の子供のようなことを叫んだセナに詰め寄り、オーラはじりじりと睨む。
「セナさんのスキルについて聞きたいことがあるんですけど!」
「スキル……あいつら!!」
「口を滑らしたところを私が追求しました。先にこちらの質問に答えてください!!」
「スキルさえあれば彼女らの体を治せるんですか!!」
そう叫んだオーラに、セナはどう返すべきか逡巡する。
「オーラさん、これを聞いたらもう後には戻しませんけど、良いですか?」
「……構いません。」
突き放すつもりで使った脅し文句も受け入れられて、セナは抵抗をあきらめた。
どうやらこのお嬢さんは、思っていたよりも頑固らしい。




