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「うぅうううう!!!!」


 ズッズッと、重く鈍い音が響く。

ここは家の地下だし、横たわったセナに馬乗りになったメンロンが、怒りのまま何度もナイフを振り下ろしている。


 都合21回目。セナは結構大量の血を流して虚ろな目で天井を見ていた。


「あぁああああぁああ!!!!!」


 今までで一番大きい絶叫を響かせ、メンロンの振り下ろしは一直線にセナの心臓を貫いた。


 ごぼっと一気に噴き出した赤黒い血は、顎を伝って地面に垂れる。


 その様子を見ながら、クォルタやビラロは茫然としていた。

見知らぬ土地で、協力してくれる人間が死んでしまったと考えるビラロ。

恩人に仇で返してしまったと考えるクォルタ。


 正反対のように見えて、どちらも自己保身の思考であるということは、ここでは無視する。


 それよりも、各エルフの手元には、メンロンが使っているのと同じ大きさのナイフがあった。

 手足の無い二人はそれすら持てないが、残った3つの目は逸れずセナ達を見ている。


「よ、よくもぉ!!!」


 次いで、左腕を欠損していた子、キャルがナイフをセナに突き立てた。


「くそっくそっ!私のっ!妹をっ!かえせ!!」


 セナの顔面を重点的に攻撃する。

もはや絶命しているであろうその体に、絶え間なくナイフを突き立てる。


「畜生!!!」


 三番手にビラロ。

多少冷静な方であった彼女も、ついに怒りと理性の天秤が傾いた。


 見るも無残な状態になったセナの死体に、まだまだ足りないとばかりにナイフを突き立てる。


 それから、数十分間、体力尽きて気絶するまで、三人のエルフはセナを切り続けた。



◇◆◇



「で、まあ無事なんだけど。」

「き、きゃあああああああ!!!!?」


 当然のように起き上がり、ヨッとあいさつをするセナ。

大量に刻まれた傷はぐにぐにと動く肉によってあっという間に塞がる。

 血も、重力に逆らってセナの体内に戻っていった。


グロさとキモさのマリアージュ。

 セナの体はものの数秒で全快に戻った。


 それもそのはず。たかが40だか60だかのステータスしかない小娘の攻撃、数万のステータスを持つセナの生命力には焼け石に水。

 どれだけ見た目で大げさなダメージを負っていても、その実タンスの角に小指をぶつけた程度。

 ちょっとがまんしたらすぐに治まる。


 だから、セナはエルフたちのサンドバッグを買って出たというわけ。


「お、お化け……?」

「いや、ニンゲンです。」


 怯えるクォルタに、少しお茶目な感じでそういうセナ。

セナとしては、少し過激なジョークのつもりだったが、クォルタはもう、処理の限界。


「……きゅう」


 三人のように気絶してしまい、残ったのは双子と全損組だけ。

その四人も普通にドン引きしている。


「お兄さん、吸血鬼とかそういうのなの?」

「それか、ゾンビとか。」

「ゾンビ?知らんけど、あれくらいで俺は死なない。」


 双子とそう話しながら、軽く体を動かす。


「もしかして、その子たちを処分するの?」

「処分て、何もしない。こいつらが人に刃を向ける前に毒抜きしたかった。」

「ちょっとやりすぎ。怖い。」


 そう話しながら、今度は全損組と話すことにした。


「で、お前らはナイフも持てないだろうから後に回した。すまんな。」

「いいお」

「良いよって。タタラは歯が無いから。私はナタ。」

「おう、よろしく。」


 ナタは手足がないが意思疎通ははっきりできるみたいだ。

口が使えるらしいが、右目が無かった。


「当分はこの家で過ごしてもらうが、この街でやることがなくなったら俺の街に帰る。どこかでお前らの手足をどうにかできるよう方法も探る。ついてくるか?」

「いう」

「タタラは行くって、私は、殺してほしいかな。」


 カミングアウトされた内容に、セナは少し顔を曇らせる。


「というと?」

「ほら、こんな手足で、家族も全員死んで、帰る村もなくなったんだよ?メンロンとかビラロみたいに復讐することもできない。」

「だから、死んで終わりにしてほしいと。」

「そういうこと。」


 正気のように見えたナタの目は黒く淀んでいて、生への希望も何も感じなかった。

 手足は無く、目も片方失い、全身にはひどい火傷。

細かな傷は治せたが、左肩から右腰にまで背中を大きく覆う火傷も欠損も無かったことにはできなかった。


「じゃあ俺からお願いだ。お願いだから生きてくれ。」

「……は?」

「ナタという名前を知って、あの地下牢から助けた人が、死んでしまうのは耐えらえない。」


 身勝手。自分勝手にもほどがある主張。

自分のために生きてくれと言える人がどれだけいるか。

 少なくとも、セナはそんな言葉をさらっと言えるやつだった。


「ひどい。」

「そうだな。」

「一思いに殺してくれたらいいだけなのに。」

「俺には無理だし、他の誰かがやろうとしても絶対止める。」

「なんで?」

「なんでだろうな。」


 気づけば、ナタの目からは涙が出ていて、拭うこともできないまま、ずっと泣いていた。





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