5 回復魔法〜
「首吊りって苦しくないらしいのよ。でも、自殺よね?やっぱり飛び降りかしら。これならエリアがよろけて突き落としてくれたら良いし……」
「ラン、あの、新しいお茶なんだけど、すごく良い香りなの。精神を前向きにするハーブなんだって。お父様に頼んで取り寄せてもらったのよ。」
「あ、そうね。ハーブや生薬系なら誤って飲んで心臓発作とかできそう。そう言うのは取り寄せてもらえないかしら?こっそり盛ってくれれば自殺にならないし。」
「ええっと、……あ、このお菓子、最近流行りなの。ジャムが入ってるクッキーなんだけど、いろんなジャムが入ってて綺麗でしょう?味も抜群なのよ。日本でもこんな美味しいお菓子食べられなかったわ。」
「ジャムのお菓子なんてどうせ似たような味でしょう?それより、日本のお菓子って美味しいんでしょうね。オーロラを固めたお菓子はあるかしら?」
「ええっと、本物を希望ならこの国の魔法使いに研究させた方が良いと思うわ。それっぽいもので良ければ砂糖菓子であった気がするけど。」
「ああ、早く行きたいわ……」
「待って!嫌よ。ひとりにしないで!」
「エリアは一人じゃないでしょ?家族もカイリーもこれからセルアにも愛される予定なんでしょ?」
「そうだけど、でも、でも、この世界でたった一人の転生者だと思ってた頃、誰がいても何をしてても、なんだか心の隙間が埋まらなくて。やっと心の隙間が埋まったのよ。私、ランが居ないと嫌なの!!」
紫の瞳が涙を溜めて見つめてくる。貴方、私も攻略しようとしてない?ヒロイン恐るべしだわ。そのまま、もしゃもしゃとクッキーを食べ始め、アイスティーをあおってから、彼女は、また話し始めた。
「オーロラのお菓子が欲しいなら研究させるわ。カイリーが好きならもちろん応援する。セルア様が好きなら、えーっと、私が第二夫人でも我慢する!分かる?私は貴方がそれくらい好きなの!!死ぬなんて言わないで!!」
言ってない私が悪いけど、セルアは実の弟です。
魔物を殺しまくったせいか死ぬのが全然怖くない私と違ってエリアは人が死ぬのが本当に怖いみたい。第一夫人の座を譲るなんて言ってしまうくらいだから相当なんだろうな。
「そうだわ!貴方の傷を治す方法を探しましょうよ。綺麗な顔になれば死のうなんて思わなくなるわ。ランって綺麗な顔してたでしょ?鼻のパーツを綺麗にして、腫れとか頬骨が歪んだ感じとか抜いたら綺麗になるもの。」
「え、あ、ありがとう。でも、無理よ。聖女なんかやってると、最高の魔法使い達が神殿に集まって回復してくれたりするの。それで治らないんだもの。」
だからこそ、次の人生に賭けたいのよ。顔も家族も修復不能なくらい壊れているもの。
「そこで、私の知識が役に立つのよ。知られていないけど、この世界で最高の回復魔法の使い手はセルア様なの!セルア様に相談しましょうよ。きっと少しくらいマシになるわ!!」
弟よ。立派になったのね。あの子、戦士系かと思ったけど、回復魔法極めてたのか……
その後もエリアの迫力と泣き落としに押されて、私はセルアに診てもらうことに同意していた。弟には会いたいし、エリアに協力することになったし、まあ、良いでしょう。
エリアと分かれて部屋へ戻ろうと庭を歩いていたら夕日が綺麗になってきたので、ちょっと足を止めて……ん?
「こうやって話すのも久しぶりだな。」
カイリーが誰かと話しているのを見つけた。
「ああ。話したい事は多いが、わざわざ忍んで来たんだ。まずは教えろ。あの女をどうするつもりだ?」
あの女??
「第二妃にする。子供が2人産まれたらすぐ離別して神殿に帰す。」
うわ。私のことだ。はは……本当、この人生嫌だわ。子供とも引き離されるわけね。
「それから?」
「それだけだ。」
「それなら神殿ではなく、俺のところに送れ。刻んでやる。」
え?!き、刻む!!切り刻む系??私、あんたにどんだけ恨まれてるの?!ていうか、誰??
「そこまでする必要はないだろう?憎い相手とは言え世界を守ってくれた聖女だぞ。」
「何が聖女だ。あいつは悪魔だ。役目も終わったことだし、心臓を抉り出してルーアの墓に供えてやる。」
お、弟!!セルアなの?!で、でも、面影全然ないわね。小さくてちょこちょこしてて、金髪で青い目の可愛い弟だったのに。結構デカいし、後ろ姿だけど、黒髪だ。染めたのかしら?なんだか不自然な黒だし。
「誰だ!!」
ぎゃ!!
「ああ、元聖女様か。」
目が怖い。特に弟のめが怖すぎる。立派になったと思ったけど、闇落ち感が凄いわ。肌が、白いのに、モヤっとしたものが漂っているようで、薄ら黒く見える。青い目が昔より寒色が強くて、睨まれると無茶苦茶怖い。
「あ、お邪魔してしまいまして申し訳ございません。部屋に戻るところで夕日を見ていました。」
「初めてお会いいたします。グリーンエイジのセルア・エインです。カイリーとは幼馴染ですので、これから時々お会いすることになるでしょう。」
目が笑っていない笑顔になって、我が弟、セルア王は優雅に挨拶した。
「我々は部屋で飲もうと思いますので、元聖女様もどうぞ部屋にお戻りください。」
カイリーが気まずそうに言うが、セルアがちょっと待てと止める。怖いわ〜!
「少しお待ちを。噂には聞いていましたが、お顔を隠しておられますね。きっとお美しいお顔をカイリー以外に見せないためでしょう?私はカイリーの親友を自負しておりますので、少しでもお見せいただけませんか?」
うわー。嫌なやつ。人の顔がぐちゃぐちゃなの知ってて言うのね。別に見せても良いんだけどね。きっと私だって分からないわよね。それが一番ショックだわ。あ、でも、私も分からなかったし、お互い様か。
私がベールに手をかけると、カイリーが止めた。
「セルア、やめろ。親友は既に酔っているのでしょう。許してやってください。」
「ああ、そうだな。」
セルアは私がベールを取ろうとしたのに驚いたようだ。元々隠してなかったから、見られても良いのよ。そこにいるカイリーからベール被れと言われてやってるだけで。
私はお辞儀をして部屋へ戻った。もちろん、弟に会ったんだから色々話したかった。私は生きてると言いたかった。
でもねー。明らかに敵意向けられてるからなあ。下手に貴方の姉よ。生きてたのよ。とか言って、ブチギレられたら精神的に立ち直れない。私が騙してた訳だしね。お父様とお母様がいなくなった時、私はこの子のそばに行かなかった。多分行こうとしても、行けなかったけど、立派な聖女になる為に無理に行きたいとも言わなかった。
つまり、私は聖女と天秤にかけて、この子を捨てたのよね。泣きたい。
私は部屋に戻ってズーンと落ち込んだ後、もう少し、建設的になろうと思った。気になるのはあの子の髪の色と肌の色。生まれつきの色ではないし、不意に霧のように揺らぐ。あれは多分、闇の魔法とか魔物由来だ。魔物に憑かれて困ってるなら何とかしてあげたい。
でも、私は力を使い切った。
うーん。あ!そうだわ。精霊魔法とかそういう相手の力を借りるやつはどうかしら?ええっと、それ系の本も持ってきたはず。私は荷物をガサガサ探し、御目当ての本を見つけた。力を使い切ったからこういうのは勉強しようと思って買ったのよね。忘れてたわ。
私はパラパラと本をめくった。なになに。精霊や魔物との契約は術師の魔力を……無いって言ってるでしょ!!
えーっと、魔力を持たない場合は死後の魂との交換……私は日本というパラダイスに行きたいの!どうして、死後まで悪魔の奴隷にならなきゃいけないの?!
他には……魅了という方法があります。ふむふむ。美しい容姿で……この本、叩きつけて良い?
はあ、美しい容姿を持たない場合は、美しい歌声、美しい演奏など……おお!これならいけるかも。別に音楽が得意なわけじゃないけど、練習してみれば才能があるかもしれない。
例が載ってるわ。髪の毛ハープか。なるほど、自分の髪の毛を木の枝に張って弾くことで精霊と魔物を従えた例があるのね。ちょっと気持ち悪いけど、ん?これ、お婆様じゃない!!
ああ、お婆様!力を使い果たして、顔も崩れて、愛もない結婚をさせられたのに、こんな方法で頑張ってたのね。
ちょっと待ってよ、それなら、お婆様の手記に書いてあるんじゃない??きっと私が持ち出したやつの続きがあるんだわ。グリーンエイジに帰って探してみたい。
こうなったら、大神官に手紙を書こう!やっぱり、セルアに私が生きていることを説明してもらうの。きっと我が弟は待っててくれたはず。多分。あ、あと、エリアにセルアがいること言っておこうかしら。
私は大神官に手紙を書いて送り、エリアにセルアが来ていることを書いた手紙を侍女に渡してもらった。
数日後、エリアからはセルアに会えたことを嬉しそうに報告され、大神官からはセルアには一度伝えようとしたが、二度と姉を話題にするなと言われて話せなかったと返事が来た。大神官、アンタのことは正式に役立たずと呼ばせてもらうわ!




