ショート 輪郭
今日も彼は私の顔を見つめる。
つい最近までは忙しいと言いながら、他の仕事に打ち込んでいた。
「ごめんな、あまり構ってやれなくて。今日はじっくりと……お前だけに集中する」
彼の指が私に触れる。
表面に、そっと。
指先は徐々に私の輪郭をなぞり、確かめるような指使いが少しずつ勢いを増していく。
優しい笑顔は難しそうな顔になったり、目を閉じたままうつむいたり。
それでも私から指を離そうとはしない。
私の心はその指の動きひとつで左右される。
私は黙ったまま、彼の顔を見つめつづける。
「コーヒー、淹れてくるか」
彼が立ち上がり、私から離れてゆく。
何も考えられない。
私が考えることを、彼は許してくれない。
俺が決めることだから、君は身を委ねてくれるだけでいい。
そう言ってくれているような、楽しくて、嬉しい時間。
「出来た……のか」
自分でも信じられないという表情の後、幸せそうな顔になる、あなたに。
好きだと伝えたい。
私の全身をもう一度見て、感慨深げにうなずくあなたを見ているだけで、私も幸せ。
他の人になんて見てほしくないけれど、あなたが望むのなら。
私は、私達は今日も人の手に触れる。
あなた以外の手。
あなたが私にくれた名前を呼びながら、彼らは言うの。
「とても綺麗で、繊細な物語」