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不定期更新です。
廃れた看板ばかりが並ぶ路地の裏側。
埃と砂と汚い水があたり一面を彩るその辺獄で、1人の男が1人の女に跨り、その細い首をさらに細い手で掴んでいる。
女の顔には既に生気が無く、男の流した涙と、食いしばった歯から流れる血で汚れている。
「……信じてたのに。」
既に事切れている女には届かない、誰にも聞こえないほど小さな声で咽び泣く。
「……信じて、たのにぃ……」
男は、自分の体にみなぎる、『女から奪った力』を実感しながら、男は更に涙を流す。
崩壊した心から、感情がいくつも流れ出る。
男は、長いことそこから動けなかった。
◇◆◇
女は、身寄りのない者を奴隷として売る人間だった。
浮浪者のような少年少女を家に招き、小綺麗にして、多少の芸事を教えてから売る。
読み書きや算術ができるだけでも、値段が高くなる。
そうして、女が目をつけた少年、セナは、女に拾われ、風呂に入れられ、衣服を与えられ、軽い知能テストを受けた。
元から、教養自体は孤児にしてはある方のセナを、これは僥倖とばかりに売りに行こうとしたため、非力で争いごとも不得手なセナに不意をつかれ、死ぬことになった。
不意をつかれたというのは、適切じゃない。
これまで、地獄のような境遇でもがいた彼の中で、いくつもの裏切りを経たことで開花した才能があった。
それは【固有スキル】と呼ばれる、唯一無二の秘宝。
一つ持てば、一代限りではあるが名誉伯として名が知られるほどのもの。
セナはそんな【固有スキル】を、五つ持っていた。
今までは、それらのスキルが互いに干渉し、セナの不運を後押ししていたが、覚醒したセナの【固有スキル】は、セナの思うがままに、セナの事を強くする。
その一つが、【究極的暴君】。
これにより、セナは女からスキルや魔法の適正、身体機能までもを奪い取った。
見た目は孤児のヒョロヒョロだが、その実、非力な方の人間2人分くらいの力はある。
そして、女が持っていたスキル『鑑定』レベル3が使えるようになり、魔法への適正【火】と【水】を手に入れた。
セナは心に誓う。誰も信じないことを。
◇◆◇
セナが入り込んだのは、浮浪者の溜まり場、そこでは複数の人間がひしめき合い、食い物を奪い合っている。
この国ではよくある光景。
その彼らは、1人数個程度のスキルをもっているし、それぞれステータスも多くはないがある方だ。
セナは、女から奪った銀貨をその場に落として見せる。
「銀貨!!これがあれば!」
「また冒険者としてもやっていける!」
「俺のだ!俺の!俺の!」
哀れな集団を見ながら、セナは一人一人に触れていく。
ステータスも、スキルも、属性も、全てを奪う。
そうなったら、揉み合いの集団から、少しずつ死者が出る。
殴るから、押し合うから、締め合うから、体力が一桁になったことにすら気づかない浮浪者達は、死に絶えていく。
「最後の1人……」
「なん、どうしたんだ!?なにが!」
「じゃあな。」
十数人の力を奪い取った結果、セナはある程度の力を手に入れた。
「どうでもいい、もう、どうでも。みんな、死ねばいい。」
その目に映る世界の醜さたるや。
世界の希望になり得る筈だったセナ・カルハートの心は今、完全に壊れてしまった。
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