閑話
ライラ・ペンドルトは幸せの【聖女】だ。
可憐な姫、花畑の精霊、太陽の子。
様々な形容をされながら、それが不足であるかのような美貌の持ち主だった。
森を歩けば動物たちから歓迎され、浜辺に佇めば風はその髪を梳かせる。
ライラ・ペンドルトは愛の【聖女】だ。
街を歩けば道行く人は彼女を放っておかない。
男は率先して荷物を持ち、女でさえお近づきになりたがる。
老若男女を問わず愛され、なにより、異世界から来た勇者に愛されていた。
ライラ・ペンドルトは悲劇の【聖女】だ。
孤児の身の上がゆえに、勇者に見初められ【聖女】となったその日から、彼女の人生は大きく変わった。
今まで住んでいた孤児院を離れ、都のお城で、花や宝石に囲まれて過ごすことになった。
彼女はなにより、他の孤児たちを憐み、自分だけが裕福な暮らしをすることを嘆いた。
ライラ・ペンドルトは喜劇の【聖女】だ。
勇者を支える【聖女】として、人類の希望と言われた彼女は、魔王を倒す希望の勇者と恋に落ち、神聖なる朝を迎える。
愛を受け、愛を与える。その繰り返し。
彼女は幸せを胸に、日々を過ごしていた。
ライラ・ペンドルトは使命の【聖女】だ。
彼女の過ごしていた孤児院で、犯罪者が出たらしい。
その者は彼女もよく知る幼馴染。
犯罪者が出たことで、孤児院の生活はより困窮するものになったらしい。
それを聞き、彼女は強く決心する。
彼に贖罪をさせようと。
それこそが、彼のためになることだと。
ライラ・ペンドルトは夢を見る【聖女】だ。
ライラ・ペンドルトは美しい【聖女】だ。
ライラ・ペンドルトは悍ましい【聖女】だ。
◇◆◇
佐藤勇気は異世界より召喚されし【勇者】だ。
彼は日本と呼ばれる異界の異国から、魔王を倒す使命を受けて召喚された伝説の者。
人類の到達点であるレベル10のスキルをいくつも持ち、全ての属性魔法を自在に操り、神の加護を持つ最高の勇者。
サトウ・ユウキは最強の【勇者】だ。
彼は自身の身の何倍もあろう巨人と戦い、常人であれば数週間はかかるであろう迷宮攻略を一日で終え、街一つを滅ぼすドラゴンを屠る。
剣を振れば山を割り、魔法を使えば湖が干上がる。
走れば沈む太陽に追いつき、跳べば雲よりも高い。
ユウキ・サトウは博愛の【勇者】だ。
彼は飢えに苦しむ孤児にパンを与え、罪人に赦しを与え、多くの人に人を愛すことを説いた。
学問にも精通していた彼は様々な文化を国にもたらし、人々の生活を豊かにしていった。
人々を愛し、何より【聖女】を愛している。
ユウキ・サトウは運命の【勇者】だ。
彼が召喚されて十数日のころ、都より遠く離れた街で一人の少女と出会う。
近くにいるだけで力がみなぎるような不思議な少女に、彼は一目で恋に落ちた。
その少女を都に連れ帰り、【聖女】として認めさせると、ともに様々な旅をした。
森林、海洋、火山、砂漠、いろいろなところを旅して、互いの絆を深めていった。
ユウキ・サトウは最高の【勇者】だ。
人類の最大の敵である【魔神】を倒すためには、【勇者】以外にも【剣聖】と【賢者】、そして【伝説の剣】が必要だと言う。
すでに召喚されてから数年がたっているものの、【剣聖】も【賢者】も集まらず、身勝手なハイアルマ王国は戦力の派遣を拒んでいるらしい。
その足踏みの時間も、彼は鍛錬を重ね、時に人を助け、魔物を倒しているらしい。
ユウキ・サトウは慈愛の【勇者】だ。
彼の恋人である【聖女】の幼馴染が、犯罪によって国外に逃亡しているらしい。
それを聞くなり、彼はハイアルマに行くことを決める。
その者が犯罪に走っても、誰かが手を差し出せばいいのだ。
その者には、救ってくれる相手がいなかったから、非行に走っただけだ。
誰にでも更生の機会は必要だ。
その人も、彼の元で愛に触れれば、きっと心を入れ替えるはず。
ユウキ・サトウは究極の【勇者】だ。
ユウキ・サトウは至高の【勇者】だ。
ユウキ・サトウは汚らわしい【勇者】だ。




