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結局、最初の6人分のステータスは奪えず、謎の劣等感が芽生えただけだった。
セナは表面的に気にしていない風を装っている。
心の中でも(ベテランはすごいなー)くらいに考えてる。
だが、やはり心の奥底ではかなり傷ついてる。
切り傷というほどではないが、傷口を指で押されるくらいの痛みは感じている。
そんな痛みから目を背けて、セナは盗賊達のステータスを奪って殺すことに集中する。
先の6人から5分ほどして、今度も左右に3人ずつ。
『スラッシュ』を首に集中させて刈り取る事で、一刀両断を可能にした。
そのまま、さりげなく盗賊に触れてステータスを奪い取る。
その際に、また一つ『究極的暴君』への理解を深めた。
首から下に触れた場合、『ステータス』が奪えるが『スキル』は奪えなかった。
しかし、首から上だと『スキル』が奪えるが『ステータス』は奪えなかった。
まだまだ盗賊の全貌がわからない以上、集中は切らせないが、セナの中で一つの仮説が生まれた。
(『スキル』は脳に、『ステータス』は肉体に宿るものなのか。)
なら、どこを離せば【属性】も奪えないのか。
面白いとは思うが、今後も気をつけないといけないという意識の方が先に来た。
「セナ君、君の剣の腕は中々だね。我々Bランクとも遜色無い。」
「経験不足はある。しかし学習能力は目覚ましい。素質はある。」
「ありがとうございます。」
褒められる事には何も感じない。
セナにとってそれは価値の無いものだから。
喝采も賛美も、他人からの評価なんてセナにとっては路傍の石も同然。
(盗賊のボスを倒して、そのまま二人を始末する。そうすればステータスの大幅アップができるし、スキルも獲得できる。)
「お二人の冒険者歴は如何程なんでしょうか。」
「俺たちは幼馴染でな。阿吽の呼吸とまではいかないが、背中を預けられる仲さ。」
「ガサツなコイツに背中を預ける気はない。」
今思い返せば屈辱的な、お荷物としてのセナが身につけた数少ない技術。聞きに徹する事で相手に愉悦を与えて情報を聞き出す。
「セナ君は……そうだな。剣術系のスキルがあるのに昨日までEランクだったんだろ?奥さんのお世話以外に何かあったのかい?」
「マーク、お前……」
「いや、答えたくないならそれでいい。俺は、セナ君と仲良くなりたいんだ。」
「……」
今、なんか変な感じがした。なんかの違和感。
「『スロー』」
乾いた衝突音、スコンと鳴る音がして、木の上から何かが落ちたて来る。
「『ガトリング・スロー』」
投擲元のドルドを見れば、懐に隠していた数十本のナイフを乱れ打ちのように投げている。
「おまえ、マークか?本当に」
「ドルドさん?」
「周囲の気配が増えたのに突然話を始めた。まして今は敵の懐、絶対おかしい。セナ、黙ったのは間違ってない。」
「コイツはお前の集中力を切らしにかかった。」
「半分」
ドルドは明らかにマークを警戒している。
仲間のはずなのに。
「半分正解で半分不正解だ。」
マークは剣を構える。
殺気がセナを包み、動きを鈍らせる。
「俺は間違いなくマーク本人。だが、お前の知るマークはあくまで仮。本当はこの街で盗賊と貴族の仲介人として働いている何でも屋だ。」
「お前が頭なのか?」
「お前らの言ってた盗賊のカシラってのは確かに俺だ。」
「マークさん、裏切ってたってこと?」
セナの言葉にマークは笑う。
「裏切りじゃないなぁ、そもそも仲間じゃ無かったってだけだ。」
「セナ、お前はマークと戦ってくれ、俺は周りの人間を倒す。」
「……わかりました。」
剣を構える。
セナの背中に緊張と冷や汗が滴る。
初めてでもないはずの格上との戦いに、恐怖が甦る。
「俺は誰にも言ってない【固有スキル】を持っている。それを『鑑定』で見られては困る。賭けだが、俺の勝ちだな。」
「喋るのが好きなのか?『スラッシュ』」
首めがけて剣を振る。
確実に殺せる間合い。
それなのに。
「無駄無駄無駄。俺のスキル【暴露】で俺のステータスは2倍になってる。今の俺はAランクの奴にも負けない。お喋りが好きなんじゃなくて、喋れば強くなれるから喋るんだよ。」
セナは木の幹にめり込んだ。
厳密には、マークの突進で押し負けた。
さっきまでは殺す気だったくせに、いざ先手を取って裏切られると動揺してしまうヘボメンタル。
「……ドルドの方は雑魚を当てても死ぬかな。数の暴力って素晴らしいよね。」
「……」
「あれ?気絶した?まさか死んでないよね。」
「……『スラッシュ』」
ガキッバキンッ
セナの剣が折れ、マークの剣の切先がセナの首に向けられる。
「なんか、場慣れしてないよね。妙に弱いっていうか。」
「……すぅ。」
「俺の【暴露】はステータス2倍って言ったけど、それが上限じゃない。重要情報はいくらでもあるから、全部漏れなく暴露したら、きっと4倍くらいにはなるかな。」
「……はぁ。」
「今ので2.5倍。もう喋らないなら首を貰う。反撃なら」
「魔法を使えない奴の魔力ってどうなると思う?」
「……基本的にはアクティブスキルの運用に使われるね。『スラッシュ』や『スロー』にはそこそこの魔力が必要だ。」
「【無】属性魔法とか、聞いたことがある。」
「無理無理、【無】属性魔法は属性魔法を極めた人間が出力の向上を目指して習得する魔法だ。君には無理だよ。」
「やってみないと分からないだろ。」
「やってみなくても分かるんだよ。経験豊富だから。」
セナは力を抜いて、右手をマークに向ける。
剣の側面と、腕が平行になる。
普通なら警戒する必要はない。
しかし、確かな圧力を感じる構えに、マークは顔を強張らせる。
「【魔力砲】ぉぉぉおおおお!!!!」
「くっ!!『パリィ』!!……え?」
大きく叫んだ筈の魔法は不発だった。
魔力の奔流を湧き出し前方の敵を消し炭にするような、そんな魔法は撃たれなかった。
「残念、ハズレ。【火剣】」
たった二歩に全てを賭ける。
三歩目は無い。そこからは体重と上体だけが前に出て、雪崩れ込むように近づく。
弾き返しの空振りで虚を突かれたマークは、セナの剣の刀身が伸びていることに気づく。
火でできた、陽炎の様な頭身。
「『一閃』」