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【魔力砲】のハッタリから繋げた【火剣】の『スラッシュ』。
今までとは違う感じのソレを検証するよりも、胴体に深く傷の入ったマークに近づく。
傷口は焼けて止血されているが、内臓まで焼けていて致命傷だ。
「は、はは、まさかこんな所でやられるとは。」
「……マーク、あんたは、なんのつもりでこんなこと。」
「穢れた罪の話はどうでもいい。やったこと、やってしまったことは変わらない。」
吐血して、生命力が目減りする。
「冒険者として人助けすれば、少しだけ楽だった。そんな半端なクソ野郎の死に様としては及第点、恵まれてる。」
「あんたの人生なんて知らない。ドルドさんへの償いも聞く気はない。」
「それでいい。君に気をかけてしまったのは、俺と似てたからだ。 君は半端になってはいけない。」
セナはマークの胸に手を当てる。
スキルの発動と共に、マークの【固有スキル】も、【ステータス】も、全てがセナのものになる。
セナのステータス強奪には記憶の移動や対象の追体験のような能力は無い。
しかし、感受性が死んでるわけじゃないセナの視点で言えば、マークは間違いなく優しくて哀しい先輩だった。
「さっきの一撃で、一つの扉が開いた気がする。でも、お前らにこれを試すのは、勿体無いよな。」
セナはマークの近くで蹲り、その場で魔力を練る。
「【追尾:火矢】」
ドルドを除いた周辺30メートルにいる全ての生命に対して放つホーミング弾。
その火矢はマークとの戦いを経る前の【火球】とは違う、一皮剥けた鋭さを手に入れた。
「ぐぉっ!?」「ぎゃっ!」「わぁああ!!」
全35の命中。うち人間らしき気配は17。
他は小動物や虫だと思われる。
「君は、戦士系だと思っていたんだが、魔法系だったのか?」
「どっちも同じくらいの精度でできるってだけの器用貧乏です。でも、隠し球は持ってて良かった。」
「いや、Bランクと同等の剣術を使って魔法も使えるのは貴重だ。相棒も死んでしまったし、いつか君と組んでみたい。」
ドルドさんは悲しそうな顔でそう言うと、一旦ギルドは引き返す事を提案してきた。
「マークが盗賊の頭と言ったのはブラフかもしれないが、ともかく一人仲間が減った上にこれだけの戦果、せめて増援が欲しい。」
「そうですね。」
そんなこんなで、セナたちは一旦街に戻ることにした。
◇◆◇
「そんなことが……」
事のあらましを説明して、ギルドマスターと会談する。
ギルマスも今回のことは本当に想定外らしく、真っ赤な顔を両手で抱えていた。
「こうなっては内部にどれだけ伯爵の息のかかった者がいるかわからない。」
「そうですね。ですが、炙り出すこともできませんし、どうしましょうか。」
「ともかく、二人には感謝する。しかるべき報酬は渡すが、口外無用で頼む。」
「了解した。」
「わかりました。」
ドルドと退室し、ロビーの人から離れた席で一息つく。
ドルドも相棒の死を経験して憂鬱だと思うが、今の事件の犯人について考えてるらしい。
「貴族とはいえ人材に金をかけすぎだとは思わないか?たかが盗賊にランク5の魔紋入りエンブレム。マーク本人も一端の冒険者だ。なにか裏があるとしか思えない。」
「僕の予想ですけど、都市を崩壊させるつもりなのでは?」
「ほう……!?滅多なことを言うな……どこで誰が聞いているかもわからないんだぞ。」
ドルドは周りを見渡す。
喧しいギルド内だと、セナ達の話を盗み聞きしてるものはいない。
「僕、前の街でゴブリンの巣を見つけたんですよね。」
「君の妻が捕まっていたというやつか。」
「はい、そこでは妻以外にも2名の女性が……その……」
「みなまで言うな、分かった。それで、その女性らに何か気になることがあったんだな?」
セナは【巣】で見た事を話した。
明らかに人為的な処置でゴブリンに苗床を提供してる者がいるということと、【巣】の存在を隠匿したいギルド員の存在を。
「で、それがなぜ都市の崩壊と結びつく。」
「話に出た伯爵って、勇者と関わりがあるってことは、隣国とも深く繋がってますよね?」
「深くかは分からないが、そこそこな関わりがあるはずだ。」
「もしもゴブリンの大量発生が各所で同時に発生したら?」
「……根拠は薄いんだな?」
ドルドは眉間に、寄った皺を伸ばし、深く考え込むような姿勢をとる。
セナは特に何も考えてない。
セナはマークとの戦闘で経験した一味違うスキルの感覚を反芻していた。
(あれは気持ちよかった)
この感覚、えもいえぬ快感とはこういうものを指すのだと、学のないセナは考える。
その一瞬だけは、世界の全てを自分と同化できた気がした。
「ぁ……ぁ……なぁ!セナ!……どうした?なにか思うことがあったか?」
「ぁ……ぃえ、マークさんに勝てた瞬間の事を思い出していました。」
「あぁ、セナのスキル、強かったな。しかし、基本的なスラッシュのスキルをランク2にしていたとは驚きだ。」
「ランク2?」
初めて聞く単語に考えが止まる。
「スラッシュ、スロー、ブレイク、パリィ、いろんなスキルを扱うには【剣技】等のスキルが必要だが、スキルは持っているだけじゃなく、使い込み練度を高める事で一つ上の段階になれる。なんだ、あのスラッシュが初めてのランクアップなのか?」
セナは剣技のスキルを持って日が浅い、それは本人も知ってのことだし、いくら様々な魔物を殺せるようになったからと言って、これまで見てきた冒険者達を追い抜けるほどの努力はしていない。
その自覚がセナをより混乱させた。
「俺はランク2【投擲】が使えるが、基本的にはランク1の【スロー】を使う。君のやったような不意打ちや、奇襲が容易になるからね。」
セナが以前まで在籍していたパーティですら、そんな話は聞かなかった。
「パーティメンバーにもそのランク2のスキルについて話さないって、どんな状況だと思います?」
「パーティメンバーにも……?そうか……そうだな、思いつく範囲なら、マークのようなスパイや、裏切り者である場合。そして、これは言いにくいが、パーティメンバーだと思われていない場合。」
セナは自身の場合を後者だと思った。
特に何も感じなかった。
いつかあいつらからスキルを奪ったとき、ランク2が使えるかどうかを確認したいとだけ思った。